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Ep16.この曲歌うと泣きそうになる 少年から教わった事 富山編

2001.3.26

 出勤するフクダ君と一緒に家を出て、大阪から岐阜経由で高山線で北に向かった。高山線に入ると所々山の頂に雪が見えた。この旅で雪を見たのは初めてだった。


 飛騨高山で1時間程待ち時間があったので昼食をとるため下車した。ちょうど1年前付き合ってた彼女とこの場所を旅行したことがある。さすがにもう吹っ切れてはいたが街を歩くとその時のことを少し思い出した。


 猪谷で2両編成のワンマンカーに乗り換え山間の渓流沿いをひた走る。美しい景色だ。雪景色の中だんだんと日が暮れていき、俺1人し乗客のいないワンマンカーは淡い闇の中を静かに走り続けた。


 夜7時半ようやく富山に到着。駅の外に出てみるとさすがに大阪までとは違う種類の空気の冷たさ感じた。駅前に綺麗に舗装されたエスカレーター付きの地下道がある。ここなら風もしのげて演奏しやす位だろう。


 地下道の中程で俺も演奏を開始した。早速ほろ酔いのサラリーマンが「長渕剛を演奏してくれ」と言ってきたので「とんぼ」を歌う。4人が小銭を入れてくれ1500円くらいになった。他にもジャスが好きという男の子や、カラオケ屋で働いていると言う女の子など何人かが聞いてくれ、立て続けにCDが2枚売れた。

 しばらく一人で歌っていたら自身も演奏しにきた男の子が聞いてくれた。気に入ってくれたみたいなのでCDを勧めると「あまり持ち合わせがないんです」との事で700円に負けてあげた。彼は自分の演奏をするので向こうの方へ移動した。


 しばらく演奏していると大阪から来たというイソノ君が聞いてくれる。「良い声してますねー」といたく気に入ってくれた様子。地下道とはいえ寒い中1時間近くも聞いてくれた。その間ずーっと瞳を閉じて真剣に聞き入ってくれてたのが嬉しかった。彼もCDを買ってくれた。この日3枚目。(割り引いたのも入れると4枚目)


 夜も更けると人通りがなくなり急激に冷え込んできた。休憩がてら先程CDを買ってくれた男の子の演奏を聴きに行ってみた。彼の名前はカクイ君。まだギターを始めて1年らしい。別れた彼女を思って作ったと言う歌を聞かせてくれた。

 確かにギターも歌もまだ拙いものの、とても素直な歌声で地下道の残響と北陸の冷たい空気が相まってスッと心に入ってきた。彼は今にも泣きそうな顔でせつせつと歌っていた。


 歌い終わると彼は「僕、この曲歌ってるとまだ泣きそうになっちゃうんです」と話した。それを聞いて思わず「ハッ」とした。

(あれ?俺、この子より遥かに長くギターも歌もやってるけど、自分の曲歌いながら泣きそうになる瞬間なんてあったっけ??そこまで俺歌に入り込んでたっけ?)

 次にカクイ君は斉藤和義の「歌うたいのバラッド」を歌い出した。その歌の内容にハンマーで思い切り頭を殴られた気がした。


****
あぁ 歌うことは難しい事じゃない

ただ声に身を任せ 頭の中をからっぽにするだけ

あぁ 目を閉じれば胸の中に写る

懐かしい想い出やあなたとの毎日

~中略~

こんなに素敵な言葉がある

短いけど聞いておくれ

愛してる
****

 ああ、俺は歌うときに頭を空っぽになんて出来てやいなかった。「今ちょっと音を外した」とか「運指がスムーズじゃなかった」とか、どれだけ余計なことを考えていただろう?「立ち止まって貰って聞いて貰わなきゃ」「CDを買って貰わなきゃ」と邪念に囚われ、全然歌の中に没頭してなかったんじゃないか?歌っていうのはもっと頭を空っぽにして心の底から曲の世界に入り込んで表現するものだったんじゃないか?

 ギターを始めて1年のカクイ君から俺はすごく大切な事を教わった。彼の歌が「何か見つけよう」と思って旅に出た俺に対してある種の答えを示してくれたと思う。
 
 それから自分の持ち場に戻り歌っていると、小学校の先生だという4人組が止まって聴いてくれた。シタカ先生と同僚のお二人がCDも買ってくれた。シタカ先生はとても優しい瞳をされた方ですごく印象に残っている。旅の後も「CDとても良かったです」とメールを下さり、かつて壮絶な校内暴力の中子供達を真剣勝負で指導してきた話などを教えてくださった。


 先生達に俺が「旅に出なければ」と思った動機をを聞いて貰った。(詳しくはEp.1〜2を参照)
若くて才能のある子達が早逝して、俺はやりたい事を諦めてダラダラ生きてていいのか?幸い音楽を出来る環境にあるのだから、出来ることを最大限頑張ろうと思って旅に出たと話したら、若い先生が「カッコイイですね」と言ってくれた。


 そう。「遠い空へ」って曲にはそういう想いが詰まっている。あまり露骨に誰が死んだという事を歌詞にすると重いと思って遠回しな表現にしてるけど。色んな街で歌ってきたよ。

遠い空へ(2002年 デビューCDより)
http://a-universe.jp/wp-content/uploads/2017/11/ToiSorahe.mp3

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遠い 遠い 旅の空から
いつかふたたび逢えるかも知れない 

今日も歩く次の街まで 
昨日は振り返らずに 
まだゴールは見えない
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 でも「逢えるかも知れない」って歌ってるけど今世で彼らには会えないんだよ。ただ、一生懸命生きていけば来世では彼等に胸を張って会えるんじゃないかなって。そういう歌なんだ、あれ。


 さて、4人が帰った後相当冷え込んできて演奏を切り上げた。大阪に長居してしまったので富山は一晩だけの滞在、あしたは新潟だ。駅舎が夜間もオープンだったのでKIOSKの前に寝袋を敷いて眠りについた。

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