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コロナウイルス時代におけるムーブメント(社会運動)の構築 3/4 〜アンジェラ・デイビスとナオミ・クラインによるティーチ・イン〜

2020年4月2日に開かれた討論会の日本語訳の続きです。パンデミックのもとでは地球規模でも米国内でもネオリベラリズムが台頭する危機と、社会運動の知恵を活かす契機が同時にやってくる。米国の草の根の運動家たちからの議論と提案です。
動画:https://www.pscp.tv/w/1YqKDEwwZnaGV
英語原文: https://tinyurl.com/vo3jcra

コロナウイルス危機の時代におけるムーブメント(社会運動)の構築
〜アンジェラ・デイビスとナオミ・クラインによるティーチ・イン〜

登壇者:
アンジェラ・デイヴィス
ナオミ・クライン
シンディ・ワイズナー(Grassroots Global Justice)
モーリス・ミッチェル(Working Family Party)
ローン・トラン(Southern Vision Alliance)
司会:ゼンジウェ・マクハリス(Rising Majority

この対談は4回にわけて公開しています。→ 1 I 2 I 3 I 4
なお文中太字や、()内の注釈は訳者によるものです。

ゼンジウェ・マクハリス: さて私たちが(エッセンシャルワーカー、子どもたち、ドメスティック・バイオレンスや性暴力のサバイバーなど)社会的に脆弱なコミュニティすべてについて考えぬき、いま抜き差しならない状況にある人々こそを社会の中心であると捉え、(その人たちの意思を尊重する形で)支えるにはどうすればいいのでしょうか?
ここで、他のパネリストたちにも、ぜひお話いただきたいと思います。コロナウィルス以外のことも含めた現状について、それぞれの方はどう評価されているのかをお聞きします。
・人種差別資本主義が、何を生みだし、私たちをどう導き翻弄してきたか
・運動として私たちが捉えるべき契機や可能性とはなにか

についてもお話ください。ここはぜひ理解しておきたいところです。ここでお話いただくことが、いま私たちに求められていることであり、参加・視聴している私たち全員が行動を起こす呼びかけとなります。
まず、Rising Majorityから3人のパネリストをご紹介します。
・Grassroots Global Justiceのシンディ・ワイズナー
・Working Families Partyのモーリス・ミッチェル
・Southern Vision Allianceのローン・トラン

いずれもRising Majorityのリーダーであり、私たちの仲間です。
   それから、世界中の人々がいま視聴しフォローしていますね。オンラインでハッシュタグ#raising majorityを使って、この議論を拡散し、つながってください。今後のアップデート情報も発信しています。携帯電話からMAJORITY 90975と入力していただくという方法もあります。
あらためまして、今回視聴していただいている皆様に感謝申し上げます。またパネリストの皆様も、ありがとうございます。
   さて、ここまではグローバルな視点でこの問題を見てきました。
・大規模感染の問題は地球全体にどのような影響を及ぼしているか
・ウイルスへの反応が世界中の人々にどのような影響を与えているか

まずシンディに質問をします。世界でいま同時多発的に起きていることで、いまこの瞬間に、私たちがとくに気を留めるべきことはなんでしょうか?

