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「まつ毛美容液は本当に危険だし騙されないでほしい」という警報をX(Twitter)で流す素人さんの一件を解説します

点眼薬をまつ毛美容液として紹介するアフィリエイトの危険性を注意喚起する匿名美容インフルエンサーさんの投稿について

当該の投稿がこちら

昨日の夜、友人たちと呑気に食事をしていた私のXタイムラインに何やら香ばしい投稿が流れてきました。

画像内の「ビマトプロスト(一般名)」という医薬品は私も仕事でたくさん日本に出荷していますので、どれどれとちょっと覗いてみたわけです。投稿者ご本人も「長文」とおっしゃってますので端的にまとめると、このポストは3つの視点から以下のような主張を投じておりました。

① 医薬品の不適切な広告の問題

  • SNSインフルエンサーたちが緑内障・高眼圧症の治療薬を「まつ毛美容液」として、アフィリエイト報酬目的でPRしている。

  • 医薬品の推奨は医療従事者の仕事であり、インフルエンサーの仕事ではない。

② 副作用リスクの問題

  • そもそも、その点眼薬の使用によるまつ毛の増毛効果は副作用。それ以外にも重大な副作用がある。

  • インフルエンサーがこのリスクを伏せてPRするのは大きな問題。

  • 点眼薬による「まつ毛の増毛」副作用は3割程度。目は大切で、失ったら取り戻せない。

③ 供給不足の問題

  • 点眼薬を美容目的で購入することで、真に必要な人に届かない​供給不足が生じている。

  • 市販のまつ毛美容液も効果的なものは多いのでそっちを使うべき。

、、、とまぁこんな感じです。何せフォロワー300Kを超えるインフルエンサーさんの発信ですので、色んな方がそれぞれのポジションでこれに薪を焚べに参加して、回り回って全く関係ない私のアカウントにも届いてきたわけです。

主張は概ね納得できますが、いくつか事実と違う点、というかポジショントークからくるミスリードが気になったので、事情をよく知る私がフラットな立場でこの件に解説を添えておきたいと思います。短く終わらせますよ。

そこにある広告がアフィリエイトだろうが純広告だろうが、結局自分の客を増やしたい&競合の客を減らしたい利害があるわけで、こういうのは利害関係の外にある人がレビューを添えた方がよいと思うんですよね。


実はビマトプロストは「睫(まつ)毛貧毛症治療薬」として承認された立派なまつ毛用の医薬品

ひとつめ。ここが最大の論点で、かつデリケートなところです。

この方の主張では、「ビマトプロストのまつ毛増毛効果は副作用で、本来の使い方ではない。」とされています。しかし、これは解釈によっては誤りです。

なぜなら、当該の医薬品成分であるビマトプロスト0.3mgは、グラッシュビスタ(外用液剤0.03%5mL)という名称で、睫毛貧毛症(まつげひんもうしょう)の治療薬として厚生大臣による承認を受けているからです

ちなみに日本では9年前の2014年9月よりアッヴィ社から販売されています。(承認番号: 22600AMX00551000)

Googleさんのリッチリザルトでもサポートされております。

よって、「ビマトプロストのまつ毛増毛は美容効果ではなく副作用」という主張は正しいものではありません。

とはいえ主張が100%間違っているわけではない

ではどうして上記のような指摘が堂々と行われるかというと、ビマトプロストにはグラッシュビスタ以外に9種類もの承認された国内ブランドがあり、そっちは全て「緑内障、高眼圧症の治療薬」の適応で承認されているからです。

同じビマトプロストでも薬効分類番号によって以下の通り分類されます。

#2679 だと個々の器官系用医薬品 > 外皮用薬 > 毛髪用剤(発毛剤、脱毛剤、染毛剤、養毛剤) > その他の毛髪用剤(発毛剤、脱毛剤、染毛剤、養毛剤)

