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『不法侵入』考察

『不法侵入』はABEMAオリジナル番組「今日、好きになりました。」(以下「今日好き」)の主題歌として起用されました。「今日好き」とは"運命の恋を見つける、恋の修学旅行"をテーマに、初対面の現役高校生たちが2泊3日の旅をする恋愛リアリティ番組です。この番組から主題歌のオファーがきた時のACAねさんのコメントがこちらです。

そして、この曲のMVは「ずとまよ指折りの闇病み仕様」なんだそうです。

少なからずACAねさんの闇病みな感情とリンクしてそうですね。
不法侵入という言葉から、そっと忍びこむイメージが湧いてきます。「不法侵入 考察」と検索してみると、恋愛に関する不安やときめきなどに関する考察が多く見られました。絶対に相手に心を開くことは無いだろうと思っていたとしても、ふとした瞬間に相手の良いところが見えたり、なんだか惹かれていくことってありますよね。自分の心がいつの間にか好きな人に不法侵入されていた、あるいは誰かの心に不法侵入していた、そんな描写に見えるのも納得ですし、恋愛リアリティ番組の主題歌として書き下ろされたことも理解できます。ちなみにACAねさんの心にはしょがストちゃんが不法侵入していたみたいですね。

私は別の視点から『不法侵入』を考察してみました。まず、不法侵入をどう捉えるかにより曲の印象がガラッと変わります。どういうことかというと受動的に不法侵入「された」のか、能動的に不法侵入「した」のか。ACAねさんの実体験を元に曲を作っているのなら、誰かの心に不法侵入したのでしょうか、それともされたのでしょうか?
私はどちらも違うと思いました、「今日好き」という恋愛番組の主題歌なので、恋愛感情を表す曲という印象を与えていますし、歌詞も恋愛で感じるもどかしさ等が表されているようにも見えます。個人的に思ったのは、同じ恋愛番組で「あいのり」というものがありましたが、その主題歌にもメロディが合うように作られている気がしました。しかし、ACAねさんの曲作りの傾向として、タイアップした映画や番組や企業の要素を歌詞に組み込ませながら、真意を曖昧にぼやかす手法を取ることが多いように思います。『残機』『ばかじゃないのに』などの考察を読めば理解していただけると思います。

それでは、ACAねさんのこれまでの発言などから想像できることを、仮説を立てながら考察していきたいと思います。

まず、思い出していただきたいのは2020年に開催された「やきやきヤンキーツアー」です。このライブのコンセプトは砂漠のコンビニにたむろする田舎のヤンキーです。

ACAねさんはヤンキーが羨ましい存在であり、憧れでもあったと語っていました。不良になりたいという訳ではなく、誰にも縛られることなく、ありのままの自分を表現しているのがヤンキーだったからです。周りからの同調圧力を受けたり、息苦しい10代を過ごした、と過去のライブでもACAねさんは語っていましたが、圧力から解放されたい、という本心がこの「ヤンキー」という言葉に込められている気がしました。

次に言及したいのは、最近ACAねさんはギャルのファッションに目覚めている、ということです。ルーズソックスを履いたり、制服を着こなしてみたり、いわゆるY2K(2000年代のギャルファッション)スタイルの服装を好んでスタイリングしています。冒頭でもACAねさんのツイートを紹介しましたが、ギャルへの憧れもあったようですね。

そしてもう一つ繋がりがあると思われるのが2022年9月から開催された「GAME CENTER TOUR テクノプア」です。ライブのコンセプトはゲームセンターなんですよね。ACAねさんはゲームが好きです。こちらのインタビューでも語っていました。

あいつら全員同窓会でタイアップしたゲームもプレイしていました。

こちらはUFOキャチャーで遊んでいるところです。

そして、ACAねさんはライブ中のMCで「ようこそ禁足地、ゲームセンターテクノプアへ」と言っていました。禁足地とは足を踏み入れてはならない場所、一旦踏み入れると現実に戻れないほど楽しいところです。ACAねさんもファンも、日常生活から離れてずとまよの音楽を楽しむ場、という意味なんだと思われますが、これもダブルミーニングだと思ったのです。

ACAねさんは学校では優等生だったと推測します。他の曲の考察にも書きましたが、真意を紛らわせる歌詞の書き方、ライブの演出(特に衝撃的だったのはCLEANING LABO「温れ落ち度」のアンコールです、ラストがMILABOだったんですが、「これが私のラボ!Me Labo!」と叫び、ライブタイトルの伏線を回収するという大どんでん返しは圧巻の一言でした)など頭の良さが他のアーティストとは比べ物にならないからです。過去には、高校に在学中か卒業後に、管理栄養士か何かの資格を取ろうとして勉強していた、と語っていたらしいです。NHKのSONGSでは辞書を読むのが好きとも話しており、「安逸」という言葉を見つけて、その意味を説明していました。