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シンディ・ワイズナー: こんにちは、Todas y todx(※1)。この対話に参加できて光栄です。アンジェラとナオミの指摘について考えてみましょうか。危機については、アントニオ・グラムシが、ミルトン・フリードマンと一緒に随分書いていますね。「危機は、何かする機会を私たちか、右翼のどちらかに与える」と。私たちには世界的な新自由主義(ネオリベラリズム)の肋骨をへし折ることもできるし、あるいは権威主義やファシズムのさらなる進化した未来を見ることもできます。私たちにとっては、隣近所、地域、私たちがなわばり(※2)としているあらゆるレベルあるいはグローバルなレベルでの社会を再編成して再考する機会です。私たちにできることは、思い浮かべることと、再考することです。深いトラウマと絶望のただ中で、いまこの瞬間にいきすぎた想像力を失わないように研ぎ澄ませるのです。
   世界中--米国内にも--水や電気もなしで、不安定かつ悲惨な状況で暮らしている人々がいます。そして同時に、軍事化利用、民主主義と民主的権利に対する激しい抑圧が起きていますね。いまは正念場の一つです。私たちが求めるのは、現在差し迫っているマスクや人工呼吸器、病院や食料品店の従業員への金銭的支援だけではありません。戦争や軍事化、占領に反対すべきです。経済的制裁も終わらせねばなりません。つまり経済制裁はゆっくりと人を殺すのです。人はコロナウイルスだけでなく飢えでも死にます。イラン、ベネズエラ、北朝鮮、キューバ、パレスチナ、ジンバブエなどの(米国が)経済・軍事制裁を科している30カ国の人々と、いままで以上に連帯しなければなりません。
   つぎに、この危機こそ、世界中でどれだけ多くの運動が資本主義に代わるものを実験してきたかを考える機会です。社会運動から生み出されたニーズ・需要について考えましょう。La Via Campesina(※3)は、現行システムに替わりうる食糧生産の主権奪還と、小規模農業こそ地球温暖化の打開策だと訴えています。権威主義と真正面から向き合っているフェミニスト運動も、世界中で活発に行われており、フェミニズムを礎とした経済が必要だと言っています。環境保護、先住民、地域社会の運動はそれぞれ再生可能な経済について議論しています。アンデスの先住民族からBuen Vivir(※4)の考えが広まり、21世紀につくりうる社会主義のありかたについても様々な議論を重ねています。今こそ、資本主義、植民地主義、家父長制、人種差別や健常者中心主義などのシステムに代わるものが切実に必要だと言うべきでしょう。世界中の運動はすでに代替案に取り組んでいます。私たちはすでに人々のニーズに応える方法を知っており、生き方を変えることができます。これが世界中の運動が、いま話題にしていることの一つです。
   アンジェラが言っていたように、「家」こそが現在のたたかい(※5)、かつ希望の見える現場となっていますね。いままで見えてこなかった再生産労働が一気に可視化された瞬間とも言えます。家庭から地域社会、そして(賃金)労働の場でにいたるまで、そこで奉仕・従事する人々が地球を救うために最前線でたたかっています。現状の新自由主義的な家父長制度を解体しなければなりません。この危機において、トランプ、ボルソナロ、デュテルテは家父長的な反応と対策を打ち出しているからです。そして、究極的には私たちに解決策がある、とわかっておいたほうがいいでしょう。私たちをここまでの混乱に陥れた側には、これを終息させる気はないのです。一方、私たちにわかることは、生命、生きていく場所、知恵などを守る機会も選択肢もあるということです。
   まず、経済制裁の即刻終止を明確に要求している場所がいくつかありますね。そして地方や自治体から国家レベルにわたるまでの軍事予算を撤廃すべきでしょう。救済すべきは企業のCEOや多国籍企業ではなく、人々ですその要求を実現するのは私たちで、可能性を現実とすべく自らを導かなければなりません。すべての人に住む場所を与え、法的書類を持たない人(※6)のための救済活動など、全員を支援しなければいけません。軍事力行使の許可などは、取り消すべきです。反対するだけでなく、私たちが何を求めているのかについて話さなければいけない。いままで以上に、私たちが何を求めているのかを語るべきなのです。

※1 Todas y TodX(トーダス・イ・トーダエックス): スペイン語で「すべてのみなさん」通常、複数人を指す時に、スペイン語では男性型のtodosで表現するが、性二元性に抗する文脈では女性型とX性型で表現する。当事者コミュニティから出てきた表現。

※2 territory: おそらく動物的な意味、社会的な意味、商業軍事的領土の意味を含む

※3 La Via Campesina(ビア・カンペシーナ): 中小農業者・農業従事者組織の国際組織で、世界69カ国、148の農業組織により構成されている。自らの土地で食料を生産する権利を指す「食料主権」という概念を最初に用い、1999年以来市場原理主義に基づく「農業改革」に抗すべく世界的なキャンペーンを展開している。

※4 Buen Vivir(ブエン・ビビール): アンデスで使われているケチュア語のSumak kawsayをスペイン語訳したもので、コミュニティを中心とし、環境に偏った影響を与えず、文化的配慮を伴った世界観を指す。

※5 struggle: 闘争、もがき

※6 undocumented: 現在滞在、居住している場所への「滞在許可」やビザ、「国籍」などの法的証明のない人々。これらの人々を支えない人々の文脈で言葉を選ぶ時、米国なら「illegal」、日本なら「不法滞在者」という表現が使われてきた。



