(小説)山に眠る鳥たち -11-

 柱時計が12回鐘を打った。俊君が正確に針を合わせてくれたので、年季が入って遅れがちな柱時計は立派に仕事を果たすことができた。日向叔父さんも鐘を聞いて起き出して、みんな揃って新年を迎えた。今年もよろしくお願いしますと言い合った後、急速に祭りのピークが過ぎた気だるさが訪れ、皆疲れたような重い空気になった。私が真紀ちゃんを見遣ると、真紀ちゃんはピンと気づいて、にやっとした後、台所へ行った。
「そろそろアイス食べない?」
 吹雪の中、部屋を暑くして酒を呑んで、すっかりのぼせてしまった喉には、絶対にうまいアイス。おばあちゃんが元気だった頃の大晦日に、この家で食べた深夜のアイスタイムは子供心に特別な印象を与えて、私たちいとこにとっては忘れられない思い出だ。真紀ちゃんは、昨日私と選んで買ったハーゲンダッツをこたつの上に並べた。
「やった!」
 最初に声を上げたのは真央ちゃんと和花名ちゃん。だが、手を出そうとした二人を押し退けて母三姉妹が争奪戦を始めた。
「ストロベリーは私に決まってるじゃない」
「いっつも、瞳姉ぇばっかずるい」
「有紀はチョコでも食べてたら?」
「二人とも、たまには私に譲って。ずっと上と下に挟まれて気を使ってきたんだから」
 三人の間をストロベリーは高速で行き来する。他の八人は乙女時代に戻った三人から一斉に身を引いた。
「「何言ってんの! 私はお母さんからいつも、何でも、妹たちに譲れって言われてきたんだから」
「じゃぁさ、二人のお下がりばっかりだった私に、譲って」
「だめ」
「ダメ」
 末っ子の有紀叔母さんが愛嬌たっぷりに欲しがっても、上二人にぴしゃりと撥ね飛ばされた。一個のストロベリーを除いて、私たちはそれぞれ好きな味を選んで食べ始めた。そんなにストロベリーにこだわらなくとも、ちゃんと見れば「期間限定」の味を幾つも買ってきてあるのに、ママたちには見えていない。丁度良い溶け具合に私の頬は緩む。
「ママ達、今、最高に良い溶け具合だよ」
「えっ?」
 私の一言にママの眉毛はピクリと動いた。ストロベリーは三人の手の温度でおそらく食べ頃を逃してドロドロになっていると思われる。
「アタシ、いーらない。違うのにする」
 最初に一抜けたのは、さすがの末っ子、有紀叔母さん。さっさと抹茶に鞍替えした。残るはバニラとドロドロストロベリー。
「私、バニラにしよっと」
ママが最後に握って離さなかったストロベリーを諦めて、多江叔母さんもあっさり手を引いた。残された形になったママが、勢いよく、怒ったように蓋を開けてフィルムを剥がすと、予想通りカップの縁から広く溶けていた。一口掬って口に運んだママの目から、ぼろぼろと涙が落ちた。私のアイスを食べる手が止まる。
「いっつもこう。やんなっちゃう。意地張ってこだわって、大事なのを壊すの」
 ママはスプーンを置いて小走りして二階に上がった。家長として君臨しているママの突然の泣き崩れに私は慌てる。ママが泣く。いや、あの人は泣かない生き物だ。まさかまさか。だって、生まれてから一度も見たことないもの。
「晶、いい。パパが行くから、お前は行かなくていい。ママのアイス、冷凍庫に入れて来なさい」
 立ちあがった私を呼びとめて、パパは胡坐を崩して腰を上げた。事態の急変で口の中に残っていたラムレーズンの香りが分からなくなった。唾液と違う物質が、舌の上に膜を張っているような違和感だけがある。日向叔父さんがスプーンでカップの底をシャッシャッと何度も削って、顎を出してスプーンを舐めた。他の誰もがママの異変を大して重く受け止めていない様子だ。
