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エッセイ2 物語に出会う

 物語に出会うとき、自分は自分自身とは違う何者かになれる。水中をいつまでも泳ぐこともできるし、空を自由に飛ぶこともできる。探偵にも研究者にもなれて世界の真理や、裏社会を渡りゆくこともできる。雨とランプには多くの本があり、そういった出会いが生まれる。本はお客様が選んで読むこともセレクトされたものを読むこともできる。
「普段から本は読みます」
 とある日来た高校生のIさんはカウンセリング後、本棚を眺めながら言った。Iさんは小説をよく読み、いくつか読んだことのある本もあったという。
「いくつかセレクトして持ってきましょうか?」
 と声をかけて、小説やエッセイ集などを持っていく。その中に歌集も紛れさせてみた。
 たまに歌集や詩集をセレクトの本の中に入れてみることがある。さっと目を通す人も、じっくり読む人もいて反応はまちまちだ。
 初めて短歌を読んだのはいつで、それはどんな作品、作者なのか覚えているだろうか。私は大学一年生の時にサークルの短歌会の短歌を批評する歌会で読んだのが初めてだった。もちろん、中学高校の授業で触れていたのだが、記憶にはあまり残っていない。
 Iさんは置かれた本を一冊一冊手に取り、初めて見る作品にこれから出会うものを選んでいく。その中の一冊を手に取り、開く。初谷むいさんの第一歌集『花は泡、そこにいたって会いたいよ』(書肆侃侃房)。札幌出身の歌人で、大島智子さんのイラストが表紙となっている。

イルカがとぶイルカがおちる何も言ってないのにきみが「ん?」と降り向く

 歌集の一首目を読みしばらくそのページを開いている。
「短歌は読んだことはありますか?」
「いえ、短歌はないです」
そこからは1ページ1ページ読み進めていく。初めてであう短歌をどう読むのか、私はそれをわくわくしつつ鋏を動かす。
「短歌は、よくわからないです」
 そうぼそりとIさんは言った。けれども、読み進める指を止めることはなかった。カットが終えるまで、もくもくと読んでいた。
 確かに初めて歌集を読んだとき、この本は何を描いているのか、よくわからないというのが本音で、けれども惹きつけられる言葉たちがそこには存在している。そう私は感じたのを覚えているが、Iさんも同じように感じていたのだろうか。
 そうなら嬉しいな、と感じる。

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