見出し画像

韓国ドラマ「シークレットガーデン」ー挿入歌がかき立てる恋する切なさ

(写真はNetflixからの転載)


<はじめに>
キム・ジュウォンを演じた若き日(12年前)のヒョンビンが魅力的だ。

同じヒョンビン演じる主人公でも「愛の不時着」では、寡黙であまり表情は変えないキャラクターだったが、ユン・セリを慈しむような眼差しに魅了された。

このドラマでは、もっと不完全で人間臭いキャラクターで、ヒロイン、キル・ライムを何度も傷つける。そのたびに自省したり、苦悩したり、とその時々に見せる彼の多彩な表情が魅力的だ。そして少年のような可愛らしさとちょいワルな表情も😍

ドラマでは、彼の歌う挿入歌「その男」がいい。同じメロディーの「その女」と交互に流れるのだが、そのタイミングが絶妙で、心をわしづかみにされる。

「あなたを一生懸命愛している男/女がいます・・・」と歌い上げるその歌詞、恋する二人の切ない心情がひしひしと伝わってくる。

<私の視点>

私は、御曹司が女性の純粋な愛の力で、従属的な生き方(母の支配)を拒否し、自分の人生を自己決定するーいわばエンパワーメントと自立の物語として見た。

この御曹司に焦点を当ててストーリーをながめれば、一途に一人の女性に思いを寄せ続けても、愛に懐疑的で臆病で、今享受しているものを手放せない。

女性と新しい将来に進む決心がつかず、葛藤し苦悩する姿が描かれている。その姿には彼のずるさも感じる(そして、彼はそれを十分自覚している)

女性の方は、愛に対してもっと純粋だ。しばしば引用される愛に殉じた人魚姫のように。最後は全てを捨てても彼女と生きることを決意する。

このドラマ、財閥の御曹司と貧しいスタントウーマンの恋、それを邪魔する醜い彼の母親という定番の設定なので、この時点ですでに拒否反応を示す人がいるだろうと思う。

この設定はあまりにありふれていて、私も好きではない・・・。その上、魂の入れ替わりというファンタジーまで加わる。

母親のシーンはあまりに醜悪で。醜悪すぎて芝居がかって見え、ドラマに流れる恋する男女の切ない雰囲気が壊されてしまった。

韓国で高視聴率だったのは、この母親の仕打ちに苦しむ2人の姿だったのだろうか?

韓国ドラマにはたびたびこのような母親が登場するが、韓国の視聴者が好む設定なのだろうか?私は見ていてとても不快だったし、母親の存在がなければこのドラマはもっと気品のあるものになっていたのにとさえ、思ってしまう。

さらに、魂の入れ替わりという設定は、自分ではどうしても受け入れられないものだったけれど、「他者の靴を履く」ための手っ取り早い仕掛けととらえた。

視聴者によっては、入れ替わった時のシーンを楽しんだり、演技を評価する向きもあったけど、入れ替わることで二人の理解を早急に深めることができた。それまでの衝突や行き違いの理由が明かされ、徐々に回収され、心の奥に仕舞い込んだ本心が浮かび上がる。

キル・ライムの発する言葉に心動かされた。たった一人で生きてきた彼女の人生の中から紡ぎ出された言葉だからだろう。

彼女の発する言葉は、説得的で力強い。そんな彼女が、彼の心を突き動かし、人生を決断させ、母親から自立する力を与えたのだろう。

母親により社長を解任されようとしている時、「キル・ライムは大した女だ。僕の根源を揺るがすとは歴史に残るよ」と彼に言わせ、その座を捨てる覚悟さえさせている。

<キム・ジュウォンとキル・ライム、その人物像>

キム・ジュウォン
彼の主治医の精神科医が「意識が高い人の典型的な自己防衛反応よ」(第18話)と評しているように、本来の彼は、繊細で、純粋で、俗物的なものが嫌いな洗練された感性を持つ人ではないか。

