令和の『SLAM DUNK』かくありき/『THE FIRST SLAM DUNK』雑感1

前置き(読まなくても読めます)

ネタバレを含みます。

今、平成レトロがアツいっぽい。平成初期の雰囲気を復刻して売り出している商品がちょくちょく目につく。『SLAM DUNK』はまさしく平成2年より連載を開始した作品なので、令和のこの世相に再発表されるのはトレンドに適っていると言えるのではないだろうか。おそらく作り手側にそんな意図はつゆほどもなく、ただ、今の技術なら理想通りのものが描けるというだけのことだったのかも知れないが。
余談だが、平成初期生まれなので平成初期がレトロって言われると自分の年齢になにか言われている気分になる。見た目が老いないバーチャル存在でよかった。まあでも、平成って30年以上あったんだもんな。30年も前は確かにレトロか。……レトロかあ。
さて、なにも知らぬまま挑んだ『THE FIRST SLAM DUNK』。一部よくわからない点は残るものの、概ね話がすっと頭に入ってくる。貶す意図があるわけじゃないということを先に強く念押ししておくが、同じようになにも知らぬまま観た『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』は意外と初見殺しだった記憶があり、劇場ではなく故郷(※所謂、実家)(※名倉有夢《あむ》はバーチャル存在なのでなんかこう世界観を察してくれ)で観ていたのをいいことに度々父に解説を頼んでいた。あれはまあ、劇場にまで足を運ぶのは『鬼滅の刃』を好んで観ていた層であろう、という前提のもと地上波アニメと地続きに制作したものの、それがマスと合致していたため結果的に大ヒットしたということなのだろうな。すみません、つまり、『鬼滅の刃』を未だに読みも観もしていない私が悪いです。いや、全然、観ようとは思っているんだけどね?
その点「THE FIRST」を冠しているだけあって、ここから『SLAM DUNK』に触れる人にも優しいのが本作だ。単にファンタジーではなく複雑な設定がないというのもあるが、話が非常にわかりやすい最大の要因は、「宮城リョータが主人公であること」だろう。
作中の半分近くを占める彼の過去の掘り下げは、ほぼ新規ストーリーであり皆平等に初見。余裕そうに見えるが、強がっているだけで、本当は手が震えている「普通っぽい」メンタルの持ち主。そして彼は、本来の主人公である桜木花道や何故か同じチームなのに花道のライバル? のようなポジションである流川楓と違って、飛び抜けた天才ではなさそうである。これは、バスケのルールがよくわからないのにスタメンの花道、そのまま行っちゃえというような指示をされる流川、更に、亡くなった兄のほうがよっぽどバスケが上手かったという描写があることから、映画だけ観てわかることである。
その結果、とにかく感情移入のしやすい主人公ができあがる。過去と今の反復横跳びをしているうちに、気がつけば宮城リョータに、そして彼の所属する湘北に勝ってほしいと願うようになる! 勝ちたい動機としてのつらい過去と、今起こっている試合の展開との二重構造。原作を既に読んでいて強火山王推しだったり、繰り返し見ているうちにだんだん山王側に肩入れしたくなっていくオタクもぼちぼち見かけるが、そういうよほどの事情がない限り最初はまず湘北を応援したくなる作りなのではないだろうか。
普通っぽくて、天才じゃないというのも重要な点だ。勿論、彼は全国大会に出られるようなNo.1ガードなのであるが、それはそれとして。昨今、天才が活躍する物語が溢れている。転生して無双してばかりだ。俺TUEEEするのは気持ちがいい。スポ根ものだって、ここ十数年のヒット作は、隠れた才能を見出されて、とか、天才たちが集まって、とかそんなんばっかりじゃないか? 悪いとは言わない。だってそのほうが絵面が派手で楽しいに決まっている。でも、彼は身長が低くて、彼の武器はドリブルとパス。スポーツ漫画の金字塔が敢えて、彼に焦点を当てて再編された意味。つらいことがたくさんある中で、ただバスケが好きでバスケをし続けていただけの少年が頑張る物語は、単に同情を掻き立てるだけでなく、今どき、逆に新鮮に感じられた。
ただ……年齢がより近いからか。時折私は、リョータくんよりも、そのお母さん・カオルさんに強く共感してしまうときがあった。毒親だなんだと言われているようだが、愛する夫と長男を立て続けに亡くしてまともで居られる人がどれだけ居るというのだろう。本当はリョータくんに向き合い真っ直ぐ愛したいはずなのに、どうしても思い出してしまうから直視できない。バイクの事故で危うく次男まで亡くすところだった彼女が、病室の外で泣き崩れるシーンは涙なくして観られない。リョータくんが、「生きているのが俺ですみません(うろ覚え)」と書いて捨てるシーンは、勝手にカオルさんの代弁者になって、違うんだよ! と叫びたくなったが(応援上映以外で叫ぶのはやめましょう)、リョータくんの気持ちもわかるだけあって、ただ泣くことしかできなかった(応援上映じゃなかったしな)。
2人の想いがやっと重なる、最後の海辺での会話。私はこの会話を聞いて、ああこれは令和のための『SLAM DUNK』なのだなと思った。連載初期、いつでも不良漫画に舵をとれるようにしていたという噂もある時代背景。不良漫画が売れる時代の『SLAM DUNK』で、ナメられないよう振る舞っている男の、本当は手が震えているカットが、母に「怖かった」と正直に吐露するシーンが、果たして受け入れられただろうか?
令和は5年。たかが5年、されど5年。平成初期を代表する少年漫画から作られた、「初めて」スラダンに触れる人に優しく、長年のファンにも「初めて」を提供する『THE FIRST SLAM DUNK』は、井上雄彦先生ご本人の手で鮮やかにアップデートされ、令和……の、ひょっとすると初めの方、をレペゼンするアニメ映画として大ヒットしている。懐古主義だなんてとんでもない。バスケ漫画は売れないというジンクスを覆した御大自らによる、時代の最前線をゆく物語がそこにはあった。

さて、たった2時間で宮城リョータにメロメロになってしまった私は、宮城リョータを見つめ直し、宮城リョータを模して描かれた楽曲であろう『第ゼロ感』を体に浴びに、今から2回目を観に行ってくる。
骨は拾ってくれ。

2回目感想(来週水曜更新/蛇足)

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