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Footballがライフワーク

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観戦専門の非プレイヤーが綴るFootball
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正念場の4月 Footballがライフワーク Vol.40

合わせるボールかと思いきや、低い弾道は直接ゴールへ吸い込まれた。ベルナルド・シルバの意表をつくフリーキックに始まり、後半はフィル・フォーデンが同点、ヨシュコ・グヴァルディオルが勝ち越しのミドルを立て続けに決め、締め括りはフェデリコ・バルベルデのダイレクトボレー。3季連続で顔を合わせたレアル・マドリーとマンチェスター・シティの一戦は、3-3のドロー。合計6得点の打ち合いも、ファインゴール連発となれば、決して大味な印象は与えない。久々に「これぞチャンピオンズリーグ」という感動に浸

黄金の再現 Footballがライフワーク Vol.39

年齢を重ねるごとに上手くなり、プレーの幅を広げていった印象がある。わが地元の名門、滝二こと滝川第二高校が輩出した多くの選手たちのなかでも、出世頭だろう。代表で積み重ねた得点は、歴代3位。上位は釜本邦茂と三浦知良のみだから、日本が誇る両雄に次ぐ堂々たる足跡だ。岡崎慎司が、現役引退を表明した。40代ともなると、歳下の選手たちでも続々とキャリアにピリオドを打つようになる。 就職2年目の2008年は、2度ほどスタジアムで雄姿を拝んだ。反町康治監督のもと主力メンバーとして北京五輪に臨

アジアでこそ顕著に Footballがライフワーク Vol.38

フットボールにおいて守備を担うポジションは、なかなかに辛い役回りだ。完璧にタスクをこなし相手を封じ込めても脚光を浴びることは稀なのに対して、ひとたびミスを犯しチームが敗北すれば高い確率で戦犯扱いされてしまう。この組織的なボールゲームでは、一つの失点や敗戦が特定個人に起因することなど、まず無いというのに。このたびのアジアカップにて、戦犯扱いの憂き目を見たのはゴールキーパーの鈴木彩艶であり、センターバックの板倉滉だった。 高校の頃に読み始めた「Number」でその名を知って以来

三ツ沢の青空 Footballがライフワーク Vol.37

6.00に対して、5.92。スポーツといえば、まったくやらずにひたすら観るだけの私は、観戦したゲームの内容を採点する習慣がある。中学生くらいから親しんできた「サッカーダイジェスト」の影響かもしれない。次第にフットボールのみならず他の競技も採点するようになり、2016年以降は一年間の結果を記録してきた。昨今、フットボールの次に多く観戦してきたのはラグビーで、両者は年間の平均採点でも拮抗している。ラグビーのワールドカップが開催された昨年、フットボールは冒頭のとおりわずかに及ばなか

回顧2023 Footballがライフワーク Vol.36

念願のチャンピオンズリーグ初制覇を果たしたマンチェスター・シティから実感したのは、ラストピースの重要性だ。それは4シーズン前、プレミアリーグで覇を競ってきたライバルの優勝にも相通ずる。18-19シーズン、リバプールはイスタンブールの奇跡以来14年ぶりのビッグイヤーを掲げた。ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ、モハメド・サラーの3トップ、当時世界最高のセンターバックだったフィルジル・ファン・ダイクに加え、最後方にアリソン・ベッカーというラストピースがはまったことが、6度目の

10年目の国立にて Footballがライフワーク Vol.35

銀杏並木を歩きたくて青山一丁目で降りてみたら、木々はまだ青かった。夏が長く秋が短くなったのは関西だけではないようで、いつまでも暑い日が続いては銀杏が色付くのはもう少し先らしい。道中のハンバーガーショップ「シェイクシャック」でテイクアウトした紙の手提げ袋がちぎれない程度の早足で秩父宮ラグビー場と神宮球場を通り過ぎると、4層の屋根の隙間から木が伸びるスタジアムが見えた。初めて訪れた10年前は、五輪招致決定の直後だった。火が灯された旧聖火台は、いまGゲートの前にある。私的恒例企画「

野球の国で Footballがライフワーク Vol.34

素晴らしいゲーム、文句なしの熱戦だった。同じ英国発祥のフットボールでも、ことは楕円球の方だ。ラグビーのフランスワールドカップ、予選プールの最終戦。勝てば、他国開催で初の決勝トーナメント進出。負ければ、そこで敗退。伸るか反るかの大一番に臨んだ日本は、格上アルゼンチンと渡り合い、健闘の果てに惜しくも敗れた。前半はシンビンで一時数的不利を強いられながら、2トライを奪い1点差で折り返し。後半も意表を突くドロップゴールや鮮やかな3トライ目で、十二分に見せ場をつくった。今大会で最高のゲー

