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AIと著作権(4)

著作権法に関する文章です。3月は毎週水曜日に書きます。

AI学習の段階での著作権侵害

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第30条の4 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
 2 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。【略】)の用に供する場合

前回、作風について以下のように書きました。
「特定の作者・集団の作品だけを学習させる行為は、学習の段階ですでに出力物が当該著作権者の作風になることが予定されるわけであり、これは著作権者の潜在的販路を阻害する、という考えは成り立ちそうです。」

前提として、今回は、出力物が入力物と区別されて、作風のみが一致する、というケースを取り上げて検討しています。
たとえば、有名な画家の絵を学習させて、AIがその画風を学習し、当該画家が描いたような作品(しかし実際にその画家は描いておらず、またその画家の作品と区別できる)を出力させる行為です。

この立場からの帰結の一つは、AIが生成した物を利用(公開・頒布など)する段階でなくその前のAIに入力しAIに抽出させる段階で、30条の4柱書但書の著作権侵害が起きるということです。
AIが生成・出力した段階では、アウトプットされた物には著作権者の「表現または思想」ではなく「作風」しかあらわれておらす、そのため、著作権法による保護を受けることがありません。
これに対して、AIに入力・抽出する段階では、インプットに使われた物は著作物そのものですから、そのインプット対象物の著作権者の権利を侵害することが問題となる、となります。

また、この立場からの帰結として、作者の著作権が譲渡などの理由で他者に移転した場合には、その後にこの作者が自分の作品をAIに学習させる行為は、譲受人の著作権を侵害することとなります。
物の場合には、譲渡物と違う作品を新たに制作して公表等するときは、たとえ作風が同じであったとしても、これらは別作品ですので、著作権侵害は起こりません。
しかしAIの場合には、譲受人の著作物と作風が同じものを学習させることは、著作権者(譲受人)の潜在的販路を阻害することとなります。

もちろん、この立場に対しては、疑似作品の制作が制限されてしまうという批判も考えられます。
オマージュやパロディなどといったものは、人間が直接制作すれば著作権法の問題は生じないものの、AIに学習させる時点で著作権侵害となるのは、技術の利用を阻害することにならないか、という批判です。

これらの点につき、文化庁「AIと著作権に関する考え方について(素案)」では、

近時は、特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみを学習データとして追加的な学習を行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。

としています。そのうえで、

また、生成・利用段階においては、当該生成物が、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該作品群のいわゆる「作風」と共通しているにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該生成物に、当該作品群の創作的表現が直接感得できる場合、当該生成物の生成及び利用は著作権侵害に当たり得ると考えられる。

としています。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_07/pdf/94011401_02.pdf

(続きます)

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