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瀬戸内に抱かれて【山陽本線】
お昼前、ホームの蕎麦を食し出発の用意を整えた。もう振り返らないと決めている。それを後押しするかのように、5番ホームには既に出発したと思っていた姫路行きの新快速が止まっていた。
意を決して乗り込むと、すぐに扉が閉まった。
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眠っていたらしい。気づけば明石のあたりだった。目を開けると美しい海の風景、寝ぼけ眼のまま、シャッターを切る。いい写真が撮れたのには違いない。Instagramのストリーズに投稿しようかとも思ったが、どうもそんな気にはなれなかった。
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姫路をすぎればもう関西ではないような感じがする。それはそのあたりの兵庫県民に少々失礼なのだろうが、ほとんどの新快速が姫路行きなのがそう感じる要因だろう。
相生までくれば本当に境目だ。姫路からやってくる無機質な色の車両の隣には、寂れた黄色の車両。遠目に見れば鮮やかなのだが、近くで見るとやはり。相生の寂れた駅舎には少しだけお似合いだった。
関西へ向かう際はあの無機質な車両が神様のように感じられるが、今は真逆だ。私を田舎の寂れた街へ押しやる悪魔、車両には罪はないのにな。
そうこうしているうちに広島は三原まで連れて行ってくれる黄色い車両たちがやってきた。
もう後戻りはできないんだなと、列車に乗り込み、京都で買った小説を手に取った。
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岡山は何度も来たことがある。振り返れば良い思い出しかなく、その時々は辛くとも、取り巻く人間たちによってはそれも良い思い出に昇華するのだと教えてくれる。
岡山の仲間たちは元気だろうか。岡山の人はいい人だった印象しかない。いつかまたお酒でも酌み交わしたいものだ。
実は倉敷より西は新幹線でしか通ったことがない。ここからの景色は初めて見るものになる。
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福山までやってきた。換気と言われれば仕方がないが、この寒い日にドアを5分も開けたままにされるのは勘弁だ。足元から少しずつ冷えていく。
車両から眺める福山の街はどうも寂れている。恐らくは山陽新幹線が開通した頃に開発された街並み。そろそろ再開発、というところだろうか。実際にいくつか工事が行われているようだった。
福山も尾道も名前だけはよく聞く街だ。特に尾道は海外の旅行者からも人気があった。日本人よりも彼らの方が日本に詳しいのかもしれない。1つ感じた明確な違いは、芸術や歴史への感性の向け方だった。
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長く続いた旅路も一段落。広島で途中下車し夕食を楽しんだ。広島焼きをメインに穴子天と牡蠣のオイル漬けをアテとして注文。穴子天は思っていたものとは違ったが美味しかった。世の中、まだまだ知らないことばかりだ。
あとは今日の最終目的地まで移動するだけだ。残りの乗り換えは1回。目的地は本当に眠るだけの場所のつもりで選んだ。名前からして何もなさそうなのだ。
この旅の最後の夜になる。そして今年最初の夜。この1年間の命運は今夜に託された。
またどこかで。
にゃーん。