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ケース22.学習性無気力感〜成長に繋げるプロセス管理〜

▶︎燃え尽き症候群を防ぎ、前進していくには?

目標達成を目指す中で、燃え尽きてしまう場面を経験したり、見かけたりしたことはあるのではないでしょうか?

経営の視点:
・高い目標を追いかけて、より高い成果を出してほしい
・個力に合わせた目標設定は難しい

現場の視点:
・成功体験を得て、自信をつけていきたい
・評価されないと努力していたプロセスが無意味に感じる

モチベーションが高い人ほど、相当の努力をしているにも関わらず、未達が続くと燃え尽きてしまうことがあります。
方や、どんなに失敗を重ねても心折れずに前進し続ける人がいます。
その違いは、プロセスから学びを得られるか、結果の受け止め方にあると考えられます。

そこで、今回は学習性無力感という概念に用いて、成長に繋がるプロセス管理方法を考察します。

▶︎学習性無力感

抵抗や回避ができず、ストレスが大きい環境に長い間い続けた結果、不快な状況から脱却する行動ができなくなる状態。
ポジティブ心理学と呼ばれる分野を創設したペンシルバニア大学の心理学者のマーティン・セリグマン教授が提唱。


どれだけの努力を重ねても、いっさい変化が起きないと感じると、希望が持てずに自発的な行動をしなくなるとの心理状態を示す概念です。
一度、学習性無力感に陥ると、「どうせ無理だ」との考え方が染みつき、状況が変わろうとも容易には脱することができなくなることから、未然に防ぐことが重要となります。

それでは、学習性無力感を防ぎつつ、成果を最大化していくためには、どのような工夫ができるのでしょうか?

▶︎成功体験を重ねる目標設定

組織規模が大きくなるほど、事業成果を最大化するためのトリガーとして中間指標は平準化されていきます。
平準化の目的は最大効率化であり、プロセスにおける多様性を排除することになります。
つまり、平準化された中間指標においては、個力に応じた目標設定をすることはできません。

そこで、個力に合わせた目標設定をするためには、下記のようにチーム単位で調整することがポイントになります。

前提:個人商談目標10件/月、3人チーム
Aさん:次期リーダーとしての期待。Cさんの分をカバーし、15件/月へ調整
Bさん:他メンバーのカバーする余力はないため、10件/月を死守。
Cさん:入社3ヶ月の立ち上げ期のため、成功体験を掴むために5件/月に調整

上記のようにチーム目標を按分することで個力に合わせた目標設定を行い、達成度合いに応じて右肩上がりに翌月の目標を上方修正していくことが有効です。
また、チーム単位の成功体験を得るためには、マネジメントレイヤーでチームごとの個力に応じた調整を行うことも望ましいでしょう。

グローバル水準の人事施策をテーマとした南和気さんの著書『人事こそ最強の経営戦略』では、下記のように成功体験の重要性が説かれています。

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失敗を経験することも大切ですが、人は成功体験によってモチベーションを高めて成長する部分が大きいので、早く成長させたいのであれば、意図的に成功体験を与えることが大切です。
日本ではよく、「若いうちに成功体験していると成長しない」といわれますが、これは大きな誤解です。成功体験をさせたあと、さらに次のチャレンジを適切に与えることができれば、人はどんどん成長します。
ーーーーー


ドラッカーは、マネジメントの重要な仕事の一つに目標設定を挙げており、個人の一つ上の期待値を示すことが有効だとしています。

平準化された目標設定では、トップパーフォーマーの基準は下がり、ポテンシャル層は努力するほど学習性無力感に陥るリスクがあるため、根性論ではなく、個力に合わせた下限値と理想値の目標を設定して、小さな成功体験を積み重ねることが学習性無力感を防ぐために必要です。
人は成功体験を積むほど、「自分ならできる」と自己効力感が高まり、パフォーマンスが向上していきます。
自己効力感に関する記事

▶︎成功要因を積み重ねる能力評価

再現性を持って成果を出すためには、成果の要因分性が重要です。
どこまでが実力で、どこまで努力で、どこまでが運なのか。
成果には、運の要素が入るため、実力と努力を振り返らなければ再現性を発揮することができないのです。

