第七十三夜 『夢は逃げない。逃げるのはいつも自分だ』
報告を待つ。物音ひとつひとつが私の耳にはノイズに聞こえる。落ち着こう。
その日は彼が大阪に大型の契約に向かっている。
申し込みから契約日までの期間が2日と、関連業社様にも動いてもらった案件であり、1回で6件分の契約ということもあり、緊張と期待がぐちゃぐちゃに混ざったような感情が私の頭を支配する。
「新幹線の空き席がなく、グリーン車を使います。」
この報告を受けた際もそんなことはどうでも良いので万全の体制で臨んでくれと思っていた。
今回の案件は元々3件で申し込みをいただいていた。しかし、お客様は年内でより多くを決済したいという要望があり、急遽、追加で3件の計6件の契約書を準備したのである。しかも、わずか2日間でだ。こればかりは売主業社様の協力に感謝しても感謝しきれない。
こういった支えが今日の株式会社アメリの一つの強みでもあるだろう。
11月に3件、12月に3件の決済をすることで、大きな節税効果を得ようというのがお客様の希望だ。
6件分の契約書と重要事項説明書は、物理的にも精神的にも重いものであっただろう。
「私は特段のプレッシャーは感じていません。いつも通りやれることをやるだけです。」
彼ならそう答えるだろう。
実際に前日の電話口での彼はそういう口調であった。
そんなことを考えている私に報告の連絡が来た。
「本日の契約数は0件になります。」
報告を受け、私はもう少し落胆するかと思ったが、そうはならなかった。
なぜなら株式会社アメリとして与えられるサービスは提供したという確信が持てていたからである。
結果が出てしまえば素直にそう思た。
また新しい案件を作ろう。それに詳細をまだ聞いていないから、今回のお客様にまたできることがあるかもしれない。
「お疲れ様です。詳細は明日の進捗会議で報告お願いします。本日は美味しいものでも食べてきてください。」
「ありがとうございます。」
しばらくしてビールとホッピーの写真が送られてきた。
一般的な会社であれば「必死さが足りない」と非難するであろうか。
それも重要なこともあるかもしれない。
しかし、そんな叱責にどんな意味があるのであろうか。私ができることは翌日冷静になった彼からの報告を受け、今後の打開策、代替策を講じるだけである。
「上手くいっても驕らずに、失敗しても腐らずに、目標に向かって一歩一歩進める人は天才です。」
彼は以前からこんな言葉をよく口にしていた。
今夜の件が失敗だったのか。それは我々自身が決めることである。結果、この失敗をどうレバレッジを効かせて経営に反映するか。
それをどれだけ早く考えられるかが我々の経営に必要な能力であろう。
物語の続きはまた次の夜に…良い夢を。
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