見出し画像

フリースクール活動日記 2023/12/14-トキワ荘

 どうしてこうなった。12月というのに未だ日光が燦々と照りつける中、疲労を感じて立ち止まった僕は考えた。そもそもが予定よりも速い電車で到着できたのだから本来であればこんなことはあり得ない。なのに、なんで僕はこんなことをしているのだろう。
 はじまりは随分と前からあった。この前日、目的地はトキワ荘と決定し、イマンモや龍角散との会話の中で集合場所は「ときわ台」と聞いた。イマンモからの追加連絡もなく、安心しきって東武東上線に乗ってときわ台に到着した。これが、間違いの1つだった。
 到着してすぐ、皆がいないことに気がつく。さすがにレイセンなどは着いていてもおかしくない時間だ。イマンモに連絡してみたところ、不可解な事実が判明した。今日の集合場所は、ときわ台ではなく新井薬師前駅だという。そんな馬鹿な。たしかにときわ台だと聞いたし、追加の連絡もなかったのに。実はイマンモはその後連絡してくれていたのだが、受信に失敗してしまっていたようでその連絡が入っていなかったのだ。
 それでも家で調べたところトキワ荘の位置はときわ台と上板橋の間のあたり。ならば新井薬師前とは上板橋の近く。そう頭にひらめいた。
 けれども、今日はときわ台に集合する予定だったため所持金が心許ない。上板橋まで行ってしまえば最悪家に帰ってこられないかも知れない。そう思った僕は、未だ時間があることを鑑みて徒歩で上板橋を目ざすことにした。
 今思えば、これが失敗の第2。そして、この少し後に最大の失敗をするはめになる。
 しばらく歩いて上板橋に着いたものの、その駅前の地図には「新井薬師前」という場所は発見できなかった。だが、その地図の上の方に別の線路が見える。ははあ、これだと思った僕はまっすぐ北へ向かって歩き出した。
 しかし、僕はスマホを持っていない。地図もない。見知らぬ町でそうして歩いていたならば、道に迷うのは当然の帰結だった。既に集合時間は過ぎた。イマンモに道に迷った旨報告し、ついでとばかりに新井薬師前駅の場所を聞くと意外にも高田馬場の近くだという。なんだそれは。まったく見当違いの所を歩いていたというのか。そうわかったときには、時既に遅し。歩いて歩いて、中台公園というところまで来てしまっていた。全く人気のない通りで少々薄気味悪くなった僕は、あえて違う道を通って上板橋駅を目ざすことにした。
 駅に入るなり準急行が来たため、これ幸いとそれに乗って池袋まで戻る。いまならまだ新井薬師前から追いつけるとイマンモはいうのだが、電車賃が怖かった。あと数百円しかない。一応家までは帰ることが出来ると思うのだが、新井薬師前まで行くとなると電車賃が足りなくなる可能性が非常に高い。ならば、いったん椎名町まで行き、トキワ荘に先回りして待っていれば良いだろう。そう思って西武線乗り場へ行く。もうそろそろ彷徨いだしてから1時間か。もうそろそろ合流しなければ、一日中彷徨い歩いて終わってしまう。
 そう懸念しながら椎名町に着き、真っ先に地図を確認する。しっかと頭に刻んだのだが、残念なことにまた道を間違える。右だと思えば左にある。南だと思えば北にある。あまりの方向音痴に自分のことながら開いた口がふさがらなかった。
 そうしてなんとかトキワ荘へ着くと、イマンモと連絡を取り合う。だが、どうやら皆はまだ「哲学堂公園」なるところにいて、30分ばかしは動きそうにないという。ここで30分待つのも退屈だ。それなら向かってみようとすっかり棒になった足を動かすも、地図もスマホもない僕には哲学堂の場所がわからない。なんとかイマンモの情報を頼りに新青梅街道に出て、そこから先は池袋ー哲学堂間のバス停を頼りに道を進んでいく。ついに公園に辿り着いたのは12時とすこし。あと少し来るのが遅かったなら、イマンモ達は僕を置いて行ってしまったという。
 ともあれようやっと合流することに成功したときには皆すっかり公園を満喫したあとだった。僕がそこに合流したときには寒さと疲れとで口の端が痙攣したまま固まってしまっていたのだが。彼らが公園を満喫した画像がこちら。勿論、僕が彷徨っている間の写真など1枚だってあるはずがない。

