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働いていないと、散歩道の通行人として自分が成長していくことまで実感する

 無職の人間が毎朝目が覚めて、いきなり面倒な気分になるのは、何の予定も決まっていないからである。その予定というものは出掛ける予定ではなく、日常生活のルーティンが何も決まっていない状態で朝目が覚めるということである。しかし今日はいつもと違って、前日の夜の時点で、起きた時間から支度をしたら、すぐに家を出て副都心の隣駅のマクドナルドに行こうと決めていたので、迷うことなく青汁だけ飲んで、支度をして自宅を出た。また時間が早朝でもなく、単に散歩がてらの外出なので、支度も急ぐ必要が無く、朝目が覚めて自宅を出るまでの全ての工程において、朗らかに進んだ。玄関を出て庭の真ん中まで進んで、窓越しにリビングの方を振り返って、早めの昼食を食べている母に手を振って門を出た。駅に行く途中、道が細いため、常にいきなり出現する通行人や車が遠くから来る度に事前に少し私が端に寄ったりするのだが、そういう時に限って車は私では無い方向にハンドルを切っていき、自転車に乗っている、駅のほうから踏切を渡って走ってきた初老の男性が、私が彼を遠そうと思って待機していたら、訝しげに私に頭を下げて、サッサと畑にある方向に自転車を走らせていった。彼と同じ近隣に住む人間として、この男性は見覚えが無いけども、商店街のある方向の踏切から畑のある方に自転車に乗ってきている以上、当然畑に用がある訳で、31の無職の女として、あの年配の男性の、そっけなさを私に伝え切ってくる態度を受けて、あの自分の実家近くの土地持ちらしき男性ともう一度近隣すれ違った時の自分の態度の在り方について、事前に考えなくてはならないと気がついてそわそわしてしまった。いや、当然隣近所に住む人間に対してのあの彼の態度が問題なのだけども、それ故に私が彼について考えることになるのだ。大体は駅のすぐ横にある踏切を渡るに決まっているので、彼が自分が生まれ育った土地で道に迷っているのでなければ、そこを使うに決まっている。私の自宅近くで、私の親戚である本家のすぐ横の踏切を使う年配の男性のことを、うちの父が知っている可能性があるのは全く自然である。駅に着くまで、自分の周囲を行き交う、独特な方向から急に私に近づいたり、急に私から離れていくように思える、全然近隣の住人でない人々を眺めながら、私はなるべく常に車にぶつからないような場所を歩いた。副都心である隣駅のマクドナルドに滞在する予定だったので、隣駅でも行きは電車に乗ってゆく。マクドナルドに着くと、早速背中が壁の、木の椅子の座席についてモバイルオーダーでセットを注文した。マクドナルドではいつも、席に着いてからモバイルオーダーだけども、注文を最後まで完了させずに待ってしまうことがある。支払いがPayPayなのだけども、残高が足りないことに気が付かずに、マクドナルドのアプリで、セットを選んだ後でPayPayの方にチャージすると、二つのアプリを行き来する間に、マクドナルドのアプリで最後まで注文せずに、PayPayにお金をチャージしたまま座席で待機してしまう。しばらく座席について日々の記録をつけていたが、私は何故か、自分があまりによく行く、神奈川内の行きつけのマクドナルドで、それぞれの座席の近い、密集した空間のそれぞれ物静かな、新品らしい身綺麗な服を着た人々の中に座っていると、腸にガスが溜まってくる。人々の新品の服の漂わせる緊張感と、自宅から歩いていけるマクドナルドにいる日常感の両方が私の体に作用するのだろうと考えられる。小学校の頃読んでいた子供新聞の漫画にあったように、ひょこっとお尻を持ち上げて、音がしないように腸内のガスをすっと出して、体調を整える。自分の新品の服に、私の腸内から出た空気の臭いが付いてでも、その服を着た人々は神奈川の副都心にあるマクドナルドにいる理由があると思われる。私の座っている座席の目の前の階段を、大方自分より若い、しっかりした髪質の、濡れたような質感に仕上げる整髪剤を馴染ませた華やかな黒髪の、口元は見えないけども目元の彫りの深い青年たちが、買ったばかりの雰囲気の服を着て昇り降りしていく。仕事の合間の休憩にしても、友達と食事をしながらの休憩にしても、コロナウィルスのせいで、外出すること自体が久しぶりだと、服も傷まない分、糊の効いた新品の服でマクドナルドに来ることになるのだろう。その華やかな黒髪の男性たちが目の前の階段を昇り降りするのを見ていたら、しばらくして人が引いた。目の前に人が行き来しなくなり、一瞬静かな空間になった。私も自分の前方を意識しなくなっていたら、左側にいたコーヒーだけ注文して飲んでいた男性が、私と違ってスマホいじりに飽きてしまったようで、黒々としたスーツ姿で鼻毛を抜いていた。自分で抜きながら酷く痛そうな表情をしたりしていて、飲んでいるものと着ている服と、彼の行動のミスマッチ具合が異様だったけども、行儀良く上品な態度を取っていると損だと思えるほどの、神奈川県の副都心のマクドナルドではあると確かに私にも思えた。何時間かnoteを書いていたら、私が長居し過ぎていたせいか、左右の席の人が帰っていった。鼻毛を抜いていた黒々としたスーツのコーヒーを飲んでいた男性は、隅の座席が開くとササッとそっちに移動した。私は長時間着席して作文したり、場合によってはピンボールしているけども、作文している場合は、大体夕飯に間に合うように飲食店を出るようにする。自宅に6時には着くように、5時半前にマクドナルドを出た。電車賃が片道130円なので、帰りは隣駅の実家まで歩いて帰った。帰り道は、川べりの散歩道になっている道を行けば自宅に着くので、大変見晴らしが良く、歩行者が多い。それだけに、散歩道を歩く時、その自由に歩ける道幅の、どこを自分が歩くかちょっと意識することになる。散歩道を歩く人は決まった動線を通っていくように歩いていて、私はその自分だけの動線を確実に確保仕切るのに常に失敗して、人が向かいから歩いて来たり、もしくはいつの間にか、私自身が目の前の人の後をついてずっと歩いていたりする。とはいえ散歩道は人との距離があるので、私はマスクをずらして歩いた。暖かく、トレーナー一枚で歩いてちょうどいい気温なのを感じつつ、また人がいるのを視界の隅に認識する度、自分が歩いて到達する地点を少し先に決めて、そこに到達しながら家に帰る。

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31歳、実家暮らしアルバイト生活の、一人っ子のノンセクシャル女性😼😽 日記、エッセイ、時折評論です。 ひたすらこつこつ書き続けていくのでよろしくお願いします。