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掌編小説

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2017年7月の記事一覧

花火

花火

傘を持つ小指まで響く雨粒は、弾けながら転がり、地を潤していた。

透明なビニール傘の裏側から、その様子を眺めつつ、家路につく。

すれ違うランドセルを背負った女の子。

彼女がピンク色の長靴で、アスファルトに浮かぶ湖を渡る姿を目にし気づいた。

この雨音は、花火の音に似ていること。

火と水と真逆なものが似ているなんて、おかしな話だ。

目を閉じると、雨音が鼓膜を震わし、子供の頃、父とふたりで

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穴の底から

穴の底から

降り止まぬ雨だれが心音に絡みつき、息が苦しい。

声をあげても助けなどこないだろうと、とうに諦め、ほの暗い穴の底で息を潜め、膝を抱えていた。

ようやく降り止んだ雨に気づかぬふりをして、どれくらいたっただろう。

どこか遠くで聞こえる笑い声は、瞼の裏側に張り付いて離れない。

壁からひたひたと染み込んでくる冷たさが、足の親指から巻きついてきて、私の肩を震えさせる。

徐々にこの冷たさにも慣れて

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