そして、「不思議の国のアリス」を愛読する純粋でいたずらっ子の可愛い少年が心に住んでいる。彼の高慢で、不躾な態度は、そんな自分を隠すための鎧のようにも見える。

ドラマの中で、キル・ライムが「本当の子供はおとなのふりをする」と彼の従兄弟オスカーにいうセリフがあったが、何故かそれはキム・ジュウォンのことを言っているように感じた。偉そうに大人ぶっているけど、いたずらっ子の少年の顔がたびたびのぞく😝

だから、見合い相手の上流社会の鼻持ちならない女たちに対しては、高慢で、不躾で、不遜な言動で自分を防衛する。本来の彼の価値観に照らせば、最も俗悪で醜悪な人種だろうから。

その象徴が彼の母親だ。俗物的で、地位や名誉ばかりを気にし、息子を支配し、必死に自己保身・自己保全だけを考えている。品性も知性も感じられない。子離れできない母親の嫉妬心と執着心。歪んだ愛情に気づけない哀れさ・・・。

そんな彼だが、現実では、経済的にも精神的にも未だ自立していない。社長とは言え、親の経済的基盤に依存している。醜悪で強圧的な母親の支配下にあっても、反旗を翻し自立するまでにはいたっていない。母親の考えを否定して乗り越えられず、自分の嫌悪する上流社会の常識とやらにこだわり、社会的地位や経済的地位を手放せないでいる。

恐らく彼は本気で恋をしたことがないはずだ。恋についての彼の幼稚な言動がそれを物語っている。「恋はホルモンの病気」「結婚はビジネス」とクールに言って憚らない彼だが、現実の彼は一目惚れしたライムのことが頭から離れない。

でも、今まで出会ったことがないタイプの女性で接し方がわからない。彼女の関心を得ようと、まるで小学生の男の子が好きな女の子をからかうかのように、彼女に接する。

しかし自分のプライドを傷つける彼女の手痛い反撃に、本当は思ってもいない、辛辣な言葉がつい出てしまう。そして彼女を傷つける。

傷つけたことで、忸怩たる思いにかられる。彼は非常に内省的な人間である。傷つけた出来事を繰り返し思い出しては苦しそうだ。

本心と外向きの言動を乖離させて生きている自分がいつも空回りしている。そして、軽い気持ちで近づいた自分がいつしか彼女を真剣に好きになっていることに気づく。

キル・ライム
対照的なのが、キム・ジュウォンの好きになったキル・ライムと言う女性。父を17歳で亡くし、この13年間自分の力で生きてきた。「頭を低くして生きよ」と言う父親の教え通り、謙虚で、純粋で、強い人だ。彼女には、嘘がない。自分の信じるように話し、行動する。

彼女の口をついて出てくる言葉には、鋭さと人の心を揺さぶる力がある。自分の生きて来た人生の中で身につけた信条に裏打ちされているから説得力がある。

彼女は、世俗的な価値観などに振り回されない自立した女性だ。その言葉には、キム・ジュウォンの屈辱的な言動ー家柄とか学歴とか貧富とか社会的地位とかーに堂々と立ち向かい、彼を黙らせる凄みさえ感じる。

第5話で彼に言われた「金持ちの望む不平等と差別」という不快な言葉を別のコンテキストでキッチリ言い返している。賢い人である👍

10話豚皮の店で、ジュウォンに取り分けてくれないライムに対して「君は平等に取り分ける義務がある」と言った彼に、「不平等と差別がお金持ちの常識だったはず」と言う。痛快なしっぺ返しだった👊

そんな彼女がキム・ジュウォンの心の奥にしまい込んだ純粋な思いを強く揺り動かしたのだろう。恐らく彼女も恋をしたことはないだろう。孤独な心を強さで隠し一生懸命一人で生きてきたのだろうから。

だからキム・ジュウォンに優しくされた時の彼女の戸惑った表情に閉じ込めてきた寂しい心が滲む。「君はどうしてそんなに悲しい目をしているんだ」とキム・ジュウォンに言わせるほど。彼は彼女の強気な態度の影に、可愛らしい表情が隠されていることを知っている。

<噛み合わない二人>
人は常に自分の尺度で他者を見る。だからそこに誤解や気持ちの行き違いが起き心が傷つく。

人生の大方の苦しみは、人間関係から生まれる。だから他者の立場に立って他者を理解できる能力=Empathy エンパシーをもつことは、人間を豊かにし、人間関係に潤いを与える。が、これがなかなか難しい。

