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憂
2024年10月30日 03:20
地下の一室に、今日も人が漂っている。大半の人は酒か煙草を片手に、もう片方の手にはスマホを持ち、暗い顔をそこに落としている。次のバンドの演奏の準備をするこの時間、人々はそれぞれの時間を退屈そうに過ごしている。女は会場の後ろの方で、両手で持つ、氷が解けて薄まったハイボールを見つめていた。そこへ急に、男がやってきて「やあ、今日はどのバンドが目当てで来たの?」と、馴れ馴れしく女に声を掛けた。「……上の看
2024年10月8日 04:32
女はビルの非常階段に出て、煙草に火をつけた。女にやっとのやすらぎのときが訪れた。時は夕暮れ時で、ビルの隙間から見える空は紫色を呈し、幽玄な世界がそこにはあるように女に思わせた。女は、朝からの長い長い時間を霞ませるように、煙草のけむりを吐いた。朝からの時間はせわしなかったが、それに反して、ぼんやりとした人生に何の意味もない時間であった。なので、女はせめて、煙草のけむりでその時間を曇らせてしまいたか
2024年10月1日 04:13
ここは昔栄えたが今は廃れてしまった地方都市。私はこの街が好きで時々訪れる。抜け殻となった煙草屋や廃墟と化した映画街。それらに私はロマンを感じずにはいられない。 この街を歩きふと目を閉じると、栄えていた当時の人々の声が聞こえてくる。眩しい白熱電球の灯りが目を焼く。煙草らが入り混じった臭いが鼻に香る。目を閉じれば、いつだってその時代のその場所に浸ることができる。 この街の、とある喫茶店に一度