#1319 だと 神経系及び感覚器官用医薬品 > 眼科用剤 > その他の眼科用剤

出典: KEGG DRUG "商品一覧: ビマトプロスト"

しかも用量まで同じでどっちも1mL中ビマトプロスト0.3mg(0.03%)なんですよね。よって、どうすれば誤解を防げたかというと、もう少し正確にこういえばよかったんです。

×「①まつ毛の増毛は美容効果ではありません。【副作用】なんです。

⚪︎「この画像のニットーという点眼薬によるまつ毛増毛は美容効果ではありません。【副作用】なんです。」

さらに、「同じビマトプロスト(有効成分)を含有する点眼薬で、まつ毛を増毛する適応を承認されたグラッシュビスタという商品があります。」と補足情報があれば、とても平等な立場からの発信だったと感心できたと思います。

「ニットー」が医薬品のブランド名、「ビマトプロスト」は有効成分である一般名をさす。混同したくないところ。

この方は、インフルエンサーが副作用を伏せて自己の利益を最大化しようとする行為を「騙し」と指摘していますが、医薬品のブランド名と一般名とを混同し有利な事実のみを発信する点においてやっていることは似たようなものです。
結局は、医薬品は副作用があるから使わないで!騙されないで!というフックは、私が愛用している市販品を使って!に帰結するわけなので、丸の内某さんも根っこの部分ではポジショントークする同類なわけです。善人っぽく見せて声がでかい分私には余計気持ち悪く見えますけどね。

副作用リスクについても誤解がある

丸の内某さんは、まつ毛美容液として使うビマトプロストに関して3点の"取り返しのつかない"副作用を丁寧に紹介してくれています。これもインパクトあるので真偽の確認が必要です。

結膜色素沈着について
まずツッコミを入れるとしたらここです。というのが、これはビマトプロストを緑内障、高眼圧症治療に用いる用法用量に対する副作用で、まつ毛に塗ることを前提とした場合、副作用として記載のないものです。

副作用が現れる確率は0.1〜1%未満とされていて、使用を控えるほど考慮すべきリスクではないです。ちなみに交通事故に遭う確率が約0.2%らしいので、車に轢かれるから外出をやめよう、と同じようなレベルのリスク管理です。

眼球結膜に過剰に反応したメラニン色素が沈着したもので、遺伝、紫外線、物理的な刺激、老化などでおこると言われています。 一般的に経過観察で問題ありませんが、美容上の問題があれば、レーザーで除去、もしくは手術で切除します。

京橋クリニック

また「取り返しのつかない」と情弱を煽りますが、医師が経過観察で問題ない程度の副作用とコメントしています。あと、除去できるので取り返しはつきますね。

眼瞼炎がんけんえんについて
眼瞼炎とは薬品や化粧品などに対するかぶれやアレルギーによって眼瞼に起こる炎症です。細菌やウイルスによる感染性のケースもあります。これは市販の美容化粧品を使用しても負う可能性のある、化学物質を皮膚に塗布する際に存在する当然のリスクです。ちなみに副作用が現れる確率は2%未満。

眼瞼下垂(がんけんかすい)について
まぶたが下がってきて見にくくなる病態。原因は上まぶたを上げる筋肉の力が弱くなったり、その付着部である腱けんが弱くなったり、はがれたりすることにあり、通常はコンタクトレンズを長期装着したまま瞬きを繰り返す人に多い。放っておくと頭痛や眼精疲労につながるので早めに治療したほうがよいとされる。副作用が現れる頻度は「不明」レベル。

どうですかね。使用を完全にやめるほど考慮すべき深刻なものか否かは個人の解釈によりますが、大した問題でもないと思います。
そもそも、ビマトプロストをまつ毛美容液として使う場合は用法要領が異なるので、同じ土俵で副作用を語るのも誤解を生む原因となるはずです。

本剤は点眼剤として使用しないこと。本剤は上眼瞼辺縁部の睫毛基部にのみ塗布し、下眼瞼には使用しないこと。

「グラッシュビスタの投与経路、使用部位

1回1滴、1日1回点眼する。


「ニットー」の用法用量

指摘されている供給不足は本当に適応外利用が原因なのか?

