あき
気がつくと僕の目線の先には彼女がいる。
彼女と言っても特別な関係ではなくただの知り合い。
腐れ縁なのか?なぜかたまたま保育園から大学まで一緒なのだ。
同じ地域に住んでるから小中学校が同じなのはわかるけど、
高校や、まして大学が知り合いと被る事などほとんどないのに。
僕は女の子とはあまり仲良く話すタイプではないから
彼女がいるグループと一緒に行動したことはない。
ただ17年間の中で3回、同じクラスになった時に
「また、一緒だ」と思っていただけの存在。
それが大学で見かけるようになってからは、なぜかついつい
彼女の存在を探してしまう。
タイプかと聞かれたら、「まぁまぁかな〜」と曖昧な答えになってしまう。
きっと彼女は可愛い部類に入ると思う。
ただ僕の好みのタイプは大人しくて控えめな子が良いなと思っている。
彼女は明るくて自分を持っていて、どちらかといえば人気者タイプ。
そして僕とは釣り合わない。
「僕の好みのタイプ」なんて言ってるけど、それは自分自身のこと。
最近の彼女はナツと一緒にいることが多い。ナツは大学構内ではそこそこ人気者の男だ。軽くてお調子者で誰にでもフレンドリーに声をかけるタイプ。
だからと言って僕みたいなのには声をかけてはこないが。
きっと彼みたいなタイプからしたら、僕は透明人間なんだと思う。
そしてさくらからも、きっと透明人間。僕の存在には気付いていないと思う。
「さくら」なんて言ったけど、直接本人を呼び捨てにしたことなんてない。
できるはずもない。自分と苗字が一緒だから呼びにくいんだ。
だから脳内で「さくら」と呼び捨てにしてる。
昼休みになった大学の校内は、みんな食堂や売店に向かって急足で移動している。仲の良い者同士でしゃべりながら移動するものや、食堂で待ち合わせする者。僕はと言えばもっぱら1人で行動している。中学や高校では友達がいたけど、大学ではちょっと上手く作れていない。全く話をしなくて孤独ってわけではないけど、わざわざ約束していつも一緒に行動する相手がいないだけ。
食堂に着いていつものように、ランチの見比べをしてから列に並んでいたら、
聞き覚えのある声がしてきた。ナツだ。でも一緒にいるのはさくらではない。
『今日は一緒じゃないんだ』そんな事を思ってスマホをいじっていたら
さくらの姿は無かったのに声が聞こえてきた。
「ナツは何にするの?」
『やっぱり一緒にいたんだ』とスマホから顔を上げたら、
ナツの影にいたさくらが見えた。でも明らかにすねた顔をしている。
『あっ、そっかナツが他の女の子と話してて、自分が無視されてると思ってるんだ』と、思いながら彼女の顔を見ていたら、目が合ってしまった。
いつもなら上手いタイミングで外すのに、すねた顔が可愛くてついつい目線を外すのを忘れていた。
『ヤバイ、絶対変な奴だと思われた』と少し焦って目線をスマホに戻した途端、急に自分の目の前に素足のサンダルとスカートが飛び込んできた。
「ねぇ、田中くんでしょ?私のこと知ってる?」
『おいおい、急になんだよ』と焦る気持ちを抑えながら顔を上げて
「うん、知ってるよ。さ、田中さんでしょ?」
と答えたが、脳内の呼び方の『さくら』が出そうになった。
そう、彼女と僕の苗字は『田中』よくある苗字でクラスでよく重なる名前だ。
僕の下の名前が『あき』だから同じクラスに名簿順で座ると彼女が毎回後ろにいる。後ろを振り返ってまで話しかける事がなく、同じ班になっても積極的に自分から声をかける事はなかったし、彼女の方からも何もなかった。
それなのに今日はなぜ?
『あっ、そっかナツに無視されたから、自分も違う男と話したかったのか?
いやいやそれなら僕だと役不足じゃないか、人選ミスにも程がある。
でもこのまま会話が終わってしまったら余計にさくらの立場が無くなってしまう。絞り出せ、絞り出すんだ。』
「結構な偶然で同じ学校を選んで通っているよね」
『ヤバイ!その事に気が付いていなかったら、僕がストカーみたいじゃないか〜』
「そうそう、私もそう思ってた。あまり話したことはないけど、すごい確率だよね」
『え?気が付いてた?いつから?』
「だよね、同じ高校の子達も何人か通っているけど、僕たちとは違う学部だからね」
『僕がさくらと学部が一緒だと知ってるってバレる』
「だよね、学部まで一緒ってほんとビックリ」
『おぉ〜受け入れてくれてる。しかも彼女も気が付いてた』
っと話している間にオーダーする場所の近くまで移動していた。
「田中君はどっちにするの?」
『僕にそんな友達にするような質問をしてくれるのか〜』
「僕はいつもAランチなんだ、和食が好きだし」
『ヤバイ、じじくさいと思われたか?』
「一緒〜、私もどちらかと言うとAランチの和食派」
『マジか、食べ物の好みまで一緒とは、だめだ勝手に運命を感じるな俺!』
脳内でツッコミをしていると急にナツが、
「俺らはBだな、若者はやっぱ洋食っしょ」と割って入ってきた。
『俺らって?さくらとナツ?ん?あぁ〜その横の彼女とね』
と考えながら答えたからなのか、普通にナツに話していた。
「確かに洋食も美味しいよね。僕もたまに食べてみるけど、やっぱり和食に戻っちゃうんだ」
ナツみたいなタイプが相手だといつもはボソボソと小声になるのに、さくらの方に緊張しすぎていたからか、ナツに対しては普通の話し方になっていた。
「おぉ〜、そ、そうなんだ。それなら俺も今度トライしてみるよ」
と、ナツがいつもみたいな勢いのある話し方じゃないのが可笑しかった。
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