見出し画像

花火

傘を持つ小指まで響く雨粒は、弾けながら転がり、地を潤していた。

透明なビニール傘の裏側から、その様子を眺めつつ、家路につく。

すれ違うランドセルを背負った女の子。

彼女がピンク色の長靴で、アスファルトに浮かぶ湖を渡る姿を目にし気づいた。

この雨音は、花火の音に似ていること。

火と水と真逆なものが似ているなんて、おかしな話だ。

目を閉じると、雨音が鼓膜を震わし、子供の頃、父とふたりで見た打ち上げ花火が浮かんだ。

近所の河川敷で打ち上げられる花火を見に行こうと、父に誘われた。

当時、母と弟もいたのに、なぜ父とふたりだけで見ていたのか、理由は思い出せない。

河川敷までは歩いて十分ほどだが、寡黙な父は何も話さず、ただ私の手をひいていた。

会場に着いたと同時に、花火が打ち上がった。

歓声をあげる観客の笑顔が、花火のまばゆさに浮かびあがる。

そっと、父の顔を覗き見ると、どこか寂しげな表情が、散り行く火花に照らされていた。

今にも消えそうで不安になり、父の手を強く握る。

それに気づいた父は私を見て、大丈夫だよ、とでも言うように、ようやく笑ってくれた。

笑顔の観客たちに降り注ぐ雨だれに似た火花は、どこか異質な私達にも同様に降り注いだ。

#掌編








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?