第3話 撮影現場で監督にいびられ、謝り続けるキル・ライムをキム・ジュウォンが救うエピソードがあった。

ライムの前にデパート社長として颯爽と現れ、彼女を特別扱いした。そんな彼の素性を知らなかった彼女にしてみれば戸惑いを禁じ得なかったろう。

その上、スタントウーマンという自分の身分をわきまえ、控えめに振る舞うことでこの世界を生きてきた彼女にとっては、彼のしたことは、それを踏みにじる行為だったろう。だが彼にはそれが理解できない。

彼は自分の行為に対して感謝の意を表さない彼女に怒りをぶつける。そんな彼女から返ってきた言葉:

「謝って何が悪いの。私は100回だって謝るわ。謝ることができる機会に感謝してるの。それが私なの。でも、あなたのせいで変なうわさをされて、今後さらに謝ることになりそうだわ。・・・私に必要なのは独り善がりな社長の善意じゃないの」

英語訳は、”That’s how I make a living. I’m saying that I don’t need the philanthropy of an immature department store CEO who is so eager to look good.”

私はそうやって生きてきたの自分をカッコよく見せたがっている青臭いデパート社長の善意なんか必要ないの」

さすがのキム・ジュウォンもこの言葉に衝撃を受けたことだろう。自分の下心が見透かされてしまった。いかにも彼の振る舞いは、上流階級で生きてきた人間の思い上がった独善的なやり方だ。

自分のプライドに冷や水を浴びせられた思いだったろう。

彼は、彼女の残していった四万ウォンを前にして、考え込む。言われたことは最もだ。でもオレ様男の自分のプライドも傷ついた。そして、更に彼女の心を傷つける。

第3話 なんとか口実を作って彼女に会いたいキム・ジュウォンは、立て替えた金の残りを届けに来いと高級そうなクラブに彼女を呼び出す。彼女としては、精一杯のおしゃれをして出かけた。

だが、彼にとっては、彼女の格好がその場に不釣り合いだった上に、切れたストラップを安全ピンで止めたヨレヨレのバッグが目に入ったことで、怒りがわき彼女に屈辱的な言葉をぶつける。彼の主張は:

「立て替えた金だけのつもりで呼んだわけじゃない。僕に配慮していたら、来る前に鏡くらい見ていたはずだ」

(英語訳)
“You know I’m not the kind of guy who would call you here over 2000 won.””If you had any consideration for me, you would’ve checked the mirror at least once before you came here.”

自分に対して、着る服やバッグに気を使うくらいの配慮をしてもいいのではないか、と。
「カバン一つ買えない女にぼくはときめいていたのか」(そこまで言うか😡)

彼女の体が屈辱感と羞恥心で震えていたのがわかる。
「誤解しないで、私の用件はこれよ」と言って、折れた2000オンを机に叩きつける。

私には、初め彼が彼女にあんなに屈辱感を与える理由がわからなかった。が、「2000ウオンのためだけに呼ぶような男ではない」に彼の思いの全てが現れていると思う。

彼としては彼女に会えるデートのつもりだった。それが、ライムのみすぼらしい鞄を見て、自分に気遣いをしない彼女に怒りを感じると共に、そんな期待をした自分にも腹が立った、ということか?。

「カバン一つで互いの心がわかってしまう関係」と言っているように、ライムは今まで感じたことのなかった貧富の差をまざまざと感じ取ったことだろう。

あまりに一方的な言い分で、自分なりにおしゃれをしてきた彼女への配慮はまったくなかった。だが、その後、出口で、ライムは彼の従兄弟オスカーとぶつかりバッグのストラップが切れる。その時のオスカーの言葉:

「ピンで応急手当していたのか。ライムさん、センスあるなあ」(直してあげるよ)とまで言っている。

こんな思いやりのある言葉をかける姿を目撃したキム・ジュウォンは、自分がさっき彼女に言ったことがいかに配慮に欠けたものだったか、後悔したはずだ。

だからライムの後を追い、彼女がストラップの安全ピンにスカーフを巻きそっと隠す姿を眺めた時のことは、彼の心に焼きついたはずだ。

(後になって、特注のバッグチャームをプレゼントしている。ずっと引きずっていたのだと思う)

