amyx

1980年代生まれ / 愛された記録を。

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最近の記事

薫る水

「お忘れ物ございませんか」ガソリンスタンドを併設したレンタカー店に到着して、助手席を降りる。「わすれもの、ないかな」とあえて声にする私に目をやり、好きな男が前を歩く。何でもない顔をして返却手続きを済ませ「どうも、ご親切に」とスタッフに声をかけ、二人で目を合わせてレンタカー店を後にし、細い歩道の隣を歩く。 数日ぶりに見る男の横顔。この人の隣にいると空気がまるい。目が合うととろけるように笑うその表情を見て、わたしのほうがとろけてしまう。車の多い通りを抜けて角を曲がり、Googl

    • 1月半ば、冬の日

      夜。駅からの道をまっすぐ帰ってきて、男の事務所のマンションの扉を開けて。待ちきれなくて靴だけ脱いで、ぎゅっとハグして男の首元に顔をうずめる。「ん、分厚い」と言いながらお互いのコートとニットを脱がせて、もう一度肌と肌を合わせる。ああ、ぴったりだ。 私を反転させて背中を預ける状態にして、男は私のからだをゆっくり撫でる。指先、腕、肩、首をくすぐって頭ごと抱く。耳元で「まずは、あっためてから。夕飯食べてないでしょ、からだが冷えてる」 男が耳元で囁くと、わたしの脳内はダイレクトに焼

      • 2023.1.3. 意味があるかもしれないこと

        2023年1月3日 朝、目が覚めて、寝室を後にして 子供部屋から毛布を引っ張ってきて リビングのソファにひとり寝転んだ。 後を追い寝室から出てきた夫に 「最近、俺と一緒に寝たくない感じ?」 と声をかけられた。 彼の人生とわたしの人生とをずっとひとつにしている必要性が、このところのわたしには(さっぱり)わからない(ここ5年くらいずっと) と(括弧内の言葉を省いて)伝えた。 やっと言えた。 今年はここからのスタートと長い戦いなんだろうな。とうつむき思う。 小一時間、隣に

        • ドイツの男

          週末が近づくたび連絡をくれる、その東大生の男の子は、遠距離恋愛中の彼女が居ると言っていたっけ。バツもついていない独身の男の子と遊ぶなんて、なんだか趣味が悪くってちょっと、なんて思っていた(でも未練のある前の男と同じ大学・同じ研究室だからなんでもいいや、とも)。 待ち合わせはいつも成城石井の店内。ホテルに持ち込むお酒を選んでいる間に、彼が来る。久しぶりに会ったその夜も、ビールやワインの棚を眺めていると、すっと背の高い彼が、口の片端だけ笑って現れて「今日は、飲みに行きたい気分」

        薫る水

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          内腿の筋肉痛が遠くなっていくのを惜しみ、撫でながら。「もういちど」とベッドの中でくっついたあの時、男の太腿の意外と冷えていた感触を、かろうじて取り出す。 初めて会ったのは、春の予感も感じない冷たい雨の日、六本木。 指定の出口に、コートの裾を濡らしてあのひとは立っていた。 今ほどに加虐的だったかどうかは覚えていないけれど、彼と初めてセックスをした日、自分に染み付いたフェロモンの圧倒的な安さを思い知らされ、震えて帰宅したことははっきりと覚えている。 +++ その頃の

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