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アントワン・タメスティ&藤田真央 デュオコンサート 【ポリーニを思い出した日】

アントワン・タメスティさんと藤田真央さんのデュオ演奏を聴きに、大阪のいずみホールへ行ってきました。
私、実は大阪生まれ。
帰省も兼ねての演奏会でしたが、クラシック音楽に興味を持ったのは上京後なので、いずみホールは今回が初めてでした。

入場後そんなに広い会場だと思わなかったのですが、実は821席もあることを開演の待ち時間で知る。

そして毎度のことですが、会場に入ってすぐホールの響きをチェック。近くにいる方、遠くにいる方、色んな方々の話し声や物音で音の響きをざっくり把握しておくのですが、正直第一印象はあまり良くなかったです。何だか鳴った音が左右の壁に吸い込まれていくのですが、その壁に吸い込まれる瞬間の音が変に耳に残る。そんな印象。
そしてこの響き、何だか聞き覚えがある…
ふと気になっていずみホールのHPを開くと
音響設計=日建設計/ヤマハ音響研究所の記載が。

…あぁ、どうりで相性が悪いわけだわ。←失礼

と、言う冗談はさておき。
何故かヤマハさんが目指している音の響きと、私の求める音の響きが噛み合わないようでして。こればかりは好みの問題なので仕方がないですよね。
しかし、今回はこの響きが藤田さんの音とどう反応するのかは非常に楽しみ。銀座のヤマハホールと違い、客席数も会場の広さも倍以上ですし。ましてや、ヴィオラの音をしっかり聴くなんてことも初めて。開演がますます楽しみでした。

開演時間になり、当然なのですが藤田さんとタメスティさんお2人で登場。藤田さんはお1人でのリサイタルよりリラックスして入場していた印象です。
お互い定位置につき、ヴィオラのチューニングのため藤田さんが2音ピアノを鳴らしたのですが、そのたった2音が美しすぎて、曲が始まる前から感動しました。ホールの響きが心配でしたが、藤田さんの高く上がる音との相性は良いよう。
いざ曲が始まり、チューニングの感動そのままに期待して耳を澄ませていたのですが、早々に違和感を覚える。私が期待しすぎたのか、座席が後方右寄りだったからなのか…色々と原因はあると思うのですが、そもそもお2人の音の飛び方に交わる部分がないと言うことに気付きました。

以前から何度もお伝えしていますが、藤田さんの音は上方に高く上がる音。今回は左右にもよく伸びていました。対してタメスティさんの音は前方、つまり客席の方に弧を描きながら太く真っ直ぐ飛んでいた印象。ヴィオラと言う楽器の特徴かもしれません。これらの音の動きを簡単にまとめると…

藤田さん=上左右
タメスティさん=前

…ね。
全然音が混ざらないの。
特にモーツァルトのヴァイオリンソナタ第21番(ヴィオラ版)。お2人の美しい音色が独立して聴こえてくるので、耳が少し疲れてしまいました。これもホールの影響?(←もはや全部ホールのせい)
ただ後半の、特にシューマンの楽曲はタメスティさんの音が後ろに飛ぶ時があり、その瞬間の響きはとっても美しかった。また、後半は会場の空気に藤田さんとタメスティさんの音がよく馴染んでいた気がします。
そしてそして何より!
一番感動したのがアンコールのシューマン 献呈とおとぎの絵本 第4曲。
なんとアンコールでは、先程まで客席に向かって演奏していたタメスティさんが藤田さんのピアノに寄り添うよう、体を左側(ステージ向かって右)に向けて演奏したのですが、その瞬間2人の音が絶妙に混ざり合って、もう泣ける程美しかった。2階席右側で聴いていた方、めちゃくちゃ感動したはず。今回そちらの席だった方はラッキーでしたね。

最後のアンコールの美しさで全部チャラになったけど、実は演奏中ずっと、タメスティさんが後ろで藤田さんが前の立ち位置で演奏した方がこのホールでは良い響きになると思うんだけどな…なんてモヤモヤしながら聴いていました。(ピアノが前で演奏するなんてあり得ないのは承知の上で…)
そんな中ふと思い出したのが、演奏会当日の朝に見たポリーニ死去のニュース。
ポリーニはKAJIMOTOさんのコラムを読んでから、ずっと演奏会に行きたいと思っていたピアニストの1人でした。

このコラムにはポリーニのリハーサル中の様子が書かれているのですが、KAJIMOTOスタッフさんの書き方から察するに、ポリーニほど音の響きを追求するマエストロは少ないのでしょう。ですが、逆にポリーニが行っているこれらの作業なしで、音楽家達がどうやって理想の音を奏でているのか疑問ではあります。
ポリーニにとっての演奏とは、私にとって絵を描く行為と同じ。描きたい絵に合わせてキャンバスや画材を選び、下地を塗る。場合によっては土台にヤスリをかけ、その日の気候や季節、作品イメージによって下地の塗り方や画材も変えます。本当に作品の仕上がりが全然違ってしまうので、これらの作業なしで理想の絵は描けません。
マエストロに対して恐れ多いですが、私が行っている絵を描く前のこの準備を、ポリーニもステージでやっているだけではないでしょうか。
果たして、これから演奏する会場のホールで、自分の理想の響きが客席まで伝わっているかを把握している音楽家がどれだけいるだろう。

響きを追求するポリーニの音。
一度でいいから聴いてみたかったな。
そして、藤田さんとタメスティさんの演奏に関する音の響きについてのお話しを伺ってみたかった。

ポリーニなら、いったいステージのどの位置でピアノを奏でただろうか。

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