また彼女を傷つけてしまった。このバッグのことは、触れられたくない苦い記憶としてずっと彼の心に残った。彼のこの気持ちはオスカーに見透かされていた。(ボロいカバンを持ち歩く彼女は、我々がそれをどう思うかも想像しないほど純粋な子なんだ、と言われる)そして、

第4話 心当たりのない掃除機が当たったと連絡を受け、取りに行き、彼に出くわし、また同じ怒りを買う。

自分がファンだと言った女優が景品の掃除機を受け取りに来たと知ったら社員たちはどう思うかと。自分への気遣いはないのかと。

ここで彼は、ロケの時の屈辱を晴らしている。「生まれて初めて女性を食事に招待し」と言うことばにそれが現れている。そして自分が彼女にはらったと同じ敬意を自分にもはらって欲しい、と。これは彼の本音だろう。

「安バッグの次はこれか?」
「僕はどうかしていた。掃除機をもらいに来る女に、、、」

ライムは、掃除機をとりに来た自分の軽率さを謝罪するが、掃除機はもらうと主張する。社員には「遊んで捨てた」と言えばいいと言い返す。

この言葉に怒ったキム・ジュウォンは、ブランド服売り場にライムを連れて行きドレスを手当たり次第に取り出して、試着しろと言う。

そして、自分と遊ぶと言うことはこれくらいのドレスを着た女が言うことだと。着せて何をするのかと問うライムに、

「自分が手の届かない男だと言うことを教えるためだ」???

「腹立たしいのは、自分は君を理解するために努力したのに君が自分をどう言う立場の人間かを5分と考えないことだ」と。

これはさすが言い過ぎだろう。「手の届かない」とは彼女を対等には見ていないということか。自分が一方的に好きになっておいて、彼女が彼の社会的立場について考えないことに対して怒りをぶつける、何という理不尽な主張。このことはライムが掃除機を返しに行った時に、もっと差別的な言葉を使って謝罪(?)している。

そのくせ、陰で一生懸命花びらで「好き?嫌い?」の占いをやっている。このギャップ、どう解釈すればいいのか。

ここで疑問が残る。一体誰がライムを掃除機の受賞者に選んだのか?

キム・ジュウォンは否定していたが、では誰なのか?彼女のプライドを試すためにキム・ジュウォンが仕組んだのではないのか?

今までの一連の彼の無礼な言動は、裏を返せば自分に関心を示さないライムに対する怒りと自分にもっと目を向けてくれという彼の叫びではないかと思う。

ライムの付け入る隙のない岩盤のような態度に、彼も攻めあぐねているのだろう、きっと。これらの出来事を思い出しては、苦しそうに顔を歪めるほどだ。

第4話 そしてまたまた掃除機事件の続き。取りに行った時は散々屈辱感を与えておいて、ライムの元へ掃除機を届ける。ライムにしてみれば、今更そんなものなど受け取リたくないだろう。

だから返しに行ったら、自分もいらないからと言って掃除機を池に投げ入れ、欲しければ拾えと言う(何でそんなことするの😡)

彼女はその行為に憤り、水の中に入って行って取り出し、持ち帰ろうとした。今度は彼が以下のように言って彼女に怒る:

「何という女だ。拾えとか謝れとか言えよ。付け入る隙もない」(私にはこの日本語訳、理解不能)

(英語訳は、”What kind of woman is this spiteful? If I threw the box, you should ask me to pick it up or apologize. Give me some room to squeeze into your heart”)

つまり「何でそんなに意地悪なんだ。僕が、投げ入れたんだから(悪いことをしたんだから)、取って来いとか謝れとか言うべきだろう。僕にも君の心に入り込むチャンスをくれ(=自分にもう少し心を開いてくれ)」ということ?

