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〝にほんご〟を話さなくなった日本人たち

なんだか妙だな・・・

先日、あるファストフード店でテイクアウトをした時の事。
注文の品を伝えると、小ぎれいに化粧した10代と思しきお嬢さんが注文を確認した。

「ご注文は〇〇で〝宜しかった〟でしょうか?」。
一瞬、妙な感じを受けて、答えが一拍遅くなる。

また別の日。
さる場所で商品の取り置きをお願いした。
このとき対応してくれたのは、上品な中年女性だったのだが。

「こちらに〝お名前様〟をご記入下さいませ」・・・。
やっぱり変だ。

ユキモチソウ

それって、〝丁寧語〟 ですか???

〝宜しかった〟はレッキとした過去形だ。
確かに注文したのは時制的に〝過去〟だが、本人は敬語のつもりのようだ。

こんな使い方は少し前から、よく耳にする言い回しだと思う。
10代お姉さんの場合は単に、「~で宜しいでしょうか」で十分なはずなのだが・・・。

一方、オバサマの方の〝お名前様〟には、なんだか〝お犬様〟になったような気分にさせられる。
〝お名前〟に〝様〟はつけないで~、と言ってしまいそうになる。
本人は敬語を使っているつもりでも、どちらもそうとは言えない。どこで間違えてしまったのか・・・。

ジャーマンアイリス

いつの間にか増えていた〝敬語〟の種類

これまで敬語は「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の3種類だと思っていたのに、いつの間にか5種類に増えていたのを知って驚いた。
2007年の文化審議会の答申により、2017年から〝新敬語〟として5種類になったと言うのだ。
ただでさえ敬語の使い方はとても難しいと思うのに、さらに複雑になってくる。

これまでの「謙譲語」に「丁重語」が追加され、「丁寧語」には「美化語」なるものが加えられた。
その4つに従来の「尊敬語」を足して5種類というのだから、私には驚天動地の大事件だ。

もう答えが一拍遅れるの、お犬様だのと言っている場合では無い。
5種類の敬語を、間違いなく使い分けるのは至難の業となってしまう。

もののついでなので、新しく加わった「丁重語」と「美化語」を簡単に説明すると・・・

「丁重語」・・・自分がへりくだって相手への敬意を表す「謙譲語」に対して、敬意を表す相手が居ない場合に使う。(「(東京へ)参ります」、「弊社へ(ご依頼下さい)」など)
「謙譲語」は、相手への敬意を表す言葉だが、それが相手の有無に依って使い分ける必要が出てくることになる。

「美化語」・・・従来の「丁寧語」は、所謂いわゆる「です」「ます」「ございます」などだが、「美化語」では〝上品さ〟によって相手への敬意を表すものなのだそうだ。(「お酒」「お料理」「ご年配」など)
こちらの場合は、相手の有無は問わないという。

因みに「尊敬語」は、相手の行動を高めることで、その人への敬意を表す、ということだ。(「おいでになる」、「召し上がる」など)
瞬時にこれらを正しく使うことは、かなりの経験と意識が求められそうだ。

シラユキキンバイ

私が〝敬語〟にこだわるワケ

何故、これほど敬語に拘るかというと、私の秘めたる過去を話さねばならない。
中学・高校時代はスポーツ部に入っていたせいもあり、言葉遣いはかなり乱暴だった。母親はその言葉遣いを治せ、止めろとしきりに口にする。

反抗精神旺盛な時期、唯々諾々いいだくだくと従うハズもない。
ならば、と思い立ったのが正しい敬語を使えるようになること、だった。
その場によって臨機応変、正しい言葉遣いが出来れば、「ホラ、やるときはちゃんとやれるでしょ」と胸張って男言葉も使えようというものだ。

いわば不純な動機から、敬語への関心が妙に高まってしまって今に至っているのだ。
そんなこととは知るはずも無いお姉さんやおばさまの言葉を、ああだ、こうだと言うのも憚られるが、気になるモノは仕方がない。

とはいうものの、私自身もよく間違った使い方をしてしまうのだから、なおさら始末に負えないと言うべきだろう。
つい、二重敬語などを使って知らん顔を決め込んでいるのだ。
お姉さん、おばさま、許されよ・・・。

ハナミズキ

大切なのは・・・

しかし、ここに立派な敬語を使われ、そうよねぇ、こう来なくては、と思った事があった。

スーパーマーケットのレジにいた外国人アルバイトのお姉さんが聞いた。「レジ袋は如何なさいますか?」「いいえ、結構です」。
レジのお姉さんは「尊敬語」を使い、私も「丁寧語」で返答する。

マニュアル作成の担当者は、正しい日本語をマニュアルに載せる必要があるだろう。
そして、仮にマニュアルが正しくなくても、それに気づける日本人が増えて欲しい。

そのためには、日本人が日本語に興味を持って、正しい日本語を理解しなければならない。
小学生に英語を教える前に、まず正しい日本語を覚えさせる必要があるのではないか、といつも思う。
英語を翻訳する場合も、正しい日本語を知らなければ正しい翻訳はできない、ということになるからだ。

自分のことは棚に上げて、縷々るるエラそうなことを書いてきた。
私が敬語を正しく使い分けているか、と言われれば、スミマセンと謝るしか無い。
が、せめて「~でよろしかったですか」や「お名前様」はヘンだ、と気付ける語感をこれからも養っていきたいし、養って欲しいと思っているのだ。

モミジ

文責・写真 : 大橋 恵伊子