「晶ちゃん、大丈夫よぉ。お姉ちゃん、たまにあるのよ。あんなこと」
 そう言う多江叔母さんに、
「厳しかったもんね。お姉ちゃんには。お父さんとお母さん」
 と有紀叔母さんが相槌を打った。
「あら、有紀は分かってたの?」
「まぁね。うちらの分まで叱られてさ、ちょっと気の毒っていうか」
 多江叔母さん、有紀叔母さんの会話は私をどきりとさせた。ママが、「たまに泣きだす」ことも「おばあちゃんに厳しくされていた」ことも、私は知らずに過ごしてきた。
 思い返せば、小学生の時、長い休みになると私はおばあちゃんちに行きたがって、ママは連れて行ってはくれたけど、ママも一緒にこの家で長期間過ごすことはしなかった。お兄ちゃんの勉強が忙しいせいだと私は思っていた。本当は違うのかもしれない。おばあちゃんとママがどんな表情で、何を話していたか、私の中にその記憶はない。人が「多面体」だとしたら私が知るママは少しだけで、見えていない所では、ただの弱い、一人の女性なのかもしれない。
 真央ちゃんが尚人叔父さんの隣に座って、蜜柑を剥いてくれと甘えた。パニックを起こしたのは私だけだ。パパがいるから大丈夫と気持ちを落ち着けて、ラムレーズンを食べ終えた。今度は芳醇で力強い風味が鼻から抜けた。人が大勢いると、誰かがフォローしてくれる。私一人が頑張らなくても良くて、どう倒れても大丈夫な大きなクッションに包まれているみたいだ。マンションで暮らしていた時の、息を吸うだけでも込み上げてきた吐き気が、今では忘れてしまったみたいに出てこない。
 真紀ちゃんと和花名ちゃんが台所でコーヒーを淹れている。11人分の豆を挽くミルの轟音が暫く続いて、口先の細いケトルがカチリと沸き上がった合図をした。多江叔母さんが、使い終わったグラスや皿をトレーにまとめて台所に運んだ。沢山のソーサーにカップを乗せる高い音がして、豆に向かって細い湯の糸を垂らしているのが、香りで分かる。ジャズフェスの日に、ママと貴子さんに会った帰りのコーヒーショップでも、この匂いに随分癒されたっけ。匂いは記憶を呼び覚ます。ママは家で昼食を摂る時に、豆を挽いてコーヒーを淹れてくれた……。
「パパとママ、呼んでくる」
 二階に上がると、外の寒風を感じた。台所から漂うコーヒーの匂いに混じってパパの煙草の臭いもする。パパとママの声はしない。廊下に吊るされた小さなステンドグラスの照明ランプが、飴色の廊下に赤と緑と青の影を落としていた。
「パパ、ママ」
 廊下から部屋の前の襖に話しかけた。足音が近づいてきて、スッと開いた襖の前には、いつもの気の強いママがいた。
「今、行こうと思ってたとこ。コーヒーでしょ。そろそろ呼びに来ると思った」
 ママの後ろで、パパは窓を開けて吸っていた煙草を、携帯灰皿に仕舞った。
「ここはいいな。外に煙を吐いても誰からも文句言われなくて」
「家族は迷惑よ。いい加減にして。一成も言ってたでしょ、煙草の害がどれだけのものか!」
 にやけたパパにママは冷たい視線を突きつける。入口を塞ぐように立っていた私を手の甲で押し退けて、ママは階段を駆け下りて行った。
「ママは大丈夫だったの?」
 煙を吐きだすために開けた僅かな隙間からでも、勢いよく雪が入ってくる。パパは窓と障子戸を閉めた。普段は誰も使っていないストーブの無いこの部屋で、パパとママは何を話していたのか。
「ん、まぁな。ここに来る前にも、ちょっとカズとママで一悶着あってな」
「お兄ちゃんと? ママが?」
 全く想像がつかない。お兄ちゃんは人と争うことが嫌いだ。しかも「ママと一悶着」だなんて。ママが一方的に絡んだだけじゃないのか?
