プロフェッショナル



単調で黙々とするような作業が昔から苦手である。


学生時代初めてのバイトが、富士フィルムの現像屋さんで、友達に誘われて応募したのだが、その友達や若い学生たちのほとんどが、写ルンですのようなスナップ写真の現像部門に配属された。

そしてなぜかわたしだけが、大学病院の解剖写真(もちろん死体である)やセミプロのカメラマンが撮ったようなフィルムの現像部門に配属されてしまった。

スナップチームは若い子たちで和気あいあいと楽しく仕事をしていて、わたしの配属先は、この道ウン十年というベテランのおっさんと、会社終わりにバイトで来ていたサラリーマンのおっさんと、19歳(当時)のわたしだけであった。

喋ることも何もないので、出来上がったネガを仕分けする作業を黙々とこなし、たまに得体の知れないヌード写真や死体解剖写真のネガを見ては、ぎゃっと叫んでいた。

また遅刻が多かったわたしに、この道ウン十年のおっさんは、ドスの効いた声で、

「時間は守らないとダメだあ。せめて連絡の一本をするように」と、極めて冷静に諭してくれた。

どちらのおっさんも、ウンともスンとも言わない野良猫の如く愛想のないわたしに、気を遣っているようだった。

あまりに単調過ぎたのと、おっさん二人の空間に拘束されることに嫌気がさして、半年ほどで辞めてしまった。


それ以降、自分には黙々とする作業はむいてないと思い、あえてそれを避けてきたつもりだ。



この秋に開催される保護者会の行事で参加者に配る、工作キットが先日我が家に届いた。
手作りキーホルダーの各材料(ふわふわビーズや飾り、キーホルダーのチェーンなどやたら細かいパーツが多い)を100個分仕分けせねばならなかった。

会議でみんなで手分けすれば良いことなのだが、

「こんな内職、人生で一度もしたことがない。全部自分でやってみたらどんなかんじなのだろうか?」と、ふと思い立ってしまった。


やり始めて、5分、すでに後悔した。
細かい作業も苦手だし、段取りもよくわかってないため、時間も手間もかかる。ただ分けて、切ったり、詰め込む作業なだけなのにだ!

なんでこんなことしてるんだろう、やっと20個終わった、ああ、あと80セットもある!やはり次の会議でみんなと手分けしてやろうと、すっかり上の空で、気分もすっかり萎えていた。

40個終わったあたりくらいだろうか、効率よくできるやり方を考えながらやってみると、どんどん進んでいった。

それと同時に、こういう仕分けの仕事をしてる人への尊敬の念が猛烈に沸き起こってきた。


普段何気なく買ってる商品も、機械化されてるとはいえ、手作業のこともあるだろう。
検品などもそうだろう。
どんな商品も誰かの手を通して、わたしの元へやってきているのか!そんなことを思うと、胸が熱くなるのだった。


俄然、わたしの手は早まり、憑りつかれたように夢中で仕分けしていた。
脳内には、「プロフェッショナル仕事の流儀」のテーマソング(スガシカオ)が爆音で流れだした。
気分はもう、内職のプロフェッショナルである。


100個仕分けが完成した時は、地味に一人で「イエス!」と、ガッツポーズをとった。
なんともいえない達成感、と同時に「一体わたしはなぜこんなに夢中になっていたのだろうか、、」という正気の思いに包まれた。


その晩、夫に「この内職をしていて、いろんな気づきがあって感動した。世界中の仕分け職人のことを思うと胸が熱くなった」と前のめりで語っていると、わたしに輪をかけるくらい熱く仕事論を語りだしたので、一気に熱い思いも引いてしまった。



2017.9.17『もそっと笑う女』より

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