無題

2つの地域で作るローカルメディア「SとN」制作者インタビュー (後編)

こんにちは、「〇〇と鎌倉」の狩野です。前回は、ローカルメディア「SとN」編集統括を務める西日本新聞社 末崎光裕さんに、佐賀県と長崎県のふたつの県でつくるメディアの形についてインタビューしました。

ー 福岡に拠点を置く末崎さんは、九州内の各地域と福岡をつなぐ「〇〇と福岡」の構想もあるということですが!?

末崎:そもそも「〇〇と鎌倉」って、すごいタイトルですよね。土地の名前が2つ連なってるだけなんですが、一瞬で自分ごとになるというか、このペーパーと関わりが生まれます。こんなにシンプルなのに、なにこのインパクト、、、って正直嫉妬しました(笑)だからこそ安易に「〇〇と福岡」と言うのは失礼だと思っているのですが、このタイトルのおかげで着想が構想になっていきました。

九州では多くの地域の人たちが、一大都市である福岡の人たちに来てほしい、産品を買ってほしい、という思いを持っています。ただ、その方法が総じてガイドブック的になっているのが現状です。その中で、「五島と鎌倉」「阿久根と鎌倉」のようなふたつの地域で対話をしながら、同じ時間や場所を共有していくようなメディアをきっかけに、売り手と買い手がつながっていくような流れをつくれないかと思っているんです。
(↓「五島と鎌倉」表紙)

― ほめていただきありがとうございます(笑)。フラットに地域と地域がつながったらなぁという思いもあって、並列につなぎました。「SとN」も同じ構造ですけどね(笑)。
地域間交流の魅力のひとつは、他の地域や文化を知ることが結果的に地元を見直すことにつながる点だと思っています。行政に携わる人から住民個人レベルまでが交流を通じて新たな発見ができることに価値を感じています。

末崎:ぐるっとまわって足元を見直す、というのは良いですね。外に向けて一生懸命PRすることばかり考えて、地元の方を向いていない地域は結構多いですよね。例えば、あるブランド野菜は対外的にPRされてきたけれど、実は地元の人は地元でそんなにおいしい野菜が採れることを全く認識していないという現状があります。右に倣えで「うちも〇〇せねば」では続かないと思うんですよね。

地域資源にいかに付加価値をつけ、外に向けて売っていくのかというのはどの自治体にとっても大きなテーマですが、それが必ずしも唯一の解ではないはず。パッケージや販促にお金やエネルギーをかけて、遠くまで運んで売るよりも、近隣地域内で消費される方法を考える方が合理的な場合もあるかもしれません。鎌倉に暮らしていても感じることですが、消費者の価値観も変化していて、スーパーで年中あらゆる食材が手に入る便利さよりも、地元の旬の食材で生活ができる豊かさに価値を見出す人が増えてきているように感じます。地域によってやり方はたくさんあるはずなので、暗黙の「みんなやってるからうちも〇〇せねば」からそろそろ解放されていいのかもしれないですね。(↓ 鎌倉野菜が並ぶ「鎌倉市農協連即売所」通称レンバイ)

ー末崎さんが、地域間交流というテーマで取り組みたいことはありますか?

末崎新聞輪転機と宅配網を持っている新聞社の強みを活かしたタブロイドメディアを作ることが決まりました。地域(自治体や諸団体)と連携して制作したものを、私たちの強いネットワークがある福岡都市圏の各家庭と各地域(地元)に配布しようと進めているところです。外向けも内向けも、伝えるべきこと、書くべきことは同じなんじゃないかと。
加えて、これまで市町村ごとにそれぞれ進めていた施策を、複数の市町村で壁を越えて一緒にやってみませんか? という提案を外部から持っていきたいんです。色々な歴史があって分断した
地域があることもわかっているのですが、同じ山系の恵みを得ていたり、方言や食や祭りなどの文化もほぼ同じで、課題も似ていますよね。メディアや物語の力で地域と地域を接着する、そんな役割を担えたらいいなと思っています。それぞれの地域の魅力を福岡都市圏の人に知ってほしいという思いと、地元の人同士がつながってほしいという思いがあって、これを両方叶えられたら本望です。

