ハリネズミ君とクマ君
ある森に、小さなハリネズミ君がいました。
ハリネズミ君は背中に鋭いハリをたくさん持っているので森のみんなから避けられていました。
だから、ハリネズミ君はいつもひとりぼっちでした。
ひとりぼっちは寂しい。
ハリネズミ君はその気持ちをグッと抑え、いつもみんなにこう言いました。
「ふん!お前たちは僕の自慢の鋭いハリが怖いんだろ?僕に近づいたらハリでさしてやるぞ!」
寂しい気持ちがハリネズミ君を強がりにさせてしまい、ハリネズミ君は本当にひとりぼっちになってしまいました。
さて、そんな森の中に大きなクマ君がいました。
クマ君はとーっても大きいのにとーっても臆病者でした。
だから、森のみんなはクマ君を見かけるといつもからかっていました。
クマ君は自分が情けなく、いつもひとりぼっちでひっそりと暮らしていました。
ある日、ハリネズミ君はいつものようにひとりで森をトコトコと歩いていました。
すると、遠くの方から鼻歌が聞こえてきました。
とても楽しそうな鼻歌です。
ハリネズミ君は気になってその鼻歌が聞こえる方へトコトコと向かいました。
鼻歌が聞こえる方へ近づくにつれ、綺麗な花がたくさん咲いていました。
小さなハリネズミ君はお花畑の中に隠れながら、鼻歌の主に近づきました。
そこにいたのは、あの大きなクマ君でした。
クマ君は鼻歌を歌いながら楽しそうに花をつんでいました。
ハリネズミ君はクマ君のその楽しそうな様子を見て、お話をしたくなりました。
しかし、きっとハリネズミ君を見ればクマ君も、森のみんなのように逃げてしまう。
そう思ったハリネズミ君はお花畑の中に隠れながら、クマ君に話しかけました。
「クマ君、クマ君!」
クマ君は自分しかいないお花畑から声がしたのでびっくりぎょうてん!
きょろきょろと辺りを見回しました。
しかし、誰の姿もありません。
「だ、誰なんだい?僕を呼んだのは?」クマ君は恐る恐る聞きました。
「君を呼んだのは君の目の前にいる花だよ!」
ハリネズミ君は言いました。
「お花さん?」
クマ君は花々を見つめながら聞きました。
「そうだよ!」
ハリネズミ君は言いました。
クマ君はにっこりして、
「なんだ。お花さんかぁ!びっくりしちゃったよ。ごめんね。」
と言いました。
ハリネズミ君は
「クマ君、僕は君とお話したいんだけど、お友達になってくれる?」
と聞きました。
クマ君はにっこり顔のまま
「もちろんさ!」
と言いました。
その日からハリネズミ君は、毎日花の影に隠れてクマ君を待ち、クマ君も話し相手ができたことがとても嬉しくて毎日お花畑に通いました。
そして、ふたりは仲良く楽しそうにお話をしました。
ふたりがお花畑でお話をするようになってから何ヶ月も経ちました。
いつまでもこうやってお話してたいな…。
ハリネズミ君はそう思っていました。
しかし、もうひとつ思っていたことがありました。
「クマ君といつもお話をしているのは僕のなりすました花であって僕じゃない。いつかクマ君に本当のことを話さなきゃ。」
ハリネズミ君の目からポタポタと涙がこぼれはじめました。
「…でも、本当のことを話したら、僕だって分かったら、クマ君に嫌われちゃうかもしれない。もう会って話をしてくれないかもしれない。僕は………」
「ひとりぼっちはもう嫌だよ。」
その日の夜、ハリネズミ君は目に涙をいっぱいためて眠りにつきました。
次の日もハリネズミ君はお花畑に行きました。
そこにはクマ君の姿がありました。
ハリネズミ君はいつものように花の影に隠れてクマ君に話しかけました。
「やぁ、クマ君。今日は早いね。」
「お花さんおはよう、気持ちのいい朝だから早起きしたんだよ。」
ハリネズミ君は昨日のことを思い出し、また悲しい気持ちになりました。
すると、
「どうしたの?お花さん。元気が無いね。僕に話してごらんよ。」
と、クマ君が言いました。
ハリネズミ君はクマ君の優しさに涙がこみ上げてきました。
こんな僕に優しくしてくれるクマ君をいつまでも騙すなんて嫌だ。
僕のことをちゃんと知ってほしい。
本当の僕と仲良くなってほしい。
そして、ハリネズミ君はトコトコと花の影から出てきました。
クマ君は少しびっくりしましたが、ハリネズミ君を見るとにっこりしました。
「やっとちゃんと顔が見れた。」
クマ君の言葉にハリネズミ君はびっくりしました。
「知ってたの?僕が花じゃなくて、ハリネズミだったこと。」
「うん。知ってたよ。」
「いつから?」
「少し前だよ。お花さんと話し終わった後にいつもみたいに帰ろうとした時に振り返ってみたんだ。そしたら、君が花畑から出ていくのが見えてね。次の日、声のする場所をじっくりと目を凝らして見てみたら、ハリネズミ君がそこにいたんだ。」
「なんで分かってたのに、言わなかったの?」
と、ハリネズミ君は聞きました。
「きっと隠れる理由があるからだと思ったからさ。君ならきっといつか姿を見せて話してくれるって信じていたしね。」
ハリネズミ君は不安そうな目でクマ君を見つめ、
「僕のこと嫌いになった?」
と聞きました。
クマ君は首をかしげて
「どうして?」
と聞き返しました。
ハリネズミ君は目にたくさん涙をためて
「だって、僕はずっと君を騙してたんだもん。」
と言いました。
クマ君は持っていたかごから大きなハンカチを取り出し、ハリネズミ君の涙をふいてあげました。
そして、
「僕はハリネズミ君のこと大好きだよ。だって友達だもの。」
と言いました。
「僕ね、ずっと森のみんなから臆病者って言われて友達がいなかったの。だからとても寂しかったんだ。君が僕に話しかけてくれてから僕は毎日が楽しくて幸せだったよ。そんな君を嫌いになる訳無いじゃないか。」
ハリネズミ君は嬉しくて嬉しくてまた涙が出そうになりました。
「僕もね、この背中の鋭いハリのせいで森のみんなに怖がられて、友達がいなくて寂しかったんだ。初めてクマ君を見つけた時に、クマ君とお話したいけど、僕のことを見たらきっと怖がっちゃうって思って、お花畑に隠れて話しかけたんだ。」
ハリネズミ君の言葉を聞くと、クマ君はハンカチでハリネズミ君をクルクルっと巻いて包むとぎゅっと抱きしめました。
ハリネズミ君はびっくりしましたが、初めて感じた自分以外の体温にクマ君の温かさを感じると、とても幸せな気持ちになりました。
「勇気を出してくれてありがとう。」
と、クマ君は言いました。
そして続けて、
「こうして、ハンカチで君を包めばハリなんて全然痛くないよ。」
と、にっこりして言いました。
ハリネズミ君はクマ君の目をまっすぐ見て
「僕とこれからも友達でいてくれる?」
と聞きました。
「もちろんさ!今度は僕のお家に遊びにおいでよ!」
と、クマ君は言いました。
それからも2匹はとても仲良しで、いつも一緒に過ごしていました。
まだまだ森の中ではみんなと打ち解けられない2匹でしたが、前のように寂しい気持ちはありませんでした。
自分を理解して側にいてくれる存在を見つけましたからね。
ハリネズミ君とクマ君が森のみんなと仲良くなれる日もそう遠くはないでしょう。
おしまい
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