2021年にビマトプロストの原料不足で市場で供給がストップしたことがありました。これは、私が取引しているインドの製薬工場でも似たような時期にshortageが発生していたので記憶にあります。

※まつ毛貧毛症治療(『グラッシュビスタ®』)を中止しています※ 2021.11.12更新
まつ毛貧毛症治療薬のアラガン・ジャパン社製『グラッシュビスタ®』が、現在、製造原料の一部で世界的に供給不足のため、入荷の予定が立たない状況にあります。
再入荷の予定が分かり次第、院内の掲示板やHPでお知らせいたしますので、ご確認ください。

はやし内科

ただ、この原因が「ビマトプロストをまつ毛美容目的で使う人が多すぎるから」というのが正しいかは甚だ疑問です。そんな因果関係を示しているデータは、私がリサーチした範囲では確認できませんでした。

そもそも、その適応で承認されているブランドが日本にも海外にもあるわけですし(FDAにはLatisseがまつ毛増毛で承認済)、ん〜〜、ですね。

似たような話でセクシー女優の月島さくらさんがオゼンピックの適応外利用を投稿してフルボッコにあっていましたが、自らの「正義」を盾に正論を疑うことなく集団で投げてくる方々は怖いですね。月島さんを擁護するつもりはないですが彼女は何も悪いことはしていません。この騒動については別記事で解説します。2型糖尿病の治療においてオゼンピックが唯一の選択薬ってわけでもないですからね。

最後に与太話と雑感

この丸の内何某さんの投稿に対するレスポンスでは、「副作用を知らなかった!怖い!こんなの悪だ!」といったTwitterの情報をすんなり鵜呑みにする素直な賛同者によるものと、「ビマトプロストっていう目薬をおすすめする広告を見るけど絶対やめてください!」という世直しに便乗する風紀委員タイプの方々によるもが多かった印象です。

そもそも、匿名の投稿主による「医療用点眼薬」の PRを鵜呑みにして商品を買う層のリテラシーがアレなのは言わずもがな、です。ただ東軍西軍どちらにつくにせよ、流れてくる二次三次情報を疑うことなく、有象無象取り巻くSNSの情報を鵜呑みにし、それぞれ自由に薪をくべて盛り上がる様子を見ながら「なんだかなぁ、、」という気持ちになりました。

結局この元の投稿主である丸の内何某さんも、市販の商品を販売する企業のPR案件を受けてアカウントを運営しているわけですし、結局みんなポジショントークなわけですから。溢れる感情も混ざって若干ミスリーディングな部分があるわけです。

この見当違いな一言がなければもうちょっと共感できてたかもしれん。。(筆者)

また、副作用リスクを伏せるからやってはいけないわけではなく、適応外の効果効能を宣伝することがやってはいけないことなんですよね。そもそも。リスクを伏せる伏せないは倫理観の問題です。医薬品のアフィリエイトに関しては薬機法に詳しくなるほか対策はないです。ここも未承認薬の広告という社会問題があるので今度別の記事で詳しく書きます。

この方は唯一カウンターをやんわり入れておられました。どのように未承認薬を買われているのか興味ありますね。

ともかく、アフィリエイトリンクで違法ステマする最下層(カス)インフルエンサーを、純広告しか受けないパワーインフルエンサーの「私の正義」がボコしている図にどきどきを隠せませんでした。金曜の夜に味わい深い光景が見れて満足です。

それでは、明日からもそれぞれ持ち場を弁えて頑張りましょう。
長文失礼いたしました。
















それはそうと問題のビマトプロストをアフィリエイト案件として提供している広告主ですが、

オーロラクリニックさんというところが大きいマーチャントとしては有名みたいです。アフィビーの案件みたいですが真偽が確認できたらまた追って詳しく書きます。

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