ゼンジウェ・マクハリス:シンディ、どうもありがとうございます。国際的連帯がいかに重要かということですね。力のありかを、企業や営利機関でなく、私たちの手に移すべくラディカルに再編成できたなら、地球の津々浦々で今起こっている社会運動構築の成果を受け取ることができるということですね。力のありかを変える準備のできるグローバルな運動を世界全体で行なえば、人種資本主義も終わるでしょう。企業やCEOのかわりに、人々をあらゆるものごとの中心としてとらえることも含め、たくさんのことをお話し頂きました。
   つづいてWorking Family Party(※7)のモーリス・ミッチェル氏にお話をうかがいます。経済活性化のために、いわゆる景気刺激法案が話題に上っていますね。しかし、これはあくまでも金融機関や企業のニーズであって、必ずしも人々の声はそこに反映されていません。そうなると国会・議会の構成について議論しないといけません。今年は大統領選挙年ですが、コロナウィルスの蔓延がこの選挙に与える影響について少しお話しいただけますか? 他に気になっていることがあれば、お話しください。政権や選挙という視点で、そして今私たちが置かれている状況に関わることを教えて下さい。

※7 働く家族達の党(Working Family Party): 1998年にニューヨークで発足された政治政党。

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モーリス・ミッチェル:ありがとう、ゼンジウェ。今回このような素晴らしいパネリストの皆さんとお話しできて光栄です。この危機の最中に、対話できることに本当に感謝しています。