楽しそうでなにより。
できれば僕もそちらへ行きたかった……

 ようやっと合流したのだが、弁当を食べ終わるとすぐに先ほど歩いてきた道を逆走してトキワ荘へと戻ることになった。なにか非常に損をしたような気持ちに―実際たっぷりと損をしている―なっている僕を横にniconicoやシャコシャコ、龍角散が道路にて走る、逃げる、追いかけるetc.彼らはどうしてあんなに走ることが出来るのか。2時間近くずっと歩き詰めだった僕が彼らについて行くことはとても難しい。
 その後を追いながら、ヨッシーやイマンモと冬の旅行企画についての相談をする。夏に行けなかったならば冬に行けばいいじゃないかとの精神で設立されたこの企画団だが、メンバーはemmanmo、僕、ヨッシー、Χαοσ、そして団長にカッパくん。夏合宿と違い、2度目の旅行ということで料金が高いほど前回来たメンバーは行かない可能性が高い。なので可能な限り人件費を減らすべく、イマンモに代わり僕たちがバス手配、旅館に連絡などをしなければならないのだ。しかしながら種々の料金を含めるとどうしても1人30000円を超えてしまう。どうにかならないものか。
 そんなことを相談している内、龍角散が脇道へと飛び込んでいった。後を追いながらふと思いとどまる。そちらの道は違う。厳密にはこちらからでもいけないことはないのだが、いかんせん迷いやすい。まあ、彼ならばきっと大丈夫。そんなことを思いながら、皆でこっそりと後退っていき、彼に気付かれないよう正規の道に飛び込むことに成功した。
 彼を置いて進んでいき、しばらくしてようやくトキワ荘が見えてきた。先ほどはここへ着くなりすぐに哲学堂へ向かって出発したために、どっかりと腰を落ち着けて辺りを見渡したりといったことをしなかった。
 トキワ荘公園の遊具、案内板、公衆電話、トイレ!先ほど後を追ってやって来た龍角散と合流し、あちこちを真新しいものをみるようにじっくりと観察する。

漫画家達が使ったという公衆電話。
もちろんその扉は開かない。

 遊具でしばらく遊んでいると、時間が来た。トキワ荘の見学に、入る。赤塚不二夫や石ノ森章太郎の部屋を覗いたりしてまわるが、いかんせん建物一棟分の広さしかない。つまり狭い。あっという間に周り終えてしまった後は鬼ごっこのようなものをしたりと皆自由奔放に1階と2階を行き来する。
 最終的に館内に飽きた皆が外へ出て紙飛行機を投げ合ったりすることとなり、そこで思ったよりも時間を取られてしまったために「トキワ荘マンガステーション」に行くことが出来なくなってしまった。非常に残念だ。
 今回はいろいろと不具合があったおかげで実に半分以上の時間を歩くことになってしまったが、もうこんなことはしたくない。歩くならせめて山を登りたい。
 次からはちゃんと予定を確認して、金も多めに持っていき、道中の退屈しのぎにもっと本を持っていこう。次回が今年最後の活動となる。いまはまだ行き先は決まっていないが、学期最後の活動はいつも遠出するものと相場が決まっているそんなところで迷ったならばもう取り返しがつかないから、次回はちゃんと目的地にたどり着けるよう努力しよう。

‘今回持っていった本’
堀田善衛「スペイン断章 下」
 林望 「イギリスはおいしい」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?