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トラウマに触れれば

【エッセイ1】

 美容室でお客さんと会話をしていると、思い出話になることが多くある。
 美容師は他の業種よりも多くの思い出に触れるのだろう、と感じる。身近な出来事について触れることもあれば、遠い昔の出来事に触れることもある。旅行や会社で起きたこと、学生時代のことまで、その人の思い出に触れると嬉しくなったり、恥ずかしくなったり、とせわしない。けれど、思い出話には良い思い出もあれば、悪い思い出もある。その中には美容室で起きてしまったトラウマも含まれており、みんなどこか遠い目で話し始めるのだ。
 美容室のトラウマで多くあるのは技術の失敗で、ヘアカラーやパーマでの失敗もあるが、縮毛矯正でのトラウマがもっとも強く、多く感じる。お店をオープンしてすぐに来店をしてくれたNさんも、トラウマを抱いて来た一人だ。七年前、とある美容室で縮毛矯正をかけたとき、かなりの時間をかけて行われたが、仕上がりはうねりが残ってしまったという。お直しをお願いした二回目、毛先はビビり毛(髪を引っ張るとちぎれ、触ると硬く、細かく折れている状態。こうなると修復するのが大変)になり、根元は折れたように仕上がり、手触りは全体的に硬くなってしまったという。その後、地元で出会った美容室で納得のいく縮毛矯正を手に入れて、その後はそこでしか縮毛矯正をするのが怖くなってしまったという。
 縮毛矯正の失敗例はたくさんある。原因は圧倒的に縮毛矯正の案件が少なく、経験不足な美容師側にあるだろう。美容師にも得意不得意がある。カラーが得意な人もいればカットが得意な人もいる。例えるなら、料理人で中華が得意な人もいれば、洋食が得意な人もいる。定食屋のようにオールマイティにこなせる美容師は注意深く探さないと見つからない。
 Nさんはカットとカラーで来店された。年に一度の縮毛矯正はいきつけの美容室で行うということで、私は極力、縮毛矯正がしやすいよいうにカットもカラーも負担の少ない方法で行い続けていた。
 5月。湿気が増えて髪のうねりが主張し始める頃。そろそろ縮毛矯正を行おうと考えていたが、COVID-19がいまだ世界中で流行っていて、Nさんも地元に帰ることを断念した。それでも根元のうねりが気になるということで相談しに来た。トラウマを共有することでさえ勇気が必要だというのに、相談するにはそれ以上の勇気が必要だと感じる。
 共有するステップを乗り越え、相談するステップを乗り越え、あとは実際に仕上がりを満足してもらう。知識や技術、経験、伝え方によって大きく変動してしまうだろうが、美容師はそのトラウマを解決できる仕事でもある。その瞬間がたまらなく魅力的である。
 相談してくださりありがとうございます。こういう時に、髪のアドバイザーとして向上していこう、と毎回思うのであった。


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