予告編に『アオラレ』ないよう、ご注意ください。
ごきげんよう。雨宮はなです。
5月28日(金)に上映開始したスリラー映画『アオラレ』を鑑賞してきました。映画館で予告編を観てから約2カ月、映画館での上映が2週間の延期にはなったものの中止にならなかったのが本当に嬉しかったです。
結論から言うと、「期待値を高く設定しすぎて失敗した」というのが感想です。予告編にアオラレちゃいました。
主人公に全く共感も同情もできず、なんなら主人公のせいで今回の一連の事件が起きていて無関係な人間まで巻き込んでいるので、理不尽に恐怖に見舞われたことに対する不安などが全く感じられませんでした。ですから、全く怖くありません!
更に、先に伝えてしまいますが、煽り運転はテーマじゃありません!
※この先はネタバレを含みますので、ご了承いただける場合のみ読み進めてください。
※主人公をボロクソに言っています。
結論:ぜんぶ主人公のせい
主人公はレイチェル。理由は不明ですが、離婚し一人息子を抱える美容師の女性です。行き当たりばったりだし浅慮で短気、おまけに面倒くさがりと性格にかなり難があります。
今作は彼女のこの性格が引き起こしたと言うべき、周囲の人間からすれば非常に迷惑極まりない出来事を追った作品です。作品中に説明されていませんが、離婚の条件が彼女の思い通りにならなさそうなのも美容室を失ったのも、彼女が原因なんだろうなと思わされます。
「離婚が堪えているとか、母親の介護が大変だとか、弟とその彼女が面倒だとか…きっとそんな理由があるんだよ」「シングルマザーで頑張ってるんだから、じゅうぶん偉いよ」というフォローが聞こえてきそうですが、それを選んだのは彼女なわけです。その選択が自分と息子にどのような影響を及ぼすかを考えられないのです。
そもそも、彼女の登場シーンは「寝坊」というシチュエーションです。散らかったソファ周り、「今日も寝坊」という台詞、仕事道具であり凶器でもある鋏をリビングに放置し紛失するなど、だらしなさここに極まれり!といった具合です。
自分の寝坊と仕度に手間取ったせいで出発が遅れ、浅慮による決断で抜け道の無い状態で渋滞に巻き込まれ息子を遅刻させ、その道すがら客にクビを宣告される。確かにドン詰まりではありますが、全て自分のせいなのです。同情の余地なし。
極め付きがマナーの悪さです。感情に任せて喧嘩腰にクラクションを鳴らし、正当な指摘を受けているにも関わらず無視とだんまりを決め込み、返答は「謝ることなんてしていない!」ときました。先に煽ったのは彼女なのです。
もちろん、この間も息子は同じ車内にいます。とてもじゃありませんが、親として子供に見せる態度ではありません。感情的に物事を進めるわ、マナーは悪いわ…子供の安全と精神衛生と将来への影響を考えられない彼女が育児をするのは非常によろしくないと言えるでしょう。
こんな調子で考えることやることなすこと、全てダメ。そのせいで何人が死んでしまったか。関係者だけでなく、無関係の一般人まで何人も死んでいます。死ななずに済んだとしても、車が壊れたりケガを負った人は複数いるでしょうし、学校も緊急事態に備えた措置をとっていました。家族や友人に死んでほしくないからといって元顧客を「次に殺す人間」に指名しますし、はっきりいって彼女はクズ中のクズです。
「Man」は現代における危険要素の集合体
役名がなくエンディングテロップには「Man」と紹介される、殺人犯の男。このキャラクターはラッセル・クロウでしか想像ができないし、彼が演じてくれなければ作品が成立しないと思えるほどのキャラクターでした。
妻が原因で離婚することになり、それにより妻(≒家庭)だけでなく金銭も仕事も無くし、弁護士も味方をしてくれなかったという踏んだり蹴ったりによりできあがったのが「Man」です。まるで「ジョーカー」のような背景です。そんな追い込まれていて、しかも、もう何も失うものが無い状態で薬物の過剰摂取により非常に攻撃的になってしまっている…そんな最悪のカードが揃い踏みした男が「Man」です。
ただ、主人公とのファーストコンタクトで分かる通り、もともとは非常に常識的で温和な物言いができ、また、頭の回転も速い人です。警戒心の足りない主人公がカギをかけずに離れた車から彼女のスマホを盗み、自分のガラケーを隠して残すなど頭を使って主人公を追い詰めます。
これらの残虐性や頭の良さから「サイコパス」と言いだす人もいるでしょうが、彼はサイコパスではありません。攻撃的な精神疾患者である可能性は高いです。
個人的には、スマホを盗まれて以降の展開は怖かったです。自分だけでなく親族から顧客までの個人情報が筒抜けになり、銀行口座を操作される可能性は身近に感じられ恐怖を覚えました。『スマホを落としただけなのに』という映画がありますが、今の時代はスマホを落とすのは本当にリスキーで致命傷です。とはいえ、今作では主人公がちゃんとロックをかけていれば避けられた展開だと思いますが。