   コロナウィルスが選挙に与える影響はとても大きいですね。いままで選挙運動を担ってきた人々は、対面での会話を通して世論および選挙運動としての力を形成してきました。一軒一軒家を回ったり、地域社会での遊説会、大規模集会などが、顔をつきあわせて会話をし、つながりを作り、人間関係を築いてきました。このつながりは、私たちの行動の最も基本的な構成要素でしょう。しかし今は同じようにはいきません。それぞれが適切な場所に退避して、私たち自身とコミュニティが生き延びるために、社会的距離を守らなければならないからです。これには適応しないといけません。携帯電話、テキストメッセージなど、ありとあらゆるコミュニケーションの手段で、仲間と対話をし、デジタルで運動の組織をしています。またドアや窓にカラーコードに準じた色を掲げて、必要とする支援や安全かどうかを伝えあっています。いままで行ってきたような集会はできません。でも今こうしてオンラインで話すように、たくさんの人々にも通じるような電話や対話を行うことはできます。
   あるいは世界中で(隔離中の)人々が見せてくれたように、窓から声を上げることもできます。今まで慣れ親しんだやり方以外を取り入れながら、孤立していてもつながりを築き続けるために、より柔軟にいろいろな方法を試し、開発する時がきているのでしょう。私たちは孤立していますが、決して一人ではありません。いま極右や共和党の人たちでさえ、ユニバーサル・ベーシック・インカムを要求し、家族の命を優先したいと言いだしています。そして彼らは同時に資本市場のために犠牲になるとも言っています。これは何を意味するかといえば、新自由主義資本主義の論理が内側から破綻しているということです。組織化された資本とそれを支えるワシントンD.Cの人々が混乱しているのです。彼らがシステムを維持するために必要なことが、たまたま一部の人々を救済するならば、それはそれで良いでしょう。しかし、そのときにこそ、私たちが自らに政治的リーダーシップと透明性を問い、求めなければいけません。
   コロナウィルス危機といっても、すべてを放り投げるわけにはいかないので、Working Family Partyと多くの同盟政党は新しい戦術を練っています。他のパネリストの方々がお話したことを考えるにつけ、私たちには米国だけでなく、世界中の働いている人々に対して責任を持って話しかけ、行動する指導者が必要です。企業の利益と労働者の利益がずれているならば、この溝を埋めるために、社会運動やそこから生まれる人材が重要な役割を果たすでしょう。私たちの党も、地域や州レベルでの社会運動から始まり、公職を目指し、社会運動と責任を持ってつながれる人の必要性をよく理解しています。選挙運動よりも、直接行動や大衆運動の構築に左派のエネルギーを使うほうが良いと疑問を感じる人もいると思います。どう考え、行動をするかはともかくとして、選挙運動そのものは時間との勝負です。いま私たちが目の当たりにしていることを注視すれば、この瞬間にも、選挙運動での流れを確立することがなぜ重要なのかもおわかりいただけると思います。もしドナルド・トランプが大統領でなかったら、と想像してみてください。連邦政府の対応は大きく異なっていたでしょう。何十万人もの命がかかっているので、(その人数だけを見ても選挙政治のもつ影響力を)はかることができますね。もっと身近な地方の例を挙げましょう。ジョージア州の(ブライアン)ケンプ知事は、ウィルス対策に完全に失敗しています。彼が対策を講じたために、多くの人々が命を落とすでしょう。2018年にステイシー・エイブラムスが落選したためにも人々が死んでいます。
   選挙だけが唯一の戦略ではありません。ナオミが言ったような、最前線のエッセンシャル・ワーカーたちのストライキ、家賃や住宅ローンの不払いやストライキ、アマゾンやインスタカートの労働者などが勇ましくストライキを決行しています。あらゆる現場に相互援助が必要で、あちこちで実践されるようになってきました。抗議運動、妥協のない強い要求、支援や相互扶助を一番切迫して必要としている人々に、その人達の思いを受け止めて、揺さぶっていくような解決策を提示・提供するように、私たちも務めるべきです。私たちはそのような取り組みや実践を選挙結果に反映させて結果を出さなければいけません。労働者があらゆるレベルの権力と労働者を掌握するために、民主主義が機能し続けるようにしなければいけません。私の言う「民主主義」とは、今うまれ出てくる、ラディカルな民主主義を支えること、そのものを意味します。投票日だけでなく、365日、どの瞬間にも、市民社会においては民主主義が芽を出しています。しかしその瞬間、その芽は非常によわよわしく不確実であり、なんの支えももたないのです。そのまたたく間に、世界中の権威主義者が手を出して真似をしようとします。米国の右派は、わたしたちが残してきた民主主義のわずかなかけらを踏みにじろうします。絶対にそうさせない、その手に乗らないようにすべきです。ハンガリーの先例を見れば明らかです。ドナルド・トランプが、これに注目していることは間違いありません。私たちはもっと警戒すべきです。まるで米国だけが助かるかのように、例外主義の夢を見続けてはいけません。世界は動いているのです。
   コロナウィルスの爆発的流行と自宅退避策の中で見えてきたことは、民主主義の拡大と有権者の基盤整備です。具体的には、私たちはすべての米国人が自宅から投票できるようにキャンペーンを行っています。物理的に家を離れることができないのだから、この程度の変化は、みなさん想定の範囲内ではないでしょうか。すべての米国人にとって十分な期間を設け、その間に投票用紙を郵送し、さまざまな方法で投票用紙を返却できるようにすべきです。これは今年の11月の大統領選で提示する具体的な解決策の1つにすぎません。いま私たちが見聞きしているのは、大規模な政界再編の際に起こるべくして起きることです。今回の大統領選では(共和党政権の続行、あるいは民主党政権への転換の)どちらに転んでもおかしくない、とすでに予想されています。Rising MajorityやWorking Family Party、そしてこの運動の仲間たちは、この国では実現し得なかった人種を超えた連合を築こうとしています。そうしないかぎり、右翼で白人至上主義の企業の群れがこの危機を利用して、彼らの権力をより強大なものにするでしょう。誰が権力の手綱を握るかが、私たちの暮らしに大きな影響を与えるのです。これを理解した上で、より前に進むための選挙について広めようと、私たちも身近なところ(※8)からボトムアップで活動を続けていきます。
   選挙運動をもっと何百万、何千万の人々へと広めて、その人達に「なるほどね、やってみたい」と思ってもらえるための手段やツールについては模索を続けないといけませんね。これは左派の人々が、自分以外のいわゆる事象左派の人たちと話していればいいという次元ではありません。(右派のものでない)左派の解決策が、国全体を先導し、触発できる機会です。ぜひ皆さんにもRising Majorityのウェブサイトをご覧いただければ幸いです。党を支援している人以外の方にも参加できる解決策や手段を提案しています・例えば、全国の人々と交流するために、家からショートメールを送れるボランティアを募り、意見やアイデアを一斉配信する広報部隊を作っています。Rising Majorityや他の団体で、いま市民のつながりをまとめるための活動をしている組織にぜひ皆さんにも参加していただきたけたらと願います。(…次回に続く)

※8 hypelocal: 自治体や隣近所という枠組みではないレベルの小さなつながり

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この対談は4回にわけて公開しています。 1 I 2 I 3 I 続きは4
次回はトランスジェンダー、そしてアジアン・アメリカンの活動家であるローン・トランが加わります。

訳し始めで読みにくい部分もあったかと思いますが、ここまで読んでくださってありがとうございます。
懐具合に余裕のある方は、コロナ危機で収入が超不安定になってしまった訳者をサポートしていただけたら大変ありがたいです。

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