「貴子さんが原因だよね?」
「人をそんな風に決め付けるのは良くないなぁ」
「もうそんな道徳みたいな言葉はいらない。で、なんで?」
 とにかく原因を早く知りたくて私はパパに詰め寄った。
「その迫り方、ママとそっくりだな」
 思わずカッとなる。一番言われたくない言葉だ。
「どういう意味? ひどくない? 私がママの事をどう思ってるか知ってるくせに。何にも分かってないじゃん」
 大量の涙が急速にせり上がって来るのを、何度も瞬きして無理やり鎮める。
「パパ、晶、冷めないうちに降りて着なさい」
 階段の下からママの普段の声がした。
「ママとカズにも同じこと言われたよ。『何にも分かってないくせに』だとさ」
 笑って誤魔化そうとするパパ。私の苛立ちに油を注ぐ形だが、そうするしかないのだろう。パパも一人の人間だ。悩んで、困って、おろおろするのだ。そう思えたら、頭の熱が体に流れ落ちた。
「……コーヒー、真紀ちゃんと和花名ちゃんが淹れてくれたから」
「あぁ、そうか。じゃぁ頂こう」
 四面に和紙が貼ってあって、輪の蛍光灯が二つ嵌めてある照明から垂れ下がる紐を引っ張って、私とパパは階段を降りた。

 柱時計が二度鐘を打った。パパと日向叔父さんと尚人叔父さんの三人は、居間の隣の部屋に、母三姉妹はさっきママが籠った二階の六畳間に布団を敷いた。時々、ママたちのお喋りする声が聞こえてくる。昔からあの三人は仲が良い。
私と真紀ちゃんと俊君と、和花名ちゃんと真央ちゃんの五人で、お笑い芸人が眠い瞼で朦朧とはしゃいでいるテレビの生番組を見ていた。真央ちゃんがソファーに寄りかかってスマホをいじりながら欠伸をした。ソファーに座っていた真紀ちゃんが
「マオ、寝たら?」
 と言うと、
「やだ」
 と、スマホから目を動かさずに真央ちゃんが答えた。
「今、ここに居ないの、カズ君だけか」
 俊君はそう言いながら、酔い覚ましに飲んでいた氷水のコップをテーブルに置いた。
「……いとこじゃないけど、絵理奈さんもいない」
 和花名ちゃんの発言に、私と真紀ちゃんと真央ちゃんはハッとして、俊君と和花名ちゃんの顔を交互に見た。そこはさすがに兄妹しか触れることができない部分だ。
「絵理奈は、……どうしてるかな。何にも連絡ないな。実家にでも行ってるのかもな」
 繕い笑いする俊君が痛々しくて、見ていられない。
「最後に何喋った? 絵理奈さんと」
「和花名ちゃん」
 堪え切れず真紀ちゃんが話を止めに入った。
「いいでしょ、別に。私、絵理奈さんが好きだった。こんな綺麗な人がお姉さんになってくれて嬉しいって、本気で思ってた。だから知りたい」
 今どきの子。キラキラガール。おしゃれに敏感で、かわいい。背中まである髪の毛は栗色で、ネイルは一本一本の指に、サーモンピンク地に白でリボンが描かれている。和花名ちゃんは小さい頃からオシャレさんだった。おばあちゃんは『和花名は派手すぎて品がない』とぼやいていた。
「絵理奈はこの家を気に入ってくれてたよ。将来、もし真紀ちゃんとアキちゃんがこの家からいなくなったら、絵理奈と俺はここに住んでもいいと思ってた」
 ゆっくりと淡々と話す穏やかな俊君の声が、絵理奈さんを失ってからの年月を思わせて、胸が苦しくなる。
「お兄ちゃん、この家を好きとか、本気で言ってる? アキちゃんとか真紀ちゃんはここにいい思い出あるのかもしれないけど、私、この家嫌い。今日久しぶりに来たけど、やっぱ無理っぽい。魔女の家みたい。私、ババァに嫌われてたしさぁ。お兄ちゃんだって、いつもカズ君と比べられてさ。お母さんもそう。あのババァにお母さんも嫌われてた。大学まで出して、ただの田舎教師と結婚したって。お兄ちゃん、知ってるよね、あのババァの本性」