ちなみに彼の耐久力が高いのは、鎮静作用のある薬を過剰摂取しているから。プロレスラー並みに強い理由はわかりませんが、最初から暴力的なわけではないことを示す情報は所々に出てきます。
ギロリという音が聞こえてきそうなガン飛ばしを脂肪とむくみの下から送ってきたり、うっかり何も疑わずに友人だと信じてしまうほど親しみやすかったり、通話時の声だけで主人公の不安をかきたてる怖さをラッセル・クロウ以外の俳優ができたかと考えても他に想像がつかないのです。
とある生存者について思うこと
今回の一連の事件のなかで、主人公の弟が「Man」に襲われ火あぶりにされます。ラストシーンで死なずに済んだことが判明しますが、彼はむしろ助からない方が良かったのではと思ってしまうのです。
■火傷により外見が劣化する可能性
■火傷だけでなく精神的後遺症により生活がしにくくなる可能性
■精神的後遺症により姉を恨むことに疲れてしまったり、恋人の死がフラッシュバックしてパートナーをつくれなくなる可能性
「命だけは」「生きてるだけでも」と言いますが、生きていて幸せなのは本人よりも本人を所有物的に失いたくない周囲の人間なのでは、と思うのです。
弟だけでなく息子も人が死ぬ瞬間の音を聞いたり、実際に襲われたり首を絞められたりととんでもない目にあっています。精神科への通院や長期的なフォローが必須なのは当然のことでしょう。
ミニマムに楽しんでちょうどいい
運転シーンは動きが派手で迫力がありますが、他の部分でいえば「広いスクリーンで爆音で楽しむ」ような作品ではないように思えました。正直に言うと、土日に1900円で観る作品ではないかな、と。
私は1日(サービスデー)を利用して1200円でしたが、それでも十分だろうと思いました。近いうちに映画館で観るのであれば水曜日の割引や、会員価格を上手に使って観ることをお薦めします。
また、スクリーンはあまり広くなくて十分というか、小さ目のほうがしっくりくる気がしました。小さ目のスクリーンでもじゅうぶん大きいですし、そのくらいの規模のほうが雰囲気が出て良さそうです。私が観たときは横17席・縦15と広めのスクリーンだったのですが、ちょっと寒々しい感じがしました。
いちばんぴったりなのはレイトショーだと思います。何かに疲れて鬱憤を晴らしたいときに観るのにちょうどいいくらい。それも、誰かと行くのではなく一人で観るのがおすすめです。レイトショーならスクリーンが大きくても良いかも。
もっと言ってしまえば、午後のロードショーや深夜ロードショーでやっているなら観てもいいかもってレベルです。
私的テーマ「引き寄せの法則」
冒頭で「煽り運転は今作のテーマではない」と記述しました。では、私が今作にみたテーマは何か。それは「引き寄せの法則」でした。
スピリチュアルに拒否反応が強くでる人もいるかもしれませんが、引き寄せの法則は嬉しいものだけに適応されるのではないことを知ってもらえると納得できると思います。
引き寄せの法則は…人が意識的にであれ無意識にであれ考えていることはエネルギーの波動となって広がり、それが結果となって引き寄せられるというものです。そしてこれは求めている・いないの区別がつかないので、求めていないことを引き寄せてしまうことは往々にしてよくあることです。
今作において、主人公を”自分を不幸にする要素”、「Man」を”発生しうる危険可能性”に置き換えてみると「今作は引き寄せの法則の話である」という意見も少しは同意してもらえるのではないでしょうか。
主人公の外見と名前が付いたネガティヴなフラグの集合体の働きかけによって、「Man」という危険可能性が引き寄せられる。危険可能性で満たされた主人公からはそれが漏れ出し、周囲に伝わる。「人を幸せにしたければ、まずは自分が幸せになること」の反対が常に起こっているのです。
この観点で鑑賞したら面白く観られたかもしれませんが、何かの専門家でもないのに一周目でそれに気づくのは無茶な話です。
おわりに
原題の『UNHINGED(アンヘンジド:不安定な)』だったら受ける印象も違ったと思います。確かに”不安定な”要素があちこちにありました。「Man」の不安定な要素、主人公の不安定な要素。他のキャラクターたちにも不安定さを演出している何かがあったはずですが『アオラレ』という文句に意識がいてしまい、見逃してしまっていると思われます。
何度もお伝えしますが、煽り運転はテーマじゃないです。これから観る人はご注意を。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた次の記事で。ごきげんよう。
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