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30年目の5月15日 Footballがライフワーク Vol.29

キックオフは、ホテルのチェックインと同時刻。ゴールデンウィークの混雑の末、ようやく部屋に到着するなり靴も履き替えずテレビの電源をつけた。豊田スタジアムでの名古屋戦、神戸にとって今後を占う上位対決は、自宅ならテレビ観戦できなかった。長過ぎる追加タイムの果てに悔やまれるドローに終わったものの、滞在先で東海地区のローカル放送を視聴できたことは、直前に墓参りした祖母からのお返しだと受け止めた。30年前、名古屋の助っ人ストライカーはユンカーではなくリネカーで、神戸はまだ川崎製鉄水島サッカー部だった。

先週末のハイライトは、ACL決勝だ。セカンドレグ、埼玉スタジアムにアル・ヒラルを迎えたコレオグラフィーは壮観だった。飛行機が描かれた巨大なフラッグは航跡を表したバックスタンドを動き、入場したイレブンの背後を彩った。酒井宏樹のオーバーラップや西川周作のファインセーブ、ピッチ上の殊勲とスタンドの原動力が一体となれば、いかに守勢に回る時間が長くとも3度目のアジア制覇は必然だった。ACL最多優勝クラブになった浦和も、30年前は僅か10チームで始まったリーグ戦で年間最下位に沈んでいた。

チャンピオンズリーグは、いよいよセミファイナルに突入した。2季連続して同じステージで顔の合ったレアル・マドリーとマンチェスター・シティのファーストレグは、白熱のドロー。マドリーが左サイドバックをもう一つの主戦場としたエドゥアルド・カマヴィンガを起点に「一撃」の凄みを見せつければ、シティはジョン・ストーンズが上下動する可変システムを採用して中盤より前の「幅と厚み」で応戦。逆転決着の相次いだ昨シーズンに比べ味気ない印象が否めなかった今シーズンにあって、期待に違わぬ好ゲームを見せてくれた。30年前の小学校4年生にとって、欧州の最高峰は未知の領域だった。

NHKが、母の日に地上波で各地から放送したJリーグ30周年記念スペシャルマッチ。RADWIMPSが「大団円」を披露したオープニングセレモニーも、関西に戻った私が観たのはNHKのサブチャンネルだ。メインチャンネルは阪神戦ではなく、オリックス戦。30年経ってみても、加盟クラブ数が6倍に拡大しても、いまだ超えられない壁がある。「俺たちのホームはカシマ」鹿島と名古屋、30年前の開幕節と同一カードを国立競技場で開催したことに、鹿島サポーターからは抗議の声も上がった。「スタートの地だから」興行的な目論見を差し引いても国立での開催には合理的な説明はつくはずだが、ずっと前なら鵜呑みにされそうなことが、いまやそうはならない。30年を経て、Jリーグでもっとも成熟したのはサポーターであり、それこそは地域密着を掲げた成果だと受け止めたい。

先月末以来、Jリーグ秋春制という言葉を久方ぶりに聞く気がする。来季からACLがスケジュールを変更することもあって、再び検討の機運が高まっているらしい。かつて、豪雪地帯の問題を解消できるならという条件付きで、秋春制への移行は個人的に賛成だったが、近年は見解が変わってきた。欧州各国リーグが佳境に入り、Jリーグは連休の集中開催を機に中盤戦へ突入。自国のカレンダーが欧州と異なるからこそ、ファンは年間を通じてフットボールを愉しめる。5月は、過ごしやすい気候のなか国内外の盛り上がりを並行して堪能できるという意味で、絶好の季節かもしれない。世代によって印象はさまざまだろうが、私の生後40年を振り返れば、わが国で記憶されている幸せな日付は悲しいそれに比べて少ないように思う。今日、5月15日を数少ない幸福な記念日とするためにも、この5月にゲームを開催できる春秋制が継承されていくことを望みたい。

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