先輩へ




昔、カフェで働いていた。


そんなに大きくない、小さなカフェ。


みんな仲が良くてアットホームな職場だった。




その中でも特に可愛がってくれていた先輩。




48歳で2児の息子を持つお母さん。

















突然すぎる訃報だった。


























ある日、仲良くしていた元同僚から連絡が来た。



「お疲れ!急な連絡でごめん。この事を伝えないのは何か違うと思って、一応俺から伝えます」










先輩が亡くなりました。









その1行。
たった1行が理解できなかった。読めなかった。












その時は友人とハンバーガーを食べていて。

そのあとパフェでも食うかーって言っていて。



夜は違う友人と少しお洒落なカフェを予約していた。










人間、不思議なもので。

信じたくないことが起こると、勝手に現実逃避をする。



憧れていた先輩が亡くなったのに、



友人と普通にハンバーガーを食べていた。

友人と、最近の話をして笑っていた。






憧れていた、尊敬していた先輩が亡くなったのに。


















先輩は、自分にとって第2のお母さんみたいな存在で、

自分に厳しく、他人にも厳しい人だった。



人のことをよく見ていて、人間観察が趣味で、

人のことが大好きな人だった。



どこに行っても明るくて楽しくて面白くて、

出会った人皆から好かれてる人だった。



褒め上手で、沢山の褒め言葉が書いてある手紙を何度もくれる人だった。



接客のお仕事が天職な人だった。
















神様は残酷だ。

そんな素敵な、凄い人をこんなにも早く旅立たせるなんて。



















連絡をもらってから3日間、信じたくなくて誰にも言えずに1人で抱え込んだ。


朝起きてからも、仕事中も、夜寝る前も、泣いた。
ふとした時に先輩との思い出が蘇って、泣いた。

先輩の声が幻聴のように頭に響いて、涙が止まらなかった。







嫌だった。

信じたくなかった。



この世にもう先輩がいないなんて。



もう会えないなんて。声も聞けないなんて。


信じたくなくて、実感も湧かなくて、苦しくて辛くて。





でも新聞には先輩の名前がしっかり書いてあって。





あぁ、本当なんだなって。ほんの少しだけ思った。






こんなにも感情が乱れることがあるんだなって思った。















訃報を聞いて4日が経って、やっと抱え込んでたものを口に出した。



口に出した瞬間、涙が溢れて止まらなくて。



なんで病気のことを言ってくれなかったんだ。
なんで皆に隠してたんだ。
なんでもっと連絡をしなかったんだ。


なんで、 なんで死んじゃったんだ。




苦しくて辛くて悔しい。




言葉と涙が止まらなかった。






強がる人だったから、心配かけたくなくて言わなかったんだろうなって分かってるけど。でも。






残された自分らのことも考えてほしかった。





声が聞きたい。
またいつか、一緒に働きたかった。
今の職場の相談にも乗ってほしかった。



ねぇ、先輩。



残された側はもう全部叶えられないんだよ。
















先輩の訃報を聞いて1週間が経った頃。



元職場に顔を出した。



皆、元気が無かった。
でも皆、前を向こうと頑張ってた。




きっと、ここに先輩はいる。
ここで自分らのことを見守ってくれている。




そう言われた。




自分はそんな風に考えられなくて。

先輩に会いたい気持ちがずっとあって。



でもその姿を先輩が見ているとしたら。



「何そんなしんみりしてんの!そんな事考えてるんだったらお化けとして出るよ!」



なんて言われちゃうかな。















色んな人に抱え込んでたものを吐き出して、少しずつだけど気持ちの整理をつけていった。











1年半経った今でも実感が湧かない。





カフェに顔を出せば、いる気がしてならない。











でも、もう会えない。声も聞けない。

それが、今生の別れ。
















この間、先輩がいなくなってから初めて手紙を読み返した。




沢山の褒め言葉。自分のいい所。

先輩の言葉が文字として残っていた。




また涙が出てた。



でも仕方ない。
これが先輩からの最後の贈り物なんだから。









もう先輩には会えない。自分がそこに行かない限り。

でも先輩からの贈り物と、先輩のことが好きな人たちと先輩の話をしながら少しずつ前を向いていくしかない。







すごい人だったから、たくさんの伝説があるからね。






これからもその伝説を、先輩のことが好きな人たちと語り継いでいくよ。






先輩から学んできたことも今の職場で活かしていくよ。












頑張って前を向いていくから
先輩、見守ってくれてたら嬉しいな。







ずっとずっと、目標にさせてくださいね。先輩。



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