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普通の都市になれベルリン

敗戦占領による国家分断という惨劇をのりこえ再統一をなしたドイツだが、その方法に瑕疵があったため様々な問題が発生した。

前出した東ベルリン出身の彼女はいちどは国を捨て米国移民をしたが、何があったのか委細は知らぬがしかし結局は再帰国し新たな職をえて旧東地域に暮らしている。

東西の格差と差別は依然として存在するようだ。

博物館島の一つボーデ博物館の前で演奏するデキシー・バンド。レヴェルはかなり高かった♬


再統一時には国家再建に一世代かかるといわれていた。しかしその一世代30年が過ぎても東西問題は存在する。東独の独裁党だった旧社会主義統一党(実質共産党)が改名し民主社会党(PDS)となった。現在は社会民主党(SPD)から分裂脱党した左翼が結成した「労働と社会的公正のための選挙オルタナティブ(WASG)」と合併して左翼党(Die Linke)と称すが選挙において旧東独地域では最も多くの支持を得、よい結果を出し続けている。

戦後の西ドイツが安保外交上は対ソ連の関係上、米国に追随する保守及右翼的政策だったが内政的及教育方面ではかなり左翼的だった。少し日本とも似た状況だ。

旧東独地域では急激な資本主義化についてゆけず社会主義的生活保障を期待する国民が多いのだ。

シュプレー川東岸は「イーストサイド」と呼ばれ旧東独の様相を色濃くのこしていたが、今ややっと再開発中である。


東側再建はゆっくりと進捗している。あと二世代を要するかもしれない。とすれば再統一は百年の事業となる。

戦後は旧ナチスとその指導者は絶対悪と定位されそれを見直すことは違法である。再統一以前はネオナチの活動は活発だったが以後は萎んだ。しかし「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」(PEGIDA)などに形を変え存在し続けている。

そしてPEGIDAは、建党時は反EU政党だった「ドイツのための代案(AfD)」(これをわが国媒体は「ドイツのための選択肢」と訳すが誤訳だろう。選択肢を使用したいのなら「別の選択肢」と正確を期すべき。)を乗っ取り、メルケル時代の中道右派と自称するリベラル政策にうんざりした保守派の不満の受け皿になっている。

旧東側の中流層住宅地域だった一帯


ドイツ再統一の一方でECがより統一国家色を強めたEUが成立し、また統一通貨ユーロが導入されたため、ドイツの政治経済社会状況はより複雑化した。

とくにユーロは名を変えたドイツマルクと見られ最も利益を得たのはドイツであるとは他国の大方の見方だが、しかしドイツ国民と住民から見るとそうでもない。

再統一にくわえてEU以後のドイツの生活水準は明らかに低下し、逆に比較的貧しかったスペインやイタリアのレヴェルが上がった。休暇でそれらの地を訪れたドイツ人は支出が増えたもののそれに見合うサーヴィスが少なくなったことを身にしみて知るのである。

つまりEU域内での標準化が成功しているのだ。それまでドイツ人が謳歌していた経済的優位性はすでに消滅している。

誰が得をしたのか?グローバル大資本である。


その大儲けした連中がさらに「グレートリセット」などとふざけたことを言い出しても国民が信ずるわけがない。

シリアとイラク内戦にコミットした連邦政府は、北イラクに軍事顧問団を派遣し武器援助もしたが、その後どうなったのか報道はない。ただトルコがプールしていたシリア・イラク難民を放出したためドイツが主にそれを受けいれることになった。

難民受け入れは当初の人道的な偽善から変容し、経済的社会的にドイツに利益をもたらし始めている。街にはアラブ式飲食店が増え、大学にもアラブ人学生が多くなった。政府は税収が増え将来の国の基幹となる人材が確保できたわけだ。

リベラルな国民はさらに国のリベラルな政策を支持するだろう。

しかしドイツはますますドイツではなくなりつつある。目指すはアメリカ合州国なのだろうか?

旧東側のとあるSバーン駅

国民国家を消滅させ欧州統一政府設立を目指すEUは解体するだろう。フランスの国民連合(Rassemblement National:RN)のマリーヌ・ル・ペン氏が唱えるEU解体し緩やかな国家連合を目指すポリシーはすでに極右とはいえず現実的なアジェンダとなりつつある。今回の大統領選挙では「マクロン・ジャンプ」といわれる不正があったため惜敗したが、おそらく今後は彼女の考えが主流になる予感がする。

それが欧州に暮らすものの生活感覚である。

ドイツではどうだろう。旧東独の国民にある社会主義政策へのノスタルジーにもうまく迎合する内政政策を打ち出せる政党が出てくれば希望はまだある。

マリーヌ・ル・ペン氏の政策がまさにそうなのだが、ドイツの既存の政党にはその期待はもてない。

ナチ党は正確には「国家社会主義ドイツ労働者党」という。うまく名付けたものだ。これで多くの選挙民が投票した。

中央駅

マリーヌ・ル・ペン氏も大統領当選後は政策変更するかもしれない。しかし基本的に反グローバリズムなその姿勢は大いに評価したい。

ドイツにもその芽はAfDとしてあったが上記したように反イスラム右翼に乗っ取られてつぶされた。

ドイツは、わが国日本より普通の国により近い。このままもっと普通の国に戻って欲しいものだ。

長くなったがこれでベルリンについては一段落とする。

この週末にはアムステルダムへ5年ぶりの再訪が予定されている。次回はそれについてのリポートとなるだろう。


撮影機材 Leica M Monochrom(Typ246)+ Summaron M 5.6/28





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