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ロックダウンのNZで、政府の第二波掃討作戦(英語動画)を解説します。

ニュージーランド政府は、本日8月14日の現地時間17時30分に会見を行い、現在適用中のレベル3(オークランド)およびレベル2(その他の地域)ロックダウンを12日間延長し、8月26日まで継続することを発表した。

現在適用中のロックダウンは書いた通り、水曜日の正午から3日間の予定で始まり、本日その後の措置についての発表となった。

市中感染の発生

今までニュージーランドに新規感染例がゼロではないにもかかわらず「100日間COVIDフリー」と言っていたのは、それらの患者がすべて国外から入ってくる人だったからだ。つまり、ウイルスは外から入ってきてはいるものの、隔離施設で(まぁ脱走とかいろいろゴタゴタはあるのだけれど理屈上は)フィルターされていたはずだった。

しかし、今大騒ぎしているオークランドのクラスターは、海外渡航歴や、渡航歴のある人とのつながりがなかった。すなわち、国内のどこかで人から人へ移る「市中感染」の存在を示唆している。だからこんなに大騒ぎしているのだ。

こちらの記事でも書いた通り、市中感染がどこまで拡がっているのか、その全容を、この3日間の間にどこまで追いきれるかが、勝負だった。

感染経路調査とPCR検査

会見の時点で、今回のコンタクトトレーシングによって30人の新規感染例が確認された。そのうち29人までがオークランドのクラスターに繋がると確認済みで、残る1例が調査中だ。

また、この48時間で3万件のPCR検査を実施、疑わしい地域をPCRで絨毯爆撃することによって(ただし、今は症状がある人のみ)別のクラスターの発生がないか、全容の把握に努めている。

これらの戦力(調査と検査)の集中投入の結果、判明しているクラスターはオークランドの一つにとどまっている。よって、国内で市中感染が蔓延している可能性は今の所低いと、政府は判断している。

経験を活かすニュージーランド

会見によると、今回レベル3ロックダウンとなったオークランドでは、木曜日の行動指数が60%も下がったそうだ。これは前回のレベル3よりも低い値で、ロックダウン発表から24時間でここまで行動規制ができるのは、民主国家としては驚きだ。前回やってみて、成功体験があるのが大きいのだろう。

動画は、9分25秒から上記の「60%減」の話を始めているが、そこから結論(ロックダウンの延長)に至る11分20秒あたりまでをぜひ聞いてみてほしい。簡単にまとめると

学んだこと:
・行動抑制の早さと強さが、感染の封じ込めに大きく寄与する
・ウイルスの潜伏期間のため、クラスターは、縮小する前に拡大する
・感染源の特定は、クラスターの管理するうえで必須ではない
・クラスターの管理に必要なのは、正しい指標を用いて拡大を防ぐこと

結論:
これらを鑑み、COVID-19の潜伏期間である14日間まで、現在の行動抑制を続ければ、クラスターの拡大を防ぐことができると判断した。

私には非常にロジカルでわかりやすい。なぜ14日間なのか、なぜレベル3なのか、という点を判断の根拠とともに、かつ冗長にならずに説明している。首相が、施策の肝心を完璧に理解して、判断している証拠だろう。

政府開発のアプリとプライバシー権

コンタクトトレーシングの主な手段は、患者の行動履歴の詳細な聞き取りで、それによって判明した立ち寄り場所を公表して芋づる式に聞き取り調査を行う。

レベル2であれば、レストランなどの店に立ち寄った時に必ず住所氏名と連絡先を店頭で記入するが、レベル1では行われていない。そのため、政府は立ち寄り場所をQRコードで記録するアプリをダウンロードすることを推奨している。

このようなアプリを導入することで、どれだけコンタクトトレーシングの助けになるかは想像にかたくない。ここ2週間分の行動を詳細に即答できる人は少ないだろう。そして、コンタクトトレーシングはスピードが命なのだ。

しかし一方で、個人の行動履歴を政府が手にする話は、必ずプライバシー権との兼ね合いにぶつかる。このアプリでは、行動履歴はスマホ自体にオフラインで記録され、31日以前の行動はアプリの立ち上げの際に消去される仕組みを入れてプライバシー権に配慮しているが、最も大事なのは政府と国民の間の信頼関係だろう。

アプリを紹介する政府のホームページでは、アシェリー・ブルームフィールド保健省長官(彼はもう有名人だ)が自らなぜそれが必要なのかと、上記のような配慮の仕組みを説明している。

長官が最初に言っている「Kia ora koutou katoa」は、
マオリ語で「みなさんこんにちは」です。

説明責任と結果責任

「責任を取る」というときの「責任」とは、説明責任と結果責任に分けられる。後で訊かれて、なぜこういう判断をしたのかを説明できることが「説明責任」で、悪い結果になったときに進退によって決着を着けるのが「結果責任」だ。

説明責任をとるためには、その判断を事後的に説明するためのロジックが必要で、だから事実に基づくアドバイスがまず必要になる。その上で、その事実を元にどうしてそう言う結論に至ったのかをロジックで組み立て、伝えることが、説明だ。

ニュージーランド政府は、この点がブレないので、政府が「(説明)責任を果たしている」と感じられるのだろう。政府が、今できる最善のことをしているかどうかを、検証可能な形で提示している。信頼を得るための誠実な対応とは、説明責任を果たすことなのだ。

これに対して、結果が悪い方向に触れた場合に、その進退をもって取るのが結果責任だ。しかし、それは最後の最後に下される未来の歴史であって、ジタバタしても仕方がない。だって、今できる最善のことをする以外に、なにができるというのか。

説明責任を取る意思と、結果責任を取る覚悟のあるトップがいる組織は、危機に強い。そう言う意味で今のニュージーランドは非常にラッキーだ。

信頼のコイン

この連載で何回も何回も何回も言っていることだが、このように政府が頻繁に国民とコミュニケーションを取り、人々に平易な言葉で正確な情報を出すことを積み重ねることでしか、つまり、説明責任を果たすことでしか、政府と国民との信頼関係は築けない。

信頼は、はじめからそこにあるものではなくて、過去の行いの積み重ねの上に成り立っている。コインを積み重ねていく過程と、結果として貯まったコインの額が、その信頼の強さと大きさを決める。

私は、日本政府が新型コロナウイルスの対応策について、なぜ国民に向けた公式の発表を毎日しないのか、本当に理解できない。

国民の、政府に対する信頼のコインはまだ一枚も貯まっていない。コインを積み重ねる意思がないのか、積み重ねる必要を感じていないのか、積み重ね方がわからないのか。

たとえ、今同じアプリを日本政府が開発しても、うまく運用することはできないだろう。政府と国民の間に信頼関係がないからだ。いくら「情報はオフラインで保存します」とか「1ヶ月たったら自動的に消えます」と言っても、同じだ。

これまで政府が情報をどのように扱ってきたか、どれだけの情報を国民に開示してきたか、政策に情報をどのように活かしてきたかを見て、あなたは、気持ちよく行動追跡アプリをダウンロードして、協力しようという気になるだろうか。

日本とニュージーランドは人口が違うから対策の比較はできないという向きがあるが、人口の多寡を思考停止の理由にしているだけだ。要素の一つには違いないが、だからと言って政府が信頼のコインを積まなくて良い理由にはならないだろう。コインは、すぐには貯まらない。でも最初の一枚を置くことなしに、コインを積み上げることはできない。

面倒でも、一つ一つ丁寧に、積み上げるしかない。

以下の有料パートでは、会見動画で私が面白いと感じたところを解説してみます。英語の勉強にも是非。

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