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time machine

あの時に戻れるものなら、なんだってする。高校生の自分に戻って、まだ何にもしらないあの人に走っていって、変なやつと顔をしかめられても、泣きわめいてでも、必死に引き留める。いってはだめだと。

そう念じてベッドに潜る。次に目を覚ますと、首筋がじっとり汗ばんでいて、力が入っていたのか目には少し疲れが残っている。

私は確かに教室らしきところにいて、制服を着ていた。今思うと視界は魚眼のように歪み狭く、彩度も悪い。なのに私は、周りの友達やのっぺらぼうとおしゃべりしたり、昔大喧嘩した人と仲直りしたりするだけ。この足はあの人へ向こうともしなかった。

何度か同じような夢に辿り着く。でもいつもあの人を救えないし、覚えてすらいないのだ。夢こそ酷く正直で、体温を帯びるシーツの上で、打ちひしがれる。

できれば気づかないフリをしたかった。次第に夢の中のように、あの人を救いたいと本気で考えたり、心を痛めたりしなくなって、それに合わせて自分のすぐ傍らで時が流れ落ちているものだから、身を委ねてそのせいにして。

今日も波に押されるように、次々と支度を済ませ、駅のホームでいつもの電車を待っている。これから辿っていく線路の先が、熱気で揺れる空気の向こうに曲がって消えている。何かを押さえ込むように、自分の身体を少し抱き抱えた。


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