世界初の電池で飛ぶ実用飛行機をみてきました
電池で走る車があるのは知っているけれど、電池で飛ぶ飛行機がすでに実用化されているとは知りませんでした。
しかも、それが地元の空港をベースにしてますよ、っていうんだから、私のアンテナも大したことないですね。早速、見てきました。
Pipistrel Alpha Electro
なかなかスマートな飛行機。この日のために遠く、スロベニアから持ってきたそう。
コクピットはこんな感じ。
計器の配置や種類は通常のセスナと変わらず。油温・油圧計がないのは、オイルを一切使っていないから。ガソリンエンジンを搭載している通常の訓練機と比べると、非常にシンプルな作りで、メンテナンスも簡単そうだ。
メンテナンス費用が安いということは、訓練機として使った時に訓練費用の圧縮につながる。CO2と一緒にパイロットの訓練コスト削減になるか。
20kWhのバッテリーは126kgもある。同じ機体のガソリンエンジン版と比べると、同じ時間分の燃料よりはるかに重いが、モーターは11kgとエンジンに比べて劇的に軽く、それで相殺しているようだ。
航続時間は90分、法律上30分は予備「燃料」を積まなければいけないので、実質の航続時間は60分。パイロットの初期訓練の一回のフライトがだいたい1時間未満で終わるので、クロスカントリーといって長距離に出かけていく段階になると、ちょっと心もとないが、初期訓練にはなんとか使えそう。
躯体の素材は複合素材を多く使っているらしく、表面は滑らか。触った感じも、金属っぽい感じはしなかった。
フラップとエルロンを融合させた「フラッペロン」を採用するなど、材料と構造の両面から徹底的な軽量化の意思が見て取れる。
エレベータとラダーにはタブが付いているが、フィックスドタブという地上で曲げて微調整する最も原始的なもの。トリムはおそらく舵のケーブルのテンションをバネで相殺する「トリマー」方式だろう。
脚はもちろん固定式。前輪がオレオで主脚が板バネ。意外とこう言う脚の方が着陸はスムースだったりする。着陸灯は強力そうなLEDがついている。
飛行機は電気化するか
するか、しないかではなく、いつ、どのセクターが電気するか、と問うべきでしょう。
事実、ニュージーランドのコミューター会社であるサウンズエアは、2026年にスウェーデン製の電気飛行機ES-19を購入する覚書にサインをしました。飛行機の電気化は、すぐそこまできています。
耐空審査などの書類手続きも、ニュージーランド航空局はかなり協力的みたいで、今回、スロベニアから持ってきたこのAlfa Electroも、Light Sport Aircraft(LSA)という軽自動車のようなカテゴリーで比較的簡単に登録が完了し、すでに何回かニュージーランド国内(ってか私が昔飛んでた空域)を飛んでいるようです。
クライストチャーチ空港、エアウェイズなど、行政が協賛していることからも、案外スムースに飛び始めるのかもしれません。冒頭の記事によると、クライストチャーチ市は、この機体のNZでの窓口会社になるElectric Airに4万ドルを寄付したといいます。
あとは、車と同じでバッテリーの性能がどれだけ上がるかによって今後の実用化の趨勢が決まるでしょう。
否定するひとたち
一方で、否定的な意見も多くあります。フェイスブックのとあるパイロットグループでは、「環境に配慮って言いながら電池は毒物の塊だ」とか、「電気を作るのにもエネルギーがいる」とか、「バッテリーが発火したらどうするんだ」とか、「1時間しか飛べない飛行機に需要なんかない」などという意見を出す人が結構たくさんいました。その大半は、実物を見てすらいないのに。
でも、実物を見もせずに、よくそんなに簡単に技術者の努力を否定できるよなとおもいます。
まぁ、気持ちはわかるけどね。F1が電気になるぞ!と言われたときの一抹の寂しさと同じで、現状維持バイアスがはたらいて新しいものを否定したくなる気持ちはわかる。気持ちは。でも、それを軽々しく口にするかどうかは、別の話で。
同じことが、飛行機の黎明期にもあったのでしょう。「人が空を飛ぶなんて、神への冒涜だ!」みたいな。どんな時代にも短い言葉で、一面を捉えて、否定をする人は一定数いたことは、容易に想像できます。
確かに今はガソリンエンジンの実用性、信頼性は高いけれど、長期的に考えたら100年後も燃料をバンバン燃やして飛んでいるわけがないわけです。そりゃ、バッテリーの熱暴走は怖いけれど、それを言ったら可燃性の液体を満載して飛んでいる今の状況はどうなんだということになるでしょう。
言葉は抜き身
私はもともと、パイロットになる前はものを作る仕事をしていたので、1時間というわかりやすい航続時間を叩き出した技術的努力に、素直に感服してしまいます。パワーウェイトレシオを少しでも改善しようした痕跡が、スムースで無駄のない美しいデザインからひしひしと伝わってきて、ここまでくるのに、どれほどの苦労があったのだろう、と、まず考えてしまいます。
もちろん、いちパイロットとして大丈夫かな、と思うところはあるにせよ、まさか、唾を吐くような言葉を投げつけることなどできません。頭ん中にあるものを現実に形にするってことは、本当に大変なことだから。
言葉は、抜き身の刀と一緒で、自分では空を切っているつもりでも、間合いに入れば斬れてしまいます。どんな意見でも、それを言う「権利」があるからこそ、言うか言わないかには余計に自覚的にならねばならんよな、と。
あれ、なんだか全然違う話になってしまいました。このへんで終わりにしよう。
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