なんて面倒臭い男なの?自分で悪いことをしておいて、それを怒らなかったと言って文句を言うなんて。でも池に入るという意表をつくライムの行動は、キム・ジュウォンを圧倒したはずだ。さすが、ライム👏

第5話、彼にとっては女は遊び相手か結婚相手の2種類だとライムに言う(無礼なヤツ😡)

選ばれたらシンデレラになるのかと聞くライムに対し、いや人魚姫だと答える。ひっそりと存在し、泡のように消える、それが彼の常識だと。「だから一度抱かせてくれ」と。なんたる侮辱!

彼女は、彼の頬に平手打ちをくらわせる。この男、どこまで彼女を傷つけるんだろう。

でもこれは、彼の本心ではないだろう。後のエピソードで、ライムを抱きしめながら、長いおまじない「金寿限無 亀と鶴・・・・・」を唱えて自分を抑えていたのだから😅。何故、偽悪的に振る舞うのか?

<他者の靴をはいてみる>
第6、7話 ここ済州島で、二人の魂が入れ替わる事件が起きる。まさに「他者の靴をはく」ことになり、二人はお互いの過去や感情に気づき始めるー他者理解のためのとても手っ取り早い仕掛け(ここがファンタジー)。

ライムの体になったキム・ジュウォンは、ライムのあざだらけの体に衝撃を受ける。彼女が家族もなく、たった一人の力で生きて来たことを知る。彼の口からライムをいたわるような優しい言葉がこぼれる。

キム・ジュウォンの体になったライムは、キム・ジュウォンの寝室で、自分が傷つけられた時の紙幣、バイクの鍵がきれいに置かれているのを見つける。それを見て、今まで見えなかった彼の心を感じ取る。

ライムは、彼と同じ本を購入し、彼が本を読みながら何を思い感じたのか、心の中を知りたいと思う。

「見落とした本当の気持ちが分かるかも」と。

キム・ジュウォンは、彼女を傷つけた物を身近にとっておくことで、恐らく自分への戒めとしたのだろう。こんな入れ替わりが繰り返され、二人はお互いに理解を深め、距離が徐々に近づいていく。

<乗り越えられない壁=それは母親ではなく彼自身>             
二人の前に立ちはだかる母親にどうしても立ち向かえないキム・ジュウォン。彼は、自分の持っている社会的地位や経済的基盤を手放すつもりはない。だから、ライムが何度もこの母親に呼び出されて屈辱的な罵声を浴びせられても、彼女の立場に立った発言をしない。その度に傷つくライム。

でも本当の障害だったのは母親ではなく、キム・ジュウォン自身だったと思う。だからライムが傷ついたのは母親の言葉にではなく、彼の言葉にだったと思う。

彼はいつも母親の思いに沿った発言をして、ライムの期待を裏切る。まだ打算的な考えが捨てられず、自立して生きようとの決断ができない。愛に対しても臆病で、懐疑的な彼の言動がライムを傷つける。

彼はそんな自分のズルさを十分自覚している。友人の精神科医の女性との関係もそのようにして終わったことに気づく。「彼は守ってはくれないから。平凡な女を守る理由がないから」と言われたライムの体になったキム・ジュウォンは、その言葉を聞き、過去の自分の仕打ちを悔いたはずだ。

オスカーにも同じようなことを言われる。「これ以上、ライムを傷つけるな。お前と同じ人間と結婚しろ。彼女はお前にはもったいない」と。自分が「卑怯で最低な人間だ」と感じる。

ーこのドラマに登場する母親のシーンは醜悪で時代錯誤的ではないかと感じている。この母親のシーンがこのドラマの品位を相当落とし、つまらなくし、ありふれた下世話な話にしてしまっている。

キム・ジュウォンの母親からの自立もしくは自己の覚醒=エンパワメントという視点で描くなら、母親を対峙させるより、ライムの愛の力に焦点を当てて描いた方が良かったと思う。

問題の核心は、彼の自立心、意識にあるのだから。しっかりしろよ、キム・ジュウォンとハッパをかけたい気分だった。

ライムになったキム・ジュウォンが母親からの手切金を受け取ったことを知ったライムは、貧乏でもプライドがあると激怒する。このシーンなどライムの感情を全く考慮していない。