成果を振り返る評価制度では、大きく下記の3つの区分があります。

①能力評価:
職能スキルや汎用的な業務遂行能力(課題解決力など)と”プロセス”を評価する
②業績評価:
数値化された貢献度と”結果”を評価する
③情意評価:
意欲やバリュー体現と”カルチャーフィット”を評価する

3つの観点がある中で、能力評価と情意評価を加味しなければ、ラッキーパンチも混在して成果創出のプロセスから学習することができず、短期的な視点で数字を作るための自転車操業に陥り、最悪なケースでは倫理観の欠けた行為が周囲で散見されるようになり、足元の努力と結果が接続しづらくなります。
さらに、公平にすることが難しいチーム編成や担当顧客、業績に直結しない役割などの要素が入り、難易度が高い目標を課せられる方が低い評価になりやすいと感じると、「不利な状態でコツコツとがんばっても‥」と学習性無力感が助長されます。

そのため、下記のように成長段階と責任の度合いに応じて、評点設計を工夫することで、実力と評価を連動させて成長意欲を高めていくことが重要です。

前提:グレード(G)の数字が高いほど責任が重く役職がつく
G4:能力評価20%、業績評価70%、情意評価10%
G3:能力評価30%、業績評価50%、情意評価20%
G2:能力評価40%、業績評価30%、情意評価30%
G1:能力評価50%、業績評価10%、情意評価40%

能力評価を含めることで成果創出のための変数を除外した素地を見定めることができます。
例えば、担当顧客のポテンシャルに左右されず、「新規顧客に〇〇を訴求できる」と提案力を評価することができたり、新人マネジメントが担当メンバーの習熟度に左右されずに「過去最高の成長を支援できる」と育成力を評価することができたり、とに引き上げていくべき実力を適切にスポットライトを当てられます。

業績貢献が不足していた場合にはリベンジに繋がるプロセスの成長度合いを振り返り、業績貢献が大きくても再現性に懸念があればプロセスの改善ポイントを振り返ることで、「努力し続ければ変えられる」と捉えることができ、学習性無力感を防ぐことができると考えられます。

「〇〇をすると△△となる」と成功/失敗要因が不明瞭のまま、結果だけを見てフィードバックをしても納得感が得られずに、「どうせ外部要因に左右される」と反発となる心理的リアクタンスが生じやすくなります。
心理的リアクタンスに関する記事

個人の視点では、組織から課せられる目標を達成することは報酬に対する等価交換として当然の責務ではありますが、目標達成=自分の価値が上がるのではなく、「目標をどうやって達成したのか?」と再現性のあるプロセスに価値があることに注意しなければなりません。

▶︎希望を持ち続けられるプロセス管理

アメリカのギャラップ社の調査によると、ビジネスパーソンを対象に実施した調査によると、ここ数年で「静かな退職」が増加傾向にあるとされています。
「静かな退職」とは仕事への意欲を持たずに、必要最低限の仕事をこなしていく働き方のことを指します。
組織内で「静かな退職」が増加していくと、組織のミッションやビジョンに向かうためのポジティブな向上心が薄れていくと考えられ、その背景には、「努力してきたが、もはや無意味に感じてしまった」と学習性無力感があると考えられます。

予防医学研究者の石川善樹さんの著書『フルライフ 今日の仕事と10年先の目標と100年の人生をつなぐ時間戦略』では、人は誰しも飽きやすい気質であり、変化や学びがないと人生に不満足感を持つと述べられています。

自らの努力次第で、目の前の仕事の成果を変えられると思い続けられるように目標管理や評価制度を通じて、プロセスを管理していくことが、個人のモチベーションにつながり、組織パフォーマンスの最大化につながり、人と組織の双方の希望となるではないでしょうか。

個人においても受け身で悲観的にならずに、仕事は自分次第で変えられると主体的にジョブクラフティングをして希望を持ち続けることも大事です。
ジョブクラフティングに関する記事

※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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