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ショートショート「ステイ…」(読了時間3分)

『…このように、ウィルスの脅威は拡大するばかりです。政府は改めて、自粛を徹底するように求めており…』
 テレビの中のアナウンサーは昨日も言っていたセリフを繰り返す。
 自粛生活が始まる前はテレビなど年に1回2回も見なかった。捨てるのも面倒で置いておいたが、こんなことでお世話になるとは思っても見なかった。

 2年ほど前に発生したウィルスは、一瞬で世界中に広がった。当然のことだが国も人種も関係なく感染は拡大し、今も続いている。
 一度はウィルスに対抗するワクチンが開発され、感染が収まったかのように見えた時期もあった。しかしこのウィルスの恐ろしさは、変化することだった。
 ワクチンが効かないウィルスが現れるのに時間はかからなかった。一度感染して直ったのに、また感染した事例が何千万回とある。
 昔だったらここまで被害は広がっていなかっただろう。世界中が繋がっていることは便利だと思っていたが、ウィルスが大流行している状況ではそれが大きなリスクになっている。

 僕は冷蔵庫を開いたが、食料は残っていなかった。
「仕方ない、買い物に行くか…」
 僕は靴を履き、外に出た。

 スーパーマーケットは人で溢れていた。少し前まではほとんど客がいなかったのに、今は違う。多くの人がスーパーに押し寄せ、長い列に並んで商品を買っている。こんな光景、長らく見たことがなかった!
 町の様子もすっかり変わってしまっている。スーパーに来るまでにも何十人もの人とすれ違った。居酒屋なんかも大賑わいしているらしい。自粛生活が続いている今、町はどこも人で溢れているようだ。自粛が始まる前は、外を出歩いている人など、ほとんどいなかったのに。

 買い物を終えて、僕は家に帰ってきた。
 冷蔵庫に食料品を詰め終えて、パソコンに向かう…。
「おっと、違う違う」
 長年のクセに、自分でも苦笑いしてしまう。僕は改めてテレビに近づき、今や1つしか放送されていないチャンネルに番号を合わせる。
『…ウィルスの脅威は拡大するばかりです。政府は改めて、自粛を徹底するように求めており…』
 テレビはついさっきも聞いたセリフを繰り返す。自粛生活に入る前はテレビなんて見なかったが、今は情報源がこれしかないから仕方がない。

 振り返り、パソコンから伸びているコードを見つめる。脳を直接インターネットを繋ぐためのコード。
 自粛生活に入る前は、このコードをつないで、ニュースもエンターテインメントも、買い物も友達と会うのも、全てインターネットでやっていたのに。
 たった2年前のことが、大昔のことのようだ。

 テレビのアナウンサーが、コメンテーターに話を振る。
『人類は30年以上昔、コロナウィルスという病気の流行をきっかけに外出を避けるようになりました。やがて、ほとんどの生命活動をインターネット上で行うようになり、町にはほとんど人が居なくなりました』
『はい、そうですね』
『しかし、今はインターネット上でコンピューターウィルスの感染爆発が起こっているわけですね。インターネット接続が大きなリスクとなり、人々は現実世界に引きこもっています』
 コメンテーターが「だからこそ、誰も見ていなかった我々のテレビ番組なんかが流行っているわけですけど」と自嘲気味に笑う。
 アナウンサーは咳払いを一つしてから、画面のこちら側に向き直った。
『とにかく、政府はインターネットへの接続を自粛するように強く求めています。キーワードはステイリアル…』

(了)

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