 俊君は返事に困って、黙ってしまった。
「分かる」
 代わりに口を開いたのは真紀ちゃんだった。
「その『ババァの本性』、私も知ってる。あの人は自分の見栄に役立つ人が大好きだった。立派な男性と結婚した娘とか、優秀な孫とか。世間に羨ましがられるのが嬉しくて堪らなさそうだった。私も『コンクールに出るのは恥さらしだ』って言われたことある」
「じゃぁ、なんでわざわざこんなトコに住んでんの?」
 和花名ちゃんが喰いつく。
「今は違うけど……」
 けど? 真紀ちゃんの含みのある間に私は緊張する。
「悔しかったから。同じ孫なのに差別されて。アキちゃんが羨ましかった。私だってこの家の孫だし、年も一緒だし、それなのに、アキちゃんばっか可愛がられて、アキちゃんがここに住むって聞いた時、許せなくて。だから、私もここに来た」
 和花名ちゃんは「それ重いよー」と本当に嬉しそうに笑う。
「和花名、感じ悪いぞ」
 俊君が止めに入った。
「お兄ちゃんだって一緒でしょー。カズくんの引き立て役じゃん」
 和花名ちゃんは一瞬で俊君の口を封じた。真央ちゃんは黙って聞いている。
「真紀ちゃん、ホントは今でも私の事、許せないんじゃないの?」
 心がざわめく。真紀ちゃんを失う不安や恐怖が、怒りに変わっていく――。
「……今は違う、って言ったよ。さっき」
 違ってなんかいない。気まぐれに本心を繕ったり、露わにしたり、今でも私との駆け引きは続いているじゃないか。ふつふつと心の奥底で燻り続けた火種が炎を見せる。真紀ちゃんがいてくれて嬉しかったのに、楽しかったのに、安心していたのに、口から火を吐かずにいられなくなる。
「私が先にここに来たのに! そんなに私やおばあちゃんの事が嫌いだったら、おばあちゃんが大事にしてきた物に触って欲しくなかった。リフォームなんか、私、ほんとはしたくない。ジャズフェスに出る前だって、いきなりバンド仲間連れて来てさ、何日も帰って来なくなって、俊君とみちるさんにやきもち焼いて、機嫌がコロコロ変わって振り回してばっか!」
二階から、声を聞きつけたママたちが下りてくる。
「ちょっと、あなたたち、どうしたの」
 真央ちゃんが有紀叔母さんに駆け寄って、黙ってこっちを見た。
まるで私が悪者になっている構図だ。
「もう、寝なさい!」
 ママが解散を言い渡す。けれど誰も動こうとはしない。
「みちるって、誰?」
 和花名ちゃんが俊君を見据えたので、多江叔母さんも俊君に関係する話だと勘付いたようだった。
「俊君の新しい彼女だよ。年上で色気のある女」
「そういう言い方、やめろよ」
 俊君が真紀ちゃんに釘を刺す。真紀ちゃんの気持ちがあちこちに向いて、話が迷走する。私に対する苛立ちなら、私に言えばいいのだ。だが、一旦向きを変えた話はひとりでに転がって、誰にも止められない。
「やだ、何それ。絵理奈さんは? 可哀想じゃん! お兄ちゃん最低!」
 和花名ちゃんは軽蔑の目を兄に向けた。
「俊、そうなの?」
 多江叔母さんが目を細めて訊く。
「お母さんは、反対する? 俺が薄情だって思う?」
 俊君は自信なさげに多江叔母さんに訊き返した。
「お母さんは……」
 多江叔母さんは、ふっと緩んだような小さい息を漏らした。
「お母さんは……嬉しいわ。だって、俊がこれからずっと一人かもしれない、って思ってたから」
