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第百八十四夜 『日本で一番悪い奴ら』

「N市の焼損遺体の事件の実行犯として2名が捕まりましたね。」

彼は先日からこの事件を熱心に追っていた。
野次馬根性というわけではないのだろう。

私自身は恥ずかしながらこういった事件には疎く、不動産管理会社の経営者が逮捕されたことで初めて知ったくらいである。

「現在の報道によると実行犯は20代だそうですね。」

アイスコーヒーを飲みながら彼はオフィスの外を眺める。外はあいにくの雨模様だ。
空の様相とは対比的に彼の引っ掛かっているコトは明白だ。

彼はその昔、一度事業を畳んだことがある。
そして今、私と再び事業を立ち上げた。

そんな彼はよく20代の若者(出会った頃は私も20代であった)に対して、こんなもの言いをする。

「これからの時代を生きる皆さんは幸運です。今の日本であればなんでもチャレンジができる。だからこそ、営業職という仕事を次の世代の皆さんにもかっこいい仕事だと知ってほしいんです。」

そんな彼だからこそ、20代の若者がその可能性を反社会的な行動で潰してしまうことに疑問を持つのだろう。

「今の10代20代は楽に稼げる方法を探しているように思えます。例えば、YouTuberがなりたい職業ランキングの1位になったこともその考え方の一部なのかなと。実際にはそれで稼いで食べていくことがどんなに努力をしているかを理解できないように。」

「キレイな面ばかりに焦点が合っているのですね。」
彼の返事はどこか上の空である。

「実力をつければ、長い目で見た時にお金を稼げたとしても、目先の成果を求めてしまうんでしょうね。」

「未来の自分への投資よりも、目先の利益を優先してしまうのですね。」

彼の中でそんな回答はもうすでに堂々巡りしていたのだろう。何度も擦ったような言い方で呟く。

「こんないい時代なんですけどね。早く、営業職をかっこいい仕事だと知ってもらう必要がありますね。」

私は彼の言葉を借りてそう言うと、彼は何かを思い出したかのようにこちらを見る。

「そうでした。そのために今投資をしているところでした。」

物語の続きはまた次の夜に…良い夢を。

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