見出し画像

雑記「誰よりも遅い! 夏ピリカグランプリ振り返り」

 皆さま、ご無沙汰しております、あめしきです。
 ピリカさんが主催された小説賞「夏ピリカグランプリ」が閉幕して、はや2週間。アフターイベントも完全に終了したこのタイミングで、今さらながらに振り返りをしてみようと思います。イベントとしての総評のようなものは多くの方が書かれているので、あくまで私的観点としての振り返り。

 まずは応募してくださった皆さま、ありがとうございます! 受賞された皆さま、おめでとうございます! 審査員の皆さま、お疲れ様でした! 合計で138作もの作品が集まった、盛大なイベントになりました。


 今回、僕は僭越ながら審査員という立場で本イベントに関わらせていただいた。
 審査員ということは「かがみ(鏡、鑑)」という同じテーマで書かれた138作を読みまくったわけだ。これはなかなか無い経験。
 その中から僕が個人賞に選ばせて頂いた作品はとき子さんの「ルージュの伝言」だったわけだが、この作品の講評は上記のリンク先で読んで頂くとして、ここでは審査全体を通じて感じたこと、自分で気付いたことなどを記していきたい。
「ルージュの伝言」、面白いです! ぜひお読みください!)

 審査員など初めてやる。普段、他の方の作品やプロの小説などを読んで個人的に「感想」を抱くことは当然あるが、「優劣を決める」というのは初めての経験である。しかも、酒のつまみとしての「今まで読んで一番面白かったスポーツ漫画は?(スラムダンクです)」とか「一番好きなジブリ作品は?(耳をすませばです)」という優劣の付け方ではない。応募してくださった作者の方へのアンサーでもある。
 しかも作品数が多い。読むタイミングも数日に分けてバラバラなので、読む順番や自分の体調・気分、今日の阪神タイガースの勝敗、などに左右されないようにしないといけない。

 僕は審査基準を作ることにした。元々、審査員を仰せつかった際にアップした所信表明でも触れていたが、以下の4項目で評価させていただいた(人様の作品に点数をつけるような身分でもないのだが)。

  • テーマ: 「かがみ」というテーマをいかに捻って、いかに必然的に使ったか

  • 設定: あらすじを聞いただけで惹かれるような設定があるか

  • 展開: 1200字以内という短い作品の中で、物語がちゃんと展開しているか

  • 文章: 日本語として美しく、魅力的であったか(not 正しさ)

 それぞれを5点満点で評価し、その合計点でまず絞り込むことを考えた。
 一応、各項目の点数基準も作っていた。例えば「テーマ」であれば、下記のようなものだ。

  • 1点:「かがみ」は出てきているが、作品の面白さの中心に絡んでいない

  • 2点:「かがみ」が作品の中心にあるが、鏡じゃなくても成り立つ(例えば誰かの形見の重要アイテムとして出てくるが、それが櫛でも話が成り立つ)

  • 3点:「かがみ」が作品の中心に関わっているが、特性を活かしきれていない/もしくは「よくあるパターン」(鏡の中に異世界が広がっている、鏡の中の自分が別の人格を持つ、など)

  • 4点:「かがみ」が作品の中心に関わっており、このテーマならではの特性を活かして、物語に落とし込んでいる

  • 5点:まさかこんな「かがみ」の使い方があるなんて! と思わず唸ってしまうような作品

 読んで頂いた通り、かなり厳しい採点基準である。何せ138作品ある。最初からあまり高い点数つけたら、後からつける点数が無くなるし…というM-1審査員のような気持ちも味わった。これがサンドウィッチマンが言っていたやつか…!と思った。

 ただ、この項目に関しては本当に厳しい基準だったと思うし、僕が他の審査員よりも重視したポイントだった気がする。
 審査が終わったあと、審査員は自分が推す作品を他の審査員に伝えるのだけど、他の方が推した作品が僕の採点では点数が高くないこともあった。そんな時に一言感想を書いた備考欄に目をやると、「面白いが、鏡である必然性はあるか?」などと書かれているパターンが何度かあった。結局、この項目で5点をつけたのは1作品だけだ。

