大好きだったあの人vol.25



アタシのコトを気に入る客は、アタシがお店で見せてる「世間知らずなちょっと危なっかしいお嬢様」な雰囲気に釣られてた。

だからプライベートデートでは、素のままのアタシを見せるコトにしてた。

言い切るような物言い、なんでも知ってるっていうようなしたり顔、冷笑。

そんな雰囲気を見せるだけで
「アレ?なんかこの子、違う」
と、大抵のお客様が二度目のプライベートデートはないな、と思ってくれる。


でもこのオトコは違った。

「なんだよ、店での雰囲気は演技かよ。
どおりでオカシイと思ったよ」

いつも通りいかない。

「ソレ、オレにだけ見せてんだろ?」

アンタだけじゃない。

「まあ、ママもオマエの友達もキッツイもんなぁ。
オマエまでイキってたら、あの店、もたねーよな」

なんでも知ってるみたいに言うな。

「キツいオマエも可愛いからいいけど」

「…ありがとうございます」

アタシはもう苦笑いしか出ない。

「ワザとバカぶってるとか、カッコいいなオマエ」

「カッコ良くはないかと思いますが」

「本当にアタマ悪いオンナにはバカのフリなんてできねーよ」

ダメだ、何を言っても、どう振る舞っても、コイツには通用しない。


「ane、オマエ、辛口の酒好きだっただろ?
コレ飲んでみろよ、『八海山』。
旨いゾ」

アタシは日本酒は悪酔いする。

嫌いではないのだが、すぐに気持ち悪くなり、そのまま眠ったりするので、自宅でしか飲まない事にしてた。

「ごめんなさい、アタシ、日本酒苦手なんです」

「スッキリしてて飲み良いから、一度飲んでみろ」

気持ち悪くなる姿見せれば、幻滅してくれるかもしれない。
だって、日本酒飲んで気持ち悪くなるなんてカッコいいオンナのするコトじゃない。
アタシは飲むコトにした。

案の定、一合も飲まないうちに気持ち悪くなる。

「ごめんなさい、ちょっと気持ち悪いので今日はもう帰らせてください」


自宅まで送ってくれるという。

途中、タクシーの中でどうにも我慢ならない吐き気に襲われる。

「スミマセン、ホントに気持ち悪い…
運転手さん、そこの公園で停めてください」

「待て待て、オレのオフィス、そこだから!
そこまで我慢しろ!」


アイツのオフィスでトイレを借りる。

さすがに酒に呑まれてゲロ吐くオンナなんか、イヤになっただろう。
そう考えたアタシはすっかり油断してた。

「ご迷惑おかけしました」

「スッキリしたか?
お水持ってくるからそこのソファー座ってろ」

アタシは応接セットの来客用ソファーに腰掛けた。

お水を一気飲みし、
「ありがとうございました、ここから近いので、歩いて帰りますね」と言おうとしたその時、アイツはアタシに襲いかかってきた。

なんてコトだ…

まさかそんな展開になるだなんて予想してなかった。

サカるオトコの前では、ゲロ吐いたぐらいじゃ、なんの攻撃にもなりゃしなかったんだ。

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