絵本「がっこうにまにあわない」
まるで飛び出す絵本かと思うほど、絵に迫力があります。
文字通り、本の枠から絵がはみ出るように描かれています。
そして、ちょっと南国テイストなカラフルさがあります。
言葉にも迫力があります。
たとえば、全力で学校に向かって走る様子を、
と表現しています。
読み手に切迫感が伝わってきます。
家を飛び出した時点で七時四十七分。
ある特別な理由があって、八時までにぜったいに学校に着かなければいけないのに、そんな日に限って寝坊をしてしまいました。
それを挽回しようと走りに走る男の子。
それなのに、ゆくてにはじゃまするものばかり。
見開き二ページに、一分単位でその様子が描かれています。
読んでいる私まで、まるで夢の中で走っている時みたいに、ふわふわ足が空回りして、焦燥感がつのっていきます。
例えば、怖い犬が登場する場面では、犬が、リードを持っている人間の何倍もの大きさで描かれています。
男の子の犬に対する恐怖の大きさをあらわしているのだと思いますが、こういう感覚も夢の中でよく遭遇します。
いつのまにか男の子に乗り移って、自分が息を切らしている錯覚さえ覚えます。
絵と文字で、焦っているときの人間の心理が浮き彫りにされています。
さて、男の子はどうして八時までに学校に着かなければ行けなかったのでしょうか。
ヒントは、二〇一二年にあったある天体現象です。
この年のその現象が観察されたまさにその日に、私の父がこの世を去りました。そのことが瞬時に思い出されて、絵本を読み終えたとき、あの日に向かってふわふわ走り出しそうな気持ちになりました。
ぜひ、手にとってこの焦燥感を味わってみて下さい。その先に、思わぬ満足感があります。
注:ザ・キャビンカンパニーは、阿部健太朗と吉岡紗希による二人組の絵本作家です。
後日追記-2023年9月13日
感想を書いた一連の絵本は、実はいづれも、第28回日本絵本賞の最終候補に残った作品ばかりでした。
そして、めでたく絵本賞に輝いた三作のうちの一冊が、まさにこの作品でした。
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