― 近い課題があるような地域同士がそれらを共有し、連携して解決方法を探っていくことの重要性や可能性には多くの人たちが気づき始めていると思います。ただ、市町村の枠を超えた地域間交流はどうすれば実現できるのか?というHOWのロールモデルがあまりに少ないのが現状だと思っています。その中で、地域間交流のひとつの入口としてフリーペーパーづくりはとても良いと思っています。

末崎
:そうですよね。交流する地域の人たちにとって良いのは、外からの目線があり、さらに人と人が絡み合うような設計がされていることだと思います。例えば「〇〇と鎌倉」の場合、鎌倉という有名な場所との交流はモチベーションになると思いますし、例えば五島や阿久根の人が旅に出るとなった時に「鎌倉に行こう」という話にもなりそうですよね。

― フリーペーパーの場合、その場で手に取れるということも地域の人にとっては良いですよね

末崎:即時性の高い動画やSNSも必要でしょうけれど、紙媒体は目の前に現物としてあるもの。つまり、いいもの・気になるものか、取るに足らないものかがはっきりするんです。地域の方々と一緒に現場で人に取材をし、ああだこうだ言いながら編み、原稿を書き、誌面を作ります。地域を書く、人を書くということは当然パブリック性を求められますし、だからこそ制作陣の名前もきちんと示します。ここまでが基盤であって、結局は出来上がったページの上になにが載っているかですね。読み手にとっているか、いらないか。それがうまくいけば、紙は記憶に残りやすい媒体だと思うんです

ー 自治体同士がノウハウを共有したり、地域と地域をつないでいく上でメディアが果たせる機能は大きいと思っています。”2つの地域でメディアをつくる”ということを一緒にムーブメントにできたら、何か面白いことが起きそうじゃないですか?

末崎:単一自治体の予算で自分のところだけPRをするのではなく、他の地域とつながり、仲間や輪を広げて声を遠くまで飛ばすような事業が増えていると思います。やはり人の縁は大きいですよね。複数地域で紙媒体をつくる面白さもそこにあると思います。地域間交流・連携を会社の事業にして、もっとたくさんの地域を回れるようにしたいと思っています。”2つの地域でメディアをつくる”というコンセプトつながりで、今後一緒にイベントや展覧会などができたらいいですね!

末崎さんへのインタビューを通じて、地域間交流・連携におけるメディアの役割を改めて感じました。今後は、「自分たちにもつくれる」と各地域に思ってもらえるような取り組みも進めていきたいと思っています。姉妹都市などですでに交流を行っている地域間でも、メディアをつくることで新たなレイヤーの人たちを巻き込むことができるかもしれません。

2地域でのメディアづくりに興味がある方は、気軽に「○〇と鎌倉」まで問合せください!

末崎光裕
西日本新聞社 出版部次長。新卒で福岡のタウン誌で働くも、情報の速さやボリュームを競う時代に合わず、27歳からフリーランスに。その後編集プロダクションをはじめる。2006年に「ブックオカ」を有志で立ち上げ、「福岡を本の街へ」「本と人と街をどうつなげていくか」をテーマに各種活動を行ってきた。同年に創刊された無料の地域文化誌「雲のうえ」を読んで、「自分がやりたかったのはこういうことだった」という悔しさとともに、アートディレクレクションの魅力を知り、2007年に「有山達也 装幀、雑誌のしごと展」を企画する。その他にも、本と街に関わるさまざまな企画・編集に携わっている。手がけた本に「ペコロスの母に会いに行く」「戦争とおはぎとグリンピース」「本屋がなくなったら、困るじゃないか」「大分県のしいたけ料理の方」「雲のうえ 一号から五号」など。


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