ライムはもう二度と彼とは会わないし、二人の間には何もないと母親に伝えてと言った後、以下のように言う。

あなたに言われて考えてみたけど、私は人魚姫にはなれない。何故だと思う。人魚姫は王子を愛してたの」

と。英語訳では、

I don’t deserve it. Do you know why? At least the little mermaid loved her prince”

 私は人魚姫にはなれない。そんな資格はないからだって王子を愛していなければ、人魚姫にはなれないもの。

王子を愛し愛に殉じた気高い人魚姫にはなれない」この言葉、キム・ジュウォンにとっては、痛烈な一撃だったと思う。

この言葉を告げられた時のキム・ジュウォンの表情は、何かに打たれたようだった。人魚姫を愛人物語とドライに称していた彼だが、「人魚姫(=愛人…ライム)の愛」について言及された時、自分の心の奥にある思いが目覚めたのではないだろうか。

愛に殉じた「人魚姫の心の気高さ」こそ、ライムが伝えたかったことだろう。この瞬間ライムの意味する「人魚姫」という言葉がとても尊く感じられた。

第11話、次に母親に呼び出された時、彼女とは遊びだと言われる。この時も、彼は言われた側の心情より自分の論理を優先させていた。そしてそれは彼の常套手段だった。その言葉にさすがのライムも激怒する。

「息子さんにとって私は遊び相手のようですが、彼は遊ぶ価値もありません。彼をしっかり管理して私に近づかないようにしてください」

このシーンはとても切なく辛い。キム・ジュウォンがライムの肩を持たずにあくまで母親の意に従った言動をするのは、母親をそれ以上激怒させないためだと言う。そんな彼にライムが言った言葉:

“Do I become temporary just because you say so? Who are you to treat me like this? You think I have no pride?

(ここからライムの悲しい叫びが読み取れる。「あなたの一言で私はあなたのお遊びの相手にされるの?あなたにそんな資格があるの。私にプライドがないとでも思っているの」と)

「僕と付き合うならそれぐらい分かっているだろう、間違っているか」と聞かれ

「その通りね。いつも正論だわ。でもね、反論できないことがとてもつらい。

英語訳:“You are absolutely right. You are always right. But the fact that everything you say is true hurts me a lot.”(あなたが話すこと全てが正しいという事実が私をとても傷つける) 

彼がそのように考えること、彼の論理は十分理解できる。だからそれを否定はしない。自分の思いとは違っても・・・・・。(すごいエンパシーのある人である!でも私はそのことですごく傷ついている)

「この世には知らない方が幸せなこともあるの。私にとってあなたはその一つよ。いい人を探して。お母さんのためにも」

すると、しまいにはキム・ジュウォン自身が人魚姫になると言いだす。現在の自分の地位や財産を手放せない彼の考え抜いた妥協案なのだろう。打算的で、愛することに懐疑的な彼に、その時ライムが言った言葉:

「そんなに好きなのに私との未来は泡になるのね。つまり、私たちはどれだけ愛を育んだとしても跡形もなく消える関係なんでしょ」

「泡になるために美しくて幸せな愛を育む女がいると思う?終わりを知りながら恋愛を始める女はいない。だから私たちは前に進めない」

母親の卑劣な干渉にひどく心を傷つけられたライムは、キム・ジュウォンに自分の惨めな現実から出て行くよう、そして元の自分の世界に戻るようにと別れを告げる。

母親からも彼女を選べば今享受している全てを失うと通告される。そして・・・・・。キム・ジュウォンが出した答えは?

クリスマスパーティーで、キム・ジュウォンは自分に会いにきたライムに、彼女を選んだことを伝える。パーティーの会場ではばかることなく彼女に熱いキスをして・・・・・。

疑問ーこれまで、自分が人魚姫になって、ひっそりと消えると言っていたキム・ジュウォンの心が変化したのはいつだろう。結婚はビジネスだとか、ライムと結婚したとして自分は全てを失うのに「幸せに暮らしました」と言えるかとか、直前まで言っていたのに。どの時点で決心したのだろうか?