以上のことから、ACAねさんの実家は厳しい家風だったんじゃないのかな、と思ったわけです。なぜなら、成績優秀で真面目な娘が髪を染めたり、ギャルファッションをするのを家族は許してくれなかった、そう思うからです。誤解を恐れずに言いますが、一昔前のゲームセンターは、ヤンキーとギャルのたまり場でした。ただ単にアーケードゲームで遊びたい、友達とプリクラを撮りに行きたい、そう思っていても家の人が許してくれない。不良になりたいからじゃなくて、ただ楽しみたい。でも、自分にはできないから、自由に好きなことをして遊んでいるヤンキーやギャル達がなんだか羨ましい。そんな"禁足地"に、家の掟を破ってこっそり『不法侵入』したいACAねさんの青春時代の1ページを表した曲なんじゃないでしょうか。私自身、自由に自己表現しているヤンキーやギャルへの憧れみたいなものがあったので、この点にすごく共感したのです。自分の希望とは別に、家族思いのACAねさんの葛藤も綴られている『不法侵入』の歌詞を考察していきたいと思います。繋がりがあると思われる曲は『はゔぁ』です。こちらも読むとおもしろいかもしれません。

それでは歌詞を追っていきましょう。

戻れない僕の 耳にピリオド
だらしなくなる 君の触る音には
意味がある そう思いたくて
そう知らせてほしくて

今日はちょっと家には帰りたくない。耳にピアスつけたら怒られるかもしれないから。だらしない格好って思われる。でも、厳しく躾けるのには私のことを思ってのことだって、意味があるのはわかるんだけどさ、、。

「ピリオド」とは物事の終わりを意味する終止符のことです。恋人の関係を終わらせることにもなります。また、恋愛には長電話がつきものです。その長電話を終わらせる、という解釈もできますが、私は視覚的な意味をこの「ピリオド」に込めていると思いました。ピリオド(.)は点ですよね?家の人に見られてもバレないような、小さなピアスをつけてみたかったのかなぁ、と思いました。「だらしない格好して何してるの!」と怒られるのが嫌で、家に帰るの時間を遅らせてるようにも見えます。

見つめ合える度に 疑問を込めて
ただ違うなら わかりやすく教えて?
それとなく 寂しさ凌ぎ?なら
早めに覚まして

目が合うと「今日は何時に帰ってくる?」って聞かれる。「そんなところ行かないで、それはダメ」って許してくれないなら、私はいつ好きなことができるの?私が居ないと寂しくなるのもわかるけど、私も子どもじゃないんだし、親離れ、子離れしないといけないと思うんだ。

「寂しさ凌ぎ」をするお父さんに「早く(目を)覚まして」ほしいACAねさん。思春期によくありがちな光景の描写のようです。

指で繋げるほどの木星
ぶらさげても徐々に熟れてって
呆気なく気持ちは紛れるし
最初から
そう未来は見ない日々だけど
君を撫でるみたいに 祈ってた

別に嫌いじゃないから、指を繋げるほどの距離感で過ごしてる。最近お気に入りのキーホルダーとかストラップぶら下げて、なんだかギャルの仲間入りしてる感じ。そうする事で少しは気持ちが紛れるんだけど、最初からめちゃくちゃギャルになりたいって思ってはいないからね。でも、ほんの少しだけでいいからオシャレして、なんとかバレないようにって祈ってたんだ。

「木星」という歌詞が出てきましたが、これは距離感を示す言葉なんじゃないかな、と思いました。私はずとまよの歌詞考察をするときに、何を表す歌詞なのか分からないものは、過去の曲の歌詞を見返してヒントを得るようにしています。『サターン』の歌詞に「木星も月も突き抜けなきゃ」という部分があります。『サターン』は叶わない遠距離恋愛を表した曲なんだそうです。

そしてこの彼や私などの登場人物を土星や木星、太陽などに例えて、近づいたり離れたりする距離感を表しているんですね。ちなみに土星はACAねさん自身を表しているようです。こちらのInstagramのストーリーを見るとわかると思います。

ということは、土星から地球までの間に存在する木星とは近しい存在の家族である可能性が高いんじゃないかな、と思ったわけです。そんな身近な存在の誰かとの距離を表しているように見えました。
「ぶらさげても徐々に熟れてって」という歌詞ですが、お気に入りのキーホルダーやストラップやぶらさげることで、ちょっとした抵抗をしていることと、これだけでも流行り物を身につけることができた達成感や、「いつまでも子供じゃないんだ」と少し大人として成熟した姿に満足感を味わっているように見えました。

