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15年後を想う 運動神経が悪いということ Vol.38

あぁこのCM、あのシンディ・ローパーの歌が15年前か。最長でも満55歳の年を想定している退職まで、あと15年あまり。同じくらいの歳月を振り返り、どんな時代だったか思い出すため、私はよくYouTubeで過去のCM集を検索してみる。資生堂マキアージュのCMにシンディ・ローパーのリミックス曲が使用されていたのは、2009年の1月だったらしい。そうか、このCMが流れていたころとほぼ同じ時間が経過すれば、退職できるのか。まだまだ先が長くても、「夢」までの残り時間が思いのほか短いと感じた瞬間は、いつも気持ちが上向く。

母は、今月で満75歳を迎えた。24歳で結婚してから10年間、子どもに恵まれず不妊治療も受けた。現代では珍しくも無いだろうが、34歳での第一子出産は、いわゆる団塊の世代にあたる同世代のなかではかなり遅いほうだった。30年連れ添った父と死別したのは、54歳。高齢化社会にあって、こちらは早過ぎたと言えるだろう。

母の古くからの友人も、ほとんどが夫婦とも健在だ。なかには中学の同級生もいたが、会うたび「お父さん」の話題を延々と聞かされることにも耐えかね、およそ60年ものお付き合いが絶たれてしまった。数少ない「寡婦同士」の会話でも、相手を病で亡くされた人にはやんわり「あんたとは違う」と言われることが多く、隔たりを感じるときが辛いという。自死遺族になってはや20年が過ぎたが、母が重ねてきたのは年齢だけではない。

誕生日のディナーは、「中納言」を選んだ。母は肉が苦手なのもあって、わが家では昔からご馳走といえば伊勢えびで、父の生前から馴染みがある。父もいなければ妻子もなく、"標準的な家庭"ではないのを自覚する私たちはつい人目を気にしてしまうのだが、数年前にオープンした三宮店は二人でも個室に通してもらえるから、ありがたい。母が後期高齢者になり、私も再来月でまた歳をとる。あと10年もしないうち、互いの年齢が「8050」へ突入していくのかと思うと、待ち遠しいはずの15年後が切なくなる。

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