 多江叔母さんは指で目頭を拭った。
「お母さん、頭おかしいんじゃないの! 馬鹿みたい、何なのこの人たち。みんな頭おかしい!」
「和花名ちゃん、おかしいのはあなたよ」
 ママがジャッジを下す。
「伯母さん、あのババァとそっくりだね」
 和花名ちゃんから言葉を放たれた途端、ママの顔が硬直した。
「ど、どこがよ! あなた、私とお母さんの事、何にも知らないくせに」
 ママが感情を隠しきれなくなっている。「母親とそっくり」がママの急所だったとは、私と同じではないか。さっきのパパとの会話を私は反芻した。
多分、今のママは私よりも可哀想だ。母親と上手くいかなくて、娘とも良い関係を築くことができなかったのだから。
「こんなとこ、来るんじゃなかった」
 和花名ちゃんは襖を勢いよく閉めて、二階へ上がった。
 柱時計が三回鳴る。
 私もよたよたと二階の自室に身を向けた。どっと疲れてしまった。数時間前までは楽しい時間だったのに、急転直下だ。真紀ちゃんの声が頭から離れない。全て夢ならいいのに。私は怒っている、傷ついている、でもどこか納得している、胸のつかえが下りている……。
ベッドに横になって、毛布の上に羽根布団を掛ける。今はただ全てを忘れて眠りたい。

 誰も口を利かない葬式みたいな元朝に、めでたい色とりどりの賑やかなおせちを喰う。人の多面体がこんなに恐ろしいなら、いっそ知らない方が幸せと感じる朝だ。
「お通夜みたいだなぁ」
 日向叔父さんが笑いながら言って、皆からの冷たい視線を浴びた。
「すいやせん」
 日向叔父さんは背中を丸めて小さくなって雑煮の汁を啜った。
おせちの片付けが終わると、自然と帰り支度が始まり、11時前に私と俊君と真紀ちゃんを残して、嵐の一行は去っていった。吹雪は止んでいるが、重いグレーの空は、また雪を落としそうだ。
「俊君、ごめんね。みちるさんのこと言っちゃって……」
 太いグレーの毛糸で編んだカーディガンを着た俊君が、いいよ、と言って、私の心も少し楽になる。
真紀ちゃんが立派な大福を三つ、緑茶と一緒に私と俊君の前に置いた。
「昨日、こっそり買っておいたの。一個五百円の大福。三つだけ買ったの。この三人で食べようと思ってたの。あの……私、ちゃんと好きだから。アキちゃんと俊君のこと。まだアキちゃんを羨ましいし、俊君がみちるさんに持って行かれるのも癪に障るし、だけど、二人といると嬉しいの。だから、夜の話、……ごめんなさい」
 真紀ちゃんは正座してしょんぼり下を向いている。
「俺、真紀ちゃんのご飯好きだよ。いつもありがとう。ピアノも弾いてくれてありがとう」
「急にそんな、ありがとうとか、むずむずする」
「ちゃんと言わなきゃ伝わんないから」
「いつも黙ってばっかりのくせにー」
 真紀ちゃんがきらきらした目で笑った。
俊君が私の方に向きを変える。
「アキちゃんにも。いつも話を聞いてくれてありがとう」
「そう言われると、照れるな。じゃぁ、……私も。真紀ちゃん、ご飯ありがとう。俊君、力仕事いつもありがとう」
「さ! 食べよ!」
 珍しく俊君の仕切りで三人揃って大福に手を伸ばした。大福の白餅には、大粒の黒豆がもりもり練り込まれていて、弾力があって心地よい歯応えだった。粒餡も甘過ぎず上品だ。三人の口の周りが粉で白くなって笑い合った。外はまた吹雪になった。雪に守られた、三人だけの元日。

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