曖昧はもう十分です ねぇ気づいてる?
全細胞に込めたけど 引き摺るんだよ
曖昧のは自分だって わかってる?
慣れない皮膚で叫ぶ
君じゃなきゃだめなんだよ

曖昧な返事をするのはもう十分だよ、ねぇもう気づいてるんでしょ?不慣れだけど、全身を私なりにギャルファッションコーデしたんだ。でも、やっぱり後ろめたい気持ちになる。実は曖昧なのは自分の方だっていうのもわかってる、家族にはっきり自分の気持ちを伝えられないんだもの。だけど、好きなものでオシャレして、ぎこちない表情でも私らしくありたいんだ。

この歌詞で鍵となるのは「皮膚」でしょう。ずとまよのファンであることを公言しており、ライブにも足を運んでいるボイストレーナーのおしらさんがリアクション動画を投稿しているので、まずはそちらを観ていただきたいと思います。

そして、こちらのツイートのリプ欄にACAねさんが登場しました。

「おしらさんの考察も鋭くてどきどきしました。。」とのことです。私は以前からこの「皮膚」という言葉には「表情」という意味が含まれていると考えていました。「正義」「低血ボルト」のそれぞれ考察にも書きましたが、全身を覆う皮膚の一番の特徴とも言える部分は、真っ先に目に飛び込んでくる顔であり、その顔の皮膚が変化するのが表情だと思ったからです。しかし、「皮膚=Skin=好き」というのもありえるな、と思いました。歌詞の脈絡的に、好きなものからあえて遠ざかっている様子が感じられたからです。家族の思いと自分の思いの間に立ち、普段しない格好に満足して、好きなものはやっぱり好き、と慣れない笑顔で自分に話しかけている様に見えました。「君じゃなきゃだめなんだよ」というもの恋愛対象の誰かを指す「君」ではなく、ACAねさんの本心に対して「ありのままの君じゃなきゃだめなんだよ」と言い聞かせているようだと思いました。

dan dan...

この擬音語もだんだん好きに引き寄せられる、だんだん自分らしくなれる、ということを表現しているんじゃないかな、と思いました。

できるだけ長く 過ごせるように
語尾や視線に 工夫が必要です
君へlyric 隠したlipstick
あばくのは御法度です

友達とゲームセンターに行ったり、できるだけ遊んでいられるように、話すときの語尾や視線にも気をつけなきゃ。いろいろ書いてきた歌詞や、内緒にしてたリップスティック…「これは何なの?」って詮索しないでね。ドキドキする。。

あの人とできるだけ長く一緒に過ごしたい、だから一言一言のやり取りや、相手に送る視線にも工夫を凝らす必要がある…恋愛番組の主題歌だけあって、好きな人と時間を過ごすときに、ドキドキしながら考えることを表した歌詞のように見せているのが天才的ですよね。
ACAねさんは学生時代からアーティストになることを目指していて、当時から何曲も歌詞を書いていたそうです。

「MILABO」の考察でも書きましたが、学生時代から路上で弾き語りをしていたと推測します。

しかし、家族にとってはそれも気がかりなことの一つだったのではないでしょうか。「成績優秀で良い子なのに、急に音楽にかぶれたりして、どうしたの?」そんな疑問があったのかもしれません。でも、その音楽もACAねさんの大好きなものだったんですね。好きなもので自己表現をしたい、その意志がとても強かったんだろうと思います。このフレーズは自分の部屋に逆に不法侵入されたときのことを表しているのかもしれませんね。

汚れたものに惹かれてった
それが同じなとこ惹かれてった
でも時間は躊躇なく牙を剥ける
最初から
そう紛いものな僕だけど
君をあやすように 祈ってた

私の家族にとっては良からぬものかもしれないけど、みんながしてるようなオシャレや遊びに惹かれる。優等生って思われてても、私も同じなんだよって、だから余計に惹かれてく。でも、門限があるしなぁ、、このまま自分の気持ちに素直になって、好きなことするのは楽しいけど、でも家族を心配させるのは申し訳ないし、、子どもをあやすように自分に言い聞かせてたよ。。

「紛いものな僕だけど」ですが、自分の気持ちに嘘をつくという「紛いもの」と、オシャレをしたり、思う存分遊んでいる同世代の学生さんと比べると、自分は「本物」ではなかったという意味のダブルミーニングだと思いました。