日本がドイツに連勝した朝 Footballがライフワーク Vol.33

3年前の6月は、スポーツ専門チャンネルのJ SPORTSでも映画が放送されていた。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの真っ只中、フットボールもスポーツ界のご多分に漏れず世界中で活動休止を強いられた。予期せず訪れた空白の時間に観たのが、ドイツにおけるフットボール伝来の物語「コッホ先生と僕らの革命」だった。 時は19世紀後半、まだドイツでは反英感情が根強かったらしく、イギリス留学経験のある教師コンラート・コッホは英語に拒否反応を示す生徒たちを懐柔しようとフットボールを教え、

真夏の夜の真司と神戸 Footballがライフワーク Vol.32

今夏、苦手な季節を例年になく楽しめたのは、シーズンインを前にヨーロッパから多くのクラブが来日してくれたおかげだ。この出不精も先月末、パリ・サンジェルマンを観ようとおよそ10年ぶりに地下鉄御堂筋線で長居公園まで赴いた。2013年の秋、当時J2だったわがヴィッセル神戸が天皇杯でセレッソ大阪に完敗したのはお隣の球技場(現ヨドコウ桜スタジアム)だったから、ヤンマースタジアム長居での観戦となると2010年の同一カードまで遡る。主役は、独走ドリブルによる決勝ゴールで故郷のクラブを踏み台同

イニエスタは去っても Footballがライフワーク Vol.31

Jリーグは生誕30年、私は40年。アニバーサリーな2023年も、セカンドハーフに入った。先々週、アンドレス・イニエスタが神戸を去った。「バルサ化」のスローガンは張りぼてでしかなく、在籍最終年は構想からも外れた。バルサとスペインの至宝にとって、わがクラブでの経験が必ずしも理想的ではなかったことは、交代の際の表情からも見て取れた。それでも、満員のスタンドと、美しいコレオグラフィーやスペイン語も交えた情熱的なチャント。われらサポーターの敬愛は真実だったことが届き、あの日の光景が忘れ

イニエスタからの宝物 Footballがライフワーク Vol.30

Puedo tener tu firma?「サインもらえますか」を何と言えばよいのやら、グーグル翻訳で調べてみた。2019年の天皇杯の4回戦、平日の仕事帰りに足を伸ばした神戸ユニバー記念競技場での川崎戦。わが座席の少し後方へ駆け寄っていく観客の方へ目をやると、当日はベンチ外だったスペインのレジェンドが並んで座っていた。右にダビド・ビジャ、そして左にはアンドレス・イニエスタ。こんなチャンスは、もう二度と無いに違いない。言葉が冒頭のとおりだったかどうかはさっぱり記憶に無いが、生涯

30年目の5月15日 Footballがライフワーク Vol.29

キックオフは、ホテルのチェックインと同時刻。ゴールデンウィークの混雑の末、ようやく部屋に到着するなり靴も履き替えずテレビの電源をつけた。豊田スタジアムでの名古屋戦、神戸にとって今後を占う上位対決は、自宅ならテレビ観戦できなかった。長過ぎる追加タイムの果てに悔やまれるドローに終わったものの、滞在先で東海地区のローカル放送を視聴できたことは、直前に墓参りした祖母からのお返しだと受け止めた。30年前、名古屋の助っ人ストライカーはユンカーではなくリネカーで、神戸はまだ川崎製鉄水島サッ

ジーコになって Footballがライフワーク Vol.28

30年前、観戦ビギナーの10歳の目にも「上手い」と思えるプレイヤーは少なからずいたが、それ以上に上手く、「別格」と思える凄みを見せつけてくれた最初のプレイヤーが「白いペレ」だった。Jリーグ創世記を彩ったジーコのプレーは、圧倒的に輝いていた。一度は引退、母国でスポーツ大臣の座を与えられながら、現役復帰の場に選んだのが日本の住友金属。鹿島アントラーズへと生まれ変わったクラブのJリーグ初陣、代名詞の直接フリーキックやハーフボレーを次々に決め、リーグ最初のハットトリック達成者となった

小野伸二という衝撃 Footballがライフワーク Vol.27

ボールをまたいで背後のマーカーをいなしているのは、全盛期のカズだろう。涙のVゴールを決めた福田正博、アンドレス・イニエスタの来日初ゴールに、大久保嘉人や佐藤寿人のゴールパフォーマンスが続く。NHKの中継のオープニング。曲はワールドカップに引き続きKing Gnuの「Stardom」だが、アニメーションは30周年を迎えたJリーグ版にリニューアルされているのが心憎い。冒頭のリフティングドリブルはピクシーことドラガン・ストイコビッチ、リフティングしながらターンするのはレオナルド。リ