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Footballがライフワーク

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観戦専門の非プレイヤーが綴るFootball
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寝るより、観たい Footballがライフワーク Vol.46

みぞおちの辺りが、チクリと疼く。夏場の閑散期を経てまた忙しくなってきた仕事に、神経が反応しているのだろうか。回復したはずの身体が、疲労によって再び変調をきたし始めている。その危険信号を自覚しながら、フットボールのある日は相変わらず睡眠時間を削ってしまう。 ベンヤミン・シェシュコがドッペルパック、ドゥシャン・ヴラホヴィッチもドッピエッタ。両エースが互いに譲らず2-2となった熱戦に決着をつけたのは、フランシスコ・コンセイソンの美技だった。えてして二世選手は「一世」に見劣りするも

強すぎる代表に思う Footballがライフワーク Vol.45

ワールドカップアジア最終予選の戦いは、いつも厳しくなる。あながち、メディアの煽り文句ではないだろう。直近2大会も例に漏れず、ヴァヒド・ハリルホジッチ監督のもと臨んだロシア大会最終予選では、初陣のUAE戦で敗戦。前回のカタール大会最終予選でも序盤の3試合で2敗を喫し、当時は森保一監督の解任論が囁かれていた。 フットボールには世界共通の傾向があって、大量得点を挙げた直後のゲームは苦戦しやすいのは、その一つだと思い込んできた。10年前のブラジル大会を制したドイツにしても、7得点で

卒論から18年後の8月 Footballがライフワーク Vol.44

近年のフットボールを眺めながら、学生時代の自らの仮説を思い返す瞬間がある。2016年のクラブワールドカップにて、公式戦で初めてVARを採用した頃を機に導入が本格化した機械判定を、私はずいぶん前から待ち望んでいた。判定を人間=レフェリーに一任するには、横幅68×縦幅105メートルを規格とするピッチはあまりにも広大で、数々の疑惑が有耶無耶のままになる。そんな「負の遺産」が、滅亡とはいかなくとも激減したことで、機械判定がフットボールに寄与する時代が到来したことを安堵していた。 大

飲めずして、酔う Footballがライフワーク Vol.43

もう少し早く帰りたかったところが、解散は23時前だった。「人生、損してますよ」―少し飲めば顔が赤くなり、肌が痒くなることもある体質だと明かしたとき、口さがない後輩から言われた憶えがある。弱った心身をおして参加した久々の酒席も、愉しんでいるのはよく飲んで饒舌に語る人たちだった。砕けたトーク、気の利いた合いの手。各々がスキルを発揮するなか、何も持ち合わせていない自分に引け目を感じるのも、これまでどおり。割り勘のお代といい、私はいつも、飲み会で損してきたのだろう。 誘ってくれた同

ユーロで梅雨明け Footballがライフワーク Vol.42

耳が痛くなり、答えに窮する問いかけがある。「休みの日、何してるんですか?」なるものだ。近頃は「ガクチカ」というスラングもあるようだが、就活していた当時の難問だった「学生時代に力を入れたこと」が、中年になったいま、休日の過ごし方に取って代わっている。他人に自慢できる充実とは無縁の私にも、自己満足に浸れる日なら稀にあって、最近の例は先月最後の日曜日だった。 ラグビーのリーグワンとバスケのBリーグが揃って決勝戦を迎え、大相撲夏場所は千秋楽、競馬の祭典・日本ダービーまで同じ日に集中

フットボールだけのGW Footballがライフワーク Vol.41

フットボールのジャンキーを自覚する私は、ゴールデンウィークの過ごし方もいたって普段どおりだ。手始めは23時過ぎに帰宅した木曜日、ドルトムントがグループステージの再戦となったパリSG戦に先勝したチャンピオンズリーグのセミファイナル。翌朝はヨーロッパリーグのセミファイナル2試合を観て、午後は11節に入ったJ1の各試合をザッピングした。唯一のナイトゲームは、わが神戸戦。ちょうど1年前、同じ豊田スタジアムでの名古屋戦を現地のローカル中継で観たことを思い出しながら、山口蛍と大迫勇也のフ

正念場の4月 Footballがライフワーク Vol.40

合わせるボールかと思いきや、低い弾道は直接ゴールへ吸い込まれた。ベルナルド・シルバの意表をつくフリーキックに始まり、後半はフィル・フォーデンが同点、ヨシュコ・グヴァルディオルが勝ち越しのミドルを立て続けに決め、締め括りはフェデリコ・バルベルデのダイレクトボレー。3季連続で顔を合わせたレアル・マドリーとマンチェスター・シティの一戦は、3-3のドロー。合計6得点の打ち合いも、ファインゴール連発となれば、決して大味な印象は与えない。久々に「これぞチャンピオンズリーグ」という感動に浸

