AIと著作権(3)
著作権法に関する文章です。3月は毎週水曜日に書きます。
AI学習の段階での著作権侵害
2)著作権者の利益を不当に害することとなる場合とは
30条の4の柱書(1号2号…を列挙する前段の文)では、情報解析などの場合については著作物の使用をすることができる、つまりAI学習のための著作物複製などができる、とされています。
ここで、柱書には「ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」としており、著作権者の利益を不当に害する場合には情報解析は著作権法違反になる、としています。
では、不当に害する場合とは、具体的にどのような場合をいうのでしょうか。
30条の4全体の趣旨について、文化庁は次のように説明しています。
著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説)(762KB)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/pdf/r1406693_11.pdf
つまり、そもそも複製行為がなぜ権利侵害になるかと言えば、端的に言えば著作権者が本来売れたはずのものが複製物の入手によって売れなくなり、売り上げが落ちるからだ、(対価回収機会の損失)とされています。
しかしAIによる学習は、学習させる行為によって著作権者の売上が落ちるものではなく、著作権者を保護する必要がない、というものです。
そのうえで、30条の4の今回の但書きについては、次のように説明しています。
但書きの前の本文部分が「柔軟性の高い規定」であることや、技術の進展で今後「新たな利用態様が現れる可能性」があること、また「条約等の要請」に応えることが挙げられています。
これを素直に読むと、今回の但し書きが「一応書いておいた」程度の意味しか持たないようにも思え、具体的な適用場面を想定していないように見えます。
前回書いたように、現行法30条の4は、旧法47条の7よりも広い範囲を対象としています。
そのため、現行法では、著作権制限の範囲が広がり過ぎないように歯止めをかけた、ということができ、抽象的な予防規定のようにも思えます。
しかし、今回の但書きはそれ以上の適用範囲を持つ、という考え方もあります。
例えば、ある作者の全作品を学習して、その作者の作風となっている新しい作品を作れるようにするような学習が挙げられます。
この場合には、30条の4の趣旨にいう「対価回収機会」の損失が起きるものであり、AIが著作権者に損害を与える可能性がある、とされます。
先の文化庁の説明は、以下のように続いています。
ここでは、「利用市場と衝突」「潜在的販路を阻害」という点を挙げており、「対価回収機会」の考え方が強くあらわれています。
特定の作者・集団の作品だけを学習させる行為は、学習の段階ですでに出力物が当該著作権者の作風になることが予定されるわけであり、これは著作権者の潜在的販路を阻害する、という考えは成り立ちそうです。
そこからさらに、例えば、ドラゴン冒険物語の作者Dと、トロール冒険物語の作者Tの両名の作品をAIに学習させて、「作者Tがドラゴン冒険物語を描いたような作品」を出力させるようにした場合にも、作者Dと作者Tの両名の潜在的販路を阻害する、といえるかもしれません。
このあたりは、パロディと著作権の問題にも類似する点がでてきます。
(続きます)
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