 初めて審査員というものをやって見て改めて思ったが、テーマを決めての小説賞だと、僕が3点の基準とした「よくあるパターン」は必要以上に点数が厳しくなるような気がする。何せ審査員は100本以上とかの作品を読むことになる。「さっきの作品と似たパターンだな」とか「このパターン、5作品目だな」とかなると、どうしても点数が辛くなってしまう。
(もちろん、それを超えて展開や文章などを含めて面白い作品はあるのだが、僕のように項目ごとに点数をつけると、「テーマ」という項目ではどうしても厳しい点数になりがち)

 もちろんこれは、僕の審査基準に照らして言えば、ということで絶対の基準ではないけれど。自分が書き手として重視している点なので、より厳しくなったかもしれない。

 もう一つ感じたのは「展開」の項目。ここも僕が拘ったポイントだったと思う。これは1200字という文字数制限がある中なので、より際立った。

 これもあくまでも僕の私見だが、「物語」には「それを最も活かすメディア」が存在すると思う。この「物語」は小説で表現するのが良いのか、音楽なのか、写真なのか、映画なのか、絵画なのか、短歌なのか。
 短く、ワンシーンを切り取ったような「物語」であれば、小説よりも絵画や写真に向く、と思っている。1200字というのは絶妙で、ワンシーンでも書き切れてしまう。
 しかし小説である以上、展開が欲しい。起承転結、序破急といった、物語の転換点を挟んで物語が動くダイナミズム。どれだけ鮮烈なシーンであったとしても、物語前半で感じる手触りが最後まで単調に続いては、「小説」というメディアで表現すべき物語ではないように思う。

「展開」についてはもう一つ、僕が重視しているのが、「物語のプロポーション」だ。これも特に文字制限がある場合に多いのかもしれないが、起承転結、序破急のそれぞれの分量・厚みが最適であるかどうかという問題だ。
 よく推理小説では、前半の3分の1までに真犯人が出てこないといけない、などと言われることがある。後半で急に出てきた人物が犯人と言われても、読者としては「は?」と思ってしまうという話である。
 これに似ているが、物語の転換点が前半にありすぎると後半が単調で間伸びしやすい。一方で後半に持ってきすぎると、後半の展開が窮屈になりがちだ。僕がショートショートを書く場合なんかにも、よく「オチの前にもう数行、溜めを作りたいのに文字数が足りないな」とか、「後半で描きたい内容の厚みに対して、前半が薄くてバランスが悪いな」とか思いながら、切ったり貼ったりしている。

 そんなことも考えながら審査していたので、一言感想の備考欄には「美しいが小説としての妙味は?」とか「いっそ詩にした方が物語が活きたか」などという感想も並んだ。

 改めてだが、ここまで書いたことはあくまでも僕の基準であって、絶対的なものではない。それは逆にいうと、他の方を読み、評価するという過程の中で、自分でも気付いていなかった「自分が重視しているもの」「自分の描きたいもの」がより明確になった、という面白い経験だった。
 審査員としてそれはどうなの、という意見もあるかもしれないが、だからこそ複数の審査員がいて評価しているのだと思っている。絶対的な基準があれば、審査員は1人で良い。

 そのような審査の過程を経て得た感覚を言語化しておこうというのが、この文章である。長々と書いてきたが、書き手、読み手の皆さま以上に審査員として、このイベントをめちゃくちゃ楽しませてもらったし、経験として得たものも大きかった、ということである。
 改めて主催の皆さま、運営の皆さまありがとうございました!

 さて、審査は面白かったけれども、書き手としての創作もボチボチやっていきますよ。まずはあの人と何かがまた…? 乞うご期待!?
 そして、モチベーションに繋がるので、いろんな賞とかイベントにも参加していきたいなぁ。

あ、ついでに前回の冬ピリカグランプリで大賞を頂いた僕の作品も貼っておきます。よろしければ是非。

(了)

この記事が参加している募集

夏の思い出

もし気に入って頂ければサポート(投げ銭)もお願いします。 モチベーションが上がって、更新頻度も上がります。