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【vol.35】少女は卒業しないし私は春を退ける

「あの頃、ここが世界のすべてだった」

先日、『少女は卒業しない』という映画を観てきた。原作・朝井リョウ、主演・河合優実の青春(?)群像劇である。4人のメインキャストと共に、ひとつの「卒業」の形を創り上げる。


僕は高校生活、大した思い出はない。友達もほとんど居なかったし、高校生らしいことをした記憶がない。しかし、恋はしていた。一年生の頃『All You Need Is Kill』という映画を観たあとに告白してそこから三年間を共に過ごした人がいた。大きな記憶といえばそれくらいである。

映画のシーンが移り変わる度に所々で当時の記憶の鱗片が脳内に溢れ出す。素敵な記憶もあれば、思い出したくないような記憶もしばしば。いや、しばしばどころではないな。黒歴史の方が圧倒的に多いような気がする。
当時の自分は世間のことなど何も知らず呑気に自分だけの、目の前だけのことに集中しすぎていた。そんなことでいっぱいいっぱいになっていた。そう考えられるくらいには大人になれたのかな。もしくはならざるを得なかったのか。社会というものは酷く残酷である。


映画の終盤に近づき、ついに卒業式が終わる。
ネタバレになるので言えないが、卒業式直後に流れ出す音楽、楽しげに門出を祝う学生、満開の桜。
あたかも全ての人間が幸せかのような雰囲気。
私の中に溢れ出す嫌悪感。
最悪で最高の演出だった。

この無差別にめでたさを与える春がどうしても苦手だ。どんなに絶望を抱えていても世の中の幸せオーラはとどまることをしらない。
私が愛でている花や植物たちは元気になるし美しく咲き、可憐な香りを漂わす。そういう部分は大好きだがメンタル面ではこの季節が一番苦しい。

おそらく捻くれている思想なので共感を得られることもないだろうと他人に話したことはほとんどないのだがこの場くらいは記しても許してもらえるだろう。許してください。

そんな苦しみを、私以外の人たちも感じ取れるであろうシーンがこの映画にはある。
事前情報を得ずにこの映画を観に行ったので、もっと青春キラキラムービーなのかと思っていた。朝井リョウ原作なのでもちろんそんなことはないのだろうけど。
青春キラキラムービーじゃなくて良かった〜。

というわけで、私の春に対する嫌悪感を今回は記させていただいた。
共感してもらえるなんて思っていないししてもらわなくていいんだけど、幸せオーラを押し付けないでよ。「私は幸せ!」でもいいけど、だからと言ってみんながみんなあなたと同じ価値観で生きていないんだよ。
「私は〇〇だと思うけどあなたは〇〇だと思っているのね、面白いね」でいいのにね。SDGsとか言いつつ目に見えない部分は認めようとしない自称意識高め(笑)の人たち、大嫌い。

私が春を受け入れられるのはあと何度目のこの季節だろうか。季節といえば先生役の藤原季節、最高。

自分が握っている弱い光が指の間から溢れ出す日が来るのを楽しみにしているよ。

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