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フリースクール活動日記 2023/12/21-横須賀

 ようやく、ようやっと僕の要望が通った。今年も最後というこの節目だからこそ許されたのか。4月から提唱し続けた「戦艦三笠」に行くことが許された。
 そう浮かれながら教室へ向かうと、そこでは到着時間についての議論が続いていた。
 毎年最後の「お出かけ活動」では、これまで以上に遠出をするのが普通であり、これはまた各学期の終わりとも同じであった。そして本来であれば稲荷山古墳へと向かう予定だったのだが、皆(girls中心)がお絵かきに夢中でなかなか話し合いに参加してくれない。そのため半ば冗談に「話し合いに参加しないなら戦艦三笠に行くことになるよ」と声をかけてみれば(一縷の望みをかけて声は最小限にしていた)、意外にもそれに対しての反応はゼロ。若干呆れながらもこれ幸いと正式に「三笠」を目的地とすることに成功した。
 けれどもその後集合時間についての大激論が繰り広げられた影響か、girlsはのきなみ不参加。珍しく参加人数が10名を切った。その原因の一角には横須賀があまりに遠かったこともあるだろう。
 人数が少ないため、誰が来ているのかは酷く分かり易い。横須賀に到着後すぐに、龍角散が来ていないことに気がついた。1時間以上遅刻するとのこと。この前の僕のように置いて行かれることは必至。それでは可哀想だったので予め三笠に集合ということにして、時間を潰すためベルニー公園へと向かった。ここには「陸奥」の4番砲塔の左舷側の砲身、寄贈されたという1/100の精密な模型(しかも木製甲板)などが展示されていた。丁度数ヶ月前に陸奥記念館へと行ってきたこともあって、イマンモと2人これが欲しい、幾ら出せば買える、クリスマスにこれを贈ってくれなどと騒ぎ立てた。

この模型、とても格好良い。嗚呼、欲しい。
いくらだ?幾ら出せば買える?
(検索したところ未塗装で247万円ほどだとか)
さすがに自分で買うのは無理だ。そういえば、もうすぐクリスマス。
誰か、買ってくれないだろうか……
陸奥、第四主砲
ちゃんと弾丸の展示もある。

 そうして海上自衛隊、在日米軍の軍艦を見ながら三笠目ざして歩くわけだが、そこで唐突に事件が発生した。いつものようにカッパくんたちが前を歩き、僕は中間にイマンモ達と、後方にはレイセン、パイセン、トラたちが少々遅く歩いていた。そんな中、後方にいたK兄をある悲劇が襲った。
 いつからかは知らなかったのだが、そのときK兄は唐揚げを食べながら歩いていた。集合時間がいつもよりも遅かった影響で、すでに11時半ごろ。そんな時間だったからなのか不意に後方から誰かの叫び声が聞こえた。
 それを目撃していたトラは、パイセンは、言う。先ほどから上空を旋回していたトビが急降下し、K兄の手から唐揚げを強奪していったと。なんと恐ろしい、そして逞しいトビだと皆一様に感心した。けれども僕たちはそれだけだと思っていた。こんなに怖いトビは1羽だけだと。その考えが決定的に間違っていると知るのは、もう少し後になる。横須賀のトビは恐怖の対象としかならないであろう。
 そのトビに皆の意識が向けられたからか、皆次々に間違った道へと進んでいく。軍艦の記念碑や慰霊碑の前を通ったときは、まだよかった。けれどもその後進んでいった1本道は在日米軍のゲートに通じていた。道理ですれ違う人は外国人ばかり。それもこちらに訝るような目を向けてきたわけだ。そこを迂回するためにまた来た道を巻き戻り、また選んだ道の前にゲートが出現する。

 なんとか三笠の近くに辿り着いたときには、龍角散はとっくのとうに到着しており、さらには上甲板で昼寝をしていたという。2時間彷徨い歩き続けた僕とは偉い違いだ。
 入口に飾られる「バルチック艦隊の砲弾」や「戦艦大和の砲弾」などをざっと見てから艦内へと進む。入口には三笠についての解説があり、「数に倍するバルチック艦隊を水雷艇三隻の損失のみで壊滅させた」などと書いているが、終戦直後に水兵の過失で爆沈したことは書かれていなかった。さすがにそんなことを書いては人が持つ印象は最悪だろう。事実そのことを知った皆の口は驚愕のあまり上下に開いたままだった。
 早速上甲板を走り回り、後部の、続いて前部のと艦橋へと登っていく。幸い天候には恵まれたものの、風は馬鹿には出来ない。階段を登る途中で危険に気付き、急遽マスクや紙の束など手に持っていたものをポケットに押し込みリュックに詰め込む。この風では吹き飛ばされてマストにでもかかりそうだ。そうなったなら目も当てられない。龍角散と一応何人かには声をかけておいたが、はたしてどうなるか。
 因みにこの後、カッパくんや龍角散は前部艦橋へ言った際、誰だったかが言った「鬼ごっこやろう」などの声に誘われてなんと上衣、荷物をすべて置き捨てて甲板まで下りてゆく事故が発生した。たまたまその場に居合わせた僕たちが飛びつき、風に飛ばされるのは未然に防ぐことが出来たが。
 また、同じ場所で動画撮影をしようとしたレイセンは、首に巻いていたマフラーが空高く舞い上がり、あやうく海へと還してしまうところとなった。幸いなことにそれを見た僕や龍角散、カッパくんが殺到(艦首部、上甲板などからそれぞれ見ていた)して事なきを得た。
 話は変わるが、東郷平八郎はこんなところで指揮をしていたわけだ。おまけに開戦時などは下手をすると18ノットは出る。だいたいが時速33km。そんな状況で高さは不明だが、おそらくは地上高10メートル以上の場所に立っているわけで、これが日本人以外の西欧人であれば即座に吹き飛んでいただろう(絵を見る限り、当時の日本人は小柄だからなんとかやっていけていたようにも思われる。)事実、僕たちが上に登るとひどい突風で吹き飛ばされそうになるし、その気になれば手すりから身を乗り出して落下することだって簡単だろう。