ライムに別れを告げられた時だろうか。母親に「あなたの敵は自分自身だ。ライムを選べば全てを失う」と言われた時だろうか。

ライムに会えない時間の中で、「外見はブランド品でも中身は最低だ」ーこんな自分の心の虚しさを感じたからだろうか。彼の心の変化が明確に表現されていないのでちょっと腑に落ちない。

その後ライムに入れ替わったキム・ジュウォンの口から母親に対してライムを選ぶと宣言する(この時のライムーキム・ジュウォンの姿のーの表情が輝いていた)

するとあきらめない母親は、ライムに対し、別れなければ息子を潰すとの最後通牒を突きつける。ライムはキム・ジュウォンの将来を守るために、人魚姫になって泡と消えることを選択する。

事故でライムの昏睡状態が続く中、彼は「不思議の国のアリス」にはさまれた人魚姫の最後が描かれたライムの手紙を見つける。この手紙に、命をかけて王子を愛した人魚姫、いやライムの愛を感じ取り彼は号泣する。以前、あんなに人魚姫になれと言っていたくせに・・・・・😡

彼女を失おうとしているこの時、彼は彼女の存在の大きさに気づく。そしてライムのために自分の命を捧げる決心をする。

脳死と診断されたライムと入れ替わることで彼女を生かそうと。何が彼を変えたのか?ライムという人の無償の愛の力でしょうね。

自立                      
キム・ジュウォンは母親との訣別を決意する。「34年間、あなたの息子として生きてきたが、あなたの息子であることをやめます。これからはライムの夫として生きていきます」と。

キム・ジュウォンがここまで来るのに、ライムはどれほど傷つき、涙を流したことだろう。それでも彼女が抱き続けたのは彼への純粋な思いだった。キム・ジュウォンは自分をここまで変えてくれた彼女の愛の力に、どんなに感謝してもしたりないだろう。

<心に残ったキル・ライムの言葉>

彼女の口から出る言葉は、他者への思いやりであふれている。エンパシーのある人だ。これらの言葉は一言一言、高慢なキム・ジュウォンの胸に刺さったはずだ。そして、彼の心は徐々に変わっていく。

①常に上から目線のキム・ジュウォンだが、自分の恋のライバルである従兄弟オスカーを気にかける理由を訊ねる、家族でも恋人でもないのに、と。それに応えたライムの言葉が光っていた。(第8話)

「ファンだからよ。撮影で怪我して帰る時、スタントのくせに・高卒のくせにと言われて謝る時、昨日まで元気だった仲間が一生歩けないと聞いた時、そして父が亡くなった時。その度にオスカーの曲に助けられたの。

体が入れ替わってよかったと初めて思えた。また、オスカーの力になることができるから」

②(スタントマンという仕事について「食事もできない、こんなきつい仕事なんて金や名声とも無縁なのに。命を危険にさらされる仕事をするなんて、誇りのためか?誰も脇役なんて覚えていない。誇りが何になる?」と言うキム・ジュウォンに対して(第10話)

「その通りよ。でもね、先輩は忘れない。この先輩も覚えていてくれる。この人も私を覚えてる。私も仲間を忘れない」(「数人の記憶に残って何になる?」とキム・ジュウォン)

「数人?あなたにそんな仲間が何人いるの?あなたの代わりにケガをして、お前が無事ならと言ってくれる仲間は?だから追い返したの。あなたが見下そうとも私たちはこの道を選んだ。心が熱くなれる仕事だから続けている。何様のつもり。仕事を評価されたくない」

終わりに                    

最後に明かされるキル・ライムとの初めての出会い。それは、13年前。殉職した父親の祭壇の前で泣いていた少女、それがライムであったということ。この話にも「運命」という要素が盛り込まれています。韓流ドラマには必須条件なのでしょうね。

もう一つの運命的なシーン。とても暗示的だったのは、あの彼女はヒョンビンとつながっていたのですね、12年も前に❤️

追記

Netflixのドラマでいつも感じるのは、日本語訳と英語訳の違い。韓国語がわからない私には日本語訳がしっくりこない時、英語訳と比べてみるのだが英語訳の方がオリジナルに近いのではないかと感じている。日本語訳が超訳すぎて日本語として通じてもオリジナルの本意からかけ離れてしまってはいないだろうか、と感じることがたびたびある。


この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

おすすめ名作ドラマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?