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掌編小説

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2017年5月の記事一覧

クジラの背中

クジラの背中

しっとりとしたアスファルトの上を駆けていくたびに、僕の雨色の長靴は、飴玉みたいな滴を、ぽろぽろとばら撒いた。

それは、互いにぶつかり、ぱちんと弾け、雨の香りを放つ。

海色の傘の上でころころ転がった雨粒は、空色の雨合羽を滑り台にして、足元の水たまりに飛び込んだ。

水面の弦を弾き、波紋が幾重にも重なっていく。

潮騒だろうか。あれは。

じゃぶじゃぶと水たまりの波を掻き分け進むと、噴き上げる水の

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ティッシュ配り

ティッシュ配り

どうぞ。お受け取りください。これで涙を拭いてください。

アスファルトに張り付く影は短いので、ともすれば消失しているでしょう。

突き刺す陽の光はあまりにも正しく、見上げることは憚られ、俯くばかりでしょう。

こぼれる涙は、一瞬のきらめきさえも許されず、鋭く頬を切った後、湯気となって天へ昇っていきます。

せめて、あの傲慢な陽の光を遮る雲の一部となりますように。

ふいっと風が吹いて、一枚がひ

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