 早々に退散することに決め、艦首部で謎の「たいたにっくごっこ」をやっているカッパくんと龍角散を無視。右舷の補助砲を動かして近海を通る船や近くの駐車場で動く車などに砲を向ける。ここの砲は上下左右に動かすことが出来るし、非常に楽しかった。
 その後も上甲板、中甲板と副砲などを回る。三笠のシミュレーションゲームを終えた後、うっぷんばらしのため鬼ごっこを始めたメンバーもいたが、それには僕は参加していなかったので割愛。そういえば、13時頃か一度すごい振動があったのは、いったいなんだったのだろうか。
 いったんは皆鬼ごっこを終わらせたようだったけれど、未だ鬱憤(?)は蓄積していたようでしばらくVR機器を装着した後ふたたび暴れ回り始める。とはいっても、皆この1年でひと皮もふた皮もむけたようで非常に節度がある。
 とはいっても龍から始まって散で終わるどこかの誰かさんが僕の鞄を上部艦橋に置き去りにしてきたこともあったが、最上部の露天艦橋へと置いてこなかっただけまだマシと言えるものであろう。
 以下は、そんな彼らが思い思いに艦内を廻っているときの写真である……一部、不可解な行動を取っているメンバーも居るには居るが。

このメンバー、実は過去にも似たような行動をして写真を幾枚も撮られている。
そのうちの1枚は、水道橋に行ったときのものである。

 兵員室や艦長室、長官公室などを回った後に一度上甲板にて集合する。いつの間にやらもう14時だ。一度退艦して弁当を食べに行こう。そう思い、モールス信号にて「龍角散うるさい」やら「私の名はemmanmoだ」、「我等がフリースクール、ここに参上」などと打っているメンバーを置いてひっそりと公園へと向かっていく。後々、後悔したものだ。何故三笠で食事をしなかったのか、何故あんなことを龍角散に許してしまったのかと。
 三笠公園、野外ステージの近くにて昼食を摂ろうとしたのだが、内陸部から強風が吹いていたため小さい丘を越えて海の近くに陣取ることにした。この選択もまた、失敗だった……
 前々から兆候はあった。ちらりちらりとソレは姿をこちらに見せていたのだ。

 それを知りながらも、何故こんな所を選んでしまったのかと今でも後悔している。あんな目に遭うのはもうこりごりだ。
 弁当を食べ終わりソースと2人多すぎる蜜柑を食べようとしたとき、ソレらはやって来た。

そう、トビである。

 最初は1,2羽が唐揚げを食べていたりコロッケを食べていたりした僕たちを見に来ただけだった。それなのに、龍角散の行動がすべて灰燼に帰してしまった。弁当を隠し早めに食べ終わろうとした僕たちの努力は無に帰ってしまったのだ。
 彼が掲げたるは、ソースから提供された蜜柑と、その皮。それめがけてトビがやってくる。彼は逃げる。逃げて、逃げて、逃げすぎた……
 なにやら米軍基地の方から黒いものがやって来るということに、最初に気がついたのは誰だったか。このことは、のちのちまで語り継がれるであろう。俗に「ヒッチコック事件」とでも言うのだろうか。
 これにより、公園の一部では見るも恐ろしい光景が展開された。

 おのれ龍角散、許すまじ!皆の胸中はその一言で埋め尽くされた。このことが、皆の結束を強めた。もしも来年水場に行くことがあったのなら、真っ先に落とされるのは彼だろう。

結束が、
高まった。

 これにて今学期の活動は終了、と言いたいところではあるが本当はまだ活動は残っている。土曜日に奥多摩珊瑚荘にて「料理教室」なるものをおこなうそうで、それにはなんと数千円引きで参加できるのだとか。それを目がけて龍角散を筆頭に皆向かった。本当は僕も行きたかったのだが、最近奥多摩合宿後に風邪を引いていることから止めた方が良いといわれてしまった。特に、26日からは解剖教室への参加が決まっている。残念だがこれへの参加は諦めて、来年の初詣まではしばらく休むことにしよう。

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