黄金の再現 Footballがライフワーク Vol.39

年齢を重ねるごとに上手くなり、プレーの幅を広げていった印象がある。わが地元の名門、滝二こと滝川第二高校が輩出した多くの選手たちのなかでも、出世頭だろう。代表で積み重ねた得点は、歴代3位。上位は釜本邦茂と三浦知良のみだから、日本が誇る両雄に次ぐ堂々たる足跡だ。岡崎慎司が、現役引退を表明した。40代ともなると、歳下の選手たちでも続々とキャリアにピリオドを打つようになる。 就職2年目の2008年は、2度ほどスタジアムで雄姿を拝んだ。反町康治監督のもと主力メンバーとして北京五輪に臨

アジアでこそ顕著に Footballがライフワーク Vol.38

フットボールにおいて守備を担うポジションは、なかなかに辛い役回りだ。完璧にタスクをこなし相手を封じ込めても脚光を浴びることは稀なのに対して、ひとたびミスを犯しチームが敗北すれば高い確率で戦犯扱いされてしまう。この組織的なボールゲームでは、一つの失点や敗戦が特定個人に起因することなど、まず無いというのに。このたびのアジアカップにて、戦犯扱いの憂き目を見たのはゴールキーパーの鈴木彩艶であり、センターバックの板倉滉だった。 高校の頃に読み始めた「Number」でその名を知って以来

三ツ沢の青空 Footballがライフワーク Vol.37

6.00に対して、5.92。スポーツといえば、まったくやらずにひたすら観るだけの私は、観戦したゲームの内容を採点する習慣がある。中学生くらいから親しんできた「サッカーダイジェスト」の影響かもしれない。次第にフットボールのみならず他の競技も採点するようになり、2016年以降は一年間の結果を記録してきた。昨今、フットボールの次に多く観戦してきたのはラグビーで、両者は年間の平均採点でも拮抗している。ラグビーのワールドカップが開催された昨年、フットボールは冒頭のとおりわずかに及ばなか

回顧2023 Footballがライフワーク Vol.36

念願のチャンピオンズリーグ初制覇を果たしたマンチェスター・シティから実感したのは、ラストピースの重要性だ。それは4シーズン前、プレミアリーグで覇を競ってきたライバルの優勝にも相通ずる。18-19シーズン、リバプールはイスタンブールの奇跡以来14年ぶりのビッグイヤーを掲げた。ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ、モハメド・サラーの3トップ、当時世界最高のセンターバックだったフィルジル・ファン・ダイクに加え、最後方にアリソン・ベッカーというラストピースがはまったことが、6度目の

10年目の国立にて Footballがライフワーク Vol.35

銀杏並木を歩きたくて青山一丁目で降りてみたら、木々はまだ青かった。夏が長く秋が短くなったのは関西だけではないようで、いつまでも暑い日が続いては銀杏が色付くのはもう少し先らしい。道中のハンバーガーショップ「シェイクシャック」でテイクアウトした紙の手提げ袋がちぎれない程度の早足で秩父宮ラグビー場と神宮球場を通り過ぎると、4層の屋根の隙間から木が伸びるスタジアムが見えた。初めて訪れた10年前は、五輪招致決定の直後だった。火が灯された旧聖火台は、いまGゲートの前にある。私的恒例企画「

野球の国で Footballがライフワーク Vol.34

素晴らしいゲーム、文句なしの熱戦だった。同じ英国発祥のフットボールでも、ことは楕円球の方だ。ラグビーのフランスワールドカップ、予選プールの最終戦。勝てば、他国開催で初の決勝トーナメント進出。負ければ、そこで敗退。伸るか反るかの大一番に臨んだ日本は、格上アルゼンチンと渡り合い、健闘の果てに惜しくも敗れた。前半はシンビンで一時数的不利を強いられながら、2トライを奪い1点差で折り返し。後半も意表を突くドロップゴールや鮮やかな3トライ目で、十二分に見せ場をつくった。今大会で最高のゲー

日本がドイツに連勝した朝 Footballがライフワーク Vol.33

3年前の6月は、スポーツ専門チャンネルのJ SPORTSでも映画が放送されていた。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの真っ只中、フットボールもスポーツ界のご多分に漏れず世界中で活動休止を強いられた。予期せず訪れた空白の時間に観たのが、ドイツにおけるフットボール伝来の物語「コッホ先生と僕らの革命」だった。 時は19世紀後半、まだドイツでは反英感情が根強かったらしく、イギリス留学経験のある教師コンラート・コッホは英語に拒否反応を示す生徒たちを懐柔しようとフットボールを教え、