ずっと曖昧なフレーズで
歪んだ距離も
普段の"おはよう"だけで日常
二人を猫が見守る 思わず微笑む
みたいな 愛おしき観戦
数えるのは 楽しいことだけ
攻略も作戦もいらない
君のぬくもりが不法侵入
ってライムにのせて 祈るしかなくて

なんだかモヤモヤするような言葉のキャッチボールばかりしてて、距離感もなんだか違うよ、、。朝のおはようだけはいつもと変わらず日常だね。私とお父さんとの関係をお姉ちゃんが見守ってくれてて、私たちのやり取りを見て笑ってる。今までの楽しい思い出を数えるだけでも幸せで、嘘ついたり、裏をかいて外出しようなんて思えない。家族の愛情がふとした時に忍び込んでて、やっぱり心配させたくない。でも、私のことも理解してもらいたい、そんな風に祈ってるよ。

ACAねさんはしょがストちゃんという猫を飼っています。それから、MVにも猫が登場します。「猫が見守る」という歌詞、この言葉で好きな人とぎこちない会話をしているところを、いつもの通学路や自宅の猫が見守っている、そんな日常生活のワンシーンを表現しているようですが、私はこの「猫=ACAねさんのお姉さん」だと解釈しました。これには理由があって、「はゔぁ」と「眩しいDNAだけ」の考察に書きましたが、「ミルクとコンクリートで出来た猫」が何を示すのか、これを理解するとわかるかと思います。
「お父さんがあかねのことを心配してるのもわかるけど、あかねが遊びに行きたいことも分かるよ」お父さんの立場も、ACAねさんのこともわかる年上のお姉さんが間に入ってくれて、2人のことを見守ってくれていたのでしょう。

この距離感を一体 どう受け取っていい?
恥ずかしい会話とか未だ 覚えてんだよ
暗黙了解で精一杯 ねぇ傷つくしー
たわいない日々だからこそ
君じゃなきゃだめなんだよ

この距離感をどうやって受け取ればいいの?あんなことやこんなこと、柄にもなく恥ずかしいこと言っちゃったのを今も覚えてる。「そこまで言うんだったら好きにしなさい!」って暗黙で了解を得ても、呆れたり、怒ったように言われたら傷つくよ、、。たわいない毎日なんだから、少しは羽根を伸ばして、お互いありのままでいたいな。

「暗黙了解」というのがポイントです。わがままを言ったら親から「それなら勝手にしなさい!」と怒られた人、いませんか?親からすると「了解したわけじゃなくて、引き止めるためにそう言う」んだと思います。この子は仕方ないなぁ、といった感じでしょうね。ACAねさんは自分も家族もありのままでいて欲しいと願っているように見えました。厳しい親であったり、優等生で居続けることの息苦しさや辛さを感じていたからではないでしょうか。そんな手枷足枷を外して、自己表現することが真の意味で幸せだったのかもしれません。

最後にYouTubeのコメント欄で興味深いものを見つけたので貼っておきます。

ACAねさんが反応しているMVに登場する花たちの花言葉

ずとまよのMVには時々花が登場するのですが、その花言葉が曲の考察とマッチしている気がするんですよね。「もう一度愛してほしい」「私のもとへ帰って」「優しさ」「決して離れない」これらの花言葉は恋愛にも通ずるところがあると思いますが、「神秘」というのは踏み入れてはならない領域に不法侵入し、目にした世界がキラキラした神秘的なものだった、ということを指しているんじゃないかな、と思いました。それは音作りにも反映されていて、1番のサビ前にはハープのサウンドが入っていますが、ハープは神秘的で神聖な楽器というイメージが非常に強いように思います。

推し活をしていると、何としてでも手に入れたいグッズやフィギュアってありますよね。それらを手に入れた時の嬉しさや幸福感はファンじゃないとわかりません。グッズで部屋をコーディネートしたり、推しのイラストや写真を飾って眺めたり、正にそこは自分の"聖域"になるわけです。ところが、そこに価値を見いだせるのはファンである本人だけなのです。ファンではない人が見ると、ただの置物。「こんな物にお金使って何考えてるの!?」と言う人もいるでしょう。価値がわからない人や、興味が無い人が言う「こんなくだらない物に」というニュアンスが「汚れたもの」に似ていると感じました。しかし、ファンにとっては神秘的でキラキラした宝物なんですよね。自分と他人が持つ価値観、そしてそれを互いに認め合うこと、これが『不法侵入』に込められたもう一つの意味だと思います。

学生時代には出来なかったオシャレや創作活動を今アーティストとして、インフルエンサーとして発信しているACAねさん。内に秘めていた願いや祈りを叶えている瞬間のようです。これからもその素敵な感性で、音楽の世界を切り開いてもらいたいです。

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