新宿

新宿。名前だけは何度も耳にしてきたが、ここに立つのは初めてだった。


電車を降り、ホームに足を踏み入れた瞬間、圧倒的な人波に飲み込まれそうになる。奈良の静かな田舎に住んでいる私にとって、この人々の流れはまるで未知の川のようだ。押し寄せる波の中で、自分がどこへ流されるのかも分からない。だが、足を止めることは許されない。次々と後ろから押し寄せてくる人々に促され、否応なく前へ進むしかない。


出口へ向かう通路は、まるで迷路だ。標識はあるが、見慣れない文字の羅列に頭がくらくらする。方向感覚を失いかけながらも、とにかく前へと進む。こんなにも広い空間の中で、なぜこれほどまでに狭く感じるのだろうか。視界に入るのは無機質なコンクリートと、流れゆく無数の人々の背中。空は遠く、見上げてもその片鱗さえも見えない。


やっとの思いで地上に出た瞬間、目の前に広がるのは、まるで森のようにそびえ立つビル群。どこを見ても高層ビルが立ち並び、その圧倒的な存在感に息を呑む。奈良の広い空や、のどかな風景とは全く違う、鋭さと冷たさを感じる光景だ。


この街は、私のような田舎者を容易に受け入れてくれそうにはない。むしろ、無情に跳ね返してくるような気がする。だが、この場に立っている限り、逃げ出すことは許されない。自分がここで何を成し遂げるべきなのか、その答えはまだ見つからないが、ただ一つ確かなのは、この街に飲み込まれるわけにはいかないということ。


新宿の街は大きく、冷たく、そしてどこかで温かいものが隠れているのかもしれない。その全てを知るには、今まで以上に自分自身と向き合う必要があるのだろう。そして、この街での新たな一歩を踏み出そうとしている自分を、そっと励ますように心の中で呟いた。


「こんな街に負けてたまるか」と。

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