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メルカリ、見知らぬ先輩

【先程受け取りました。迅速なご対応、ありがとうございました。サイズ、デザイン、風合い、とても気に入りました。子育ては大変だと思いますが、頑張って下さい。私はとっくに卒業した者です。またご縁がありましたら宜しくお願いします。】

子どもが産まれたあと、一変する生活の中で、メルカリは私の癒しだった。

なかなか長く寝ない子で、私も初めてだったから、自分の時間は本当に無かった。夕方頃に大泣きの末、ソファの授乳で寝落ちたら、出来るだけ長く寝てもらおうと、私はなんとかその姿勢を保ち、携帯でしばしの1人時間に没入した。

メルカリは、ベビーグッズを買うのが始めたキッカケだった。そして可愛い子ども服を数百円で買うのが楽しみに。元々古着屋めぐりが好きな私にとって、自由に行動できない生活の中で、沢山の可愛い古着を目にできるという大きな癒し。やっと寝た子どもを抱えながら、脳内古着散歩へ出かけるのが楽しみだった。陽が落ちた後の真っ暗なリビングで、携帯の画面だけが煌々と光っていた。

そして子どもが自分でも動き回るようになり、私も少しずつ子育てと自分のペースの模索に入り始めた。そして段々と自分のものも出品するようになった。物にまみれた魔窟生活は割と好きだったし、断捨離が流行った時も全く興味無しだったけど、なんだか自分を更新させたくなったのだ。

そんな中、お気に入りだったレザージャケットを出品した。

そのレザージャケットは、私が仕事を始めた20代初めの頃に、好きなカジュアルブランドのお店でたまたま見つけたもの。柔らかい山羊皮、ラムレザーで、裏地は心地よいコットン、腕を通すところはスムーズになるようにレーヨンで。丈感も好み。シンプルながら美しいパターンは身体に気持ちよくフィットして、とても綺麗に凛とした姿に見えた。ちゃんと両脇にポケットがあるのも申し分無しで、当時の私にはお高めの買い物だったけど、これは出会いだと思って思い切って買ったのだった。

それから大切な時に何度か着て、クローゼットにいつもあった。何度もの服の入れ替え(売ったり処分したり)にもいつもその選択には逃れ、残り続けていたけれど、今回思い切って手放してみようと思ったのだ。

メルカリの商品説明に、このジャケットの素晴らしさを書き連ね、状態と年月が経っているのを考慮しつつ、売れ残ってもいいなという程々の価格で出品。ほどなくして、コメントなどもなく購入された。特に細かなメッセージのやりとりは無かったと思う。(…あぁ売れちゃったな…)と思いながら丁寧に梱包して発送した。

そして最後の受け取り評価の際に、購入者さんから届いたのが冒頭のメッセージだったのだ。

こざっぱりとした短い文の中に、優しさが詰まっているように感じて、私は泣いてしまった。

「サイズ、デザイン、風合い、どれも気に入った」と言ってもらって、購入時の頃---ひとり自由気ままだったあの時の自分の価値観を認めてもらえた気がした。まだ母ではない頃の、唯の自分を、いいねって思うよって、肯定してもらえたような。そんな。

そして私のプロフィール文から子育て中な事を知ったのだろう、「子育ては大変だと思うけど、頑張って下さい」と。こういう言葉って、昨今軽く言いづらい風潮にもなってきているように感じるのだけど、私はシンプルに嬉しかった。子育て初めの、孤立する夕方の闇に、揺るがない誰かが舞い降りて来てくれたようだった。見知らぬ人だったからこそ、かもしれない。

実際のお歳は分からないけど、子育てをとっくに卒業したと書いてあるから、結構年上だろうな。私はその世代の人達が気軽に言う「頑張ってね」が結構好きだ。頑張ってと気軽に言うなとか、頑張らない良さとか、色々あるんだけど、やっぱり誰かのために頑張る時や頑張りたい時はあって、それは苦しいだけでは無い、と信じたい。それに、だいたいの「頑張って」は「応援してます」と言いたかったんじゃないかなって思うのだよな。だから放り投げられた言葉より温かく感じるのかな。

どこにでも煌めく出会いはあるんだなと思った。それは一瞬のことでも、長く心を照らしてくれるような。

もうコンタクトを取れる相手ではないけれど、心からありがとうございました。と、度々、思い起こしています。


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