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book log - 「僕たちに似合う世界」伊東歌詞太郎 著

どうも、もう絶対に月に10冊なんて読めるわけがない雨飴えもです。
わたしには無謀でした。ごめんなさい。
謹んでお詫び申し上げます。(いらんか)

とはいえ実は今回上げる作品以外にも、ツイッターで散々面白い! と書いた長沢樹さんの「武蔵野アンダーワールド・セブン -多重迷宮-」も読んだので、「〜 -意地悪な幽霊-」を読み終えたら書こうと思います。

さて、今回は、人気歌い手(と言えばいいのかな? 作詞作曲してるイメージが強いけど……)の伊東歌詞太郎さんの「僕たちに似合う世界」を読んだので、その感想です。



伊東歌詞太郎さん

「動画総再生回数は8000万回以上、ネット時代の希代の歌い手として登場したシンガーソングライター・伊東歌詞太郎」(オフィシャルホームページより)

いわゆるニコ動の歌ってみたで活躍していた方で、調べたら、わたしと当時のバンドのギターがせっせと歌ってみたと弾いてみたをあげて頑張っていた時期と被っていたので、切なくなりました(笑)
なお、わたしとギターのニコ動は、解散とともに塵となりました(笑)

そういう意味では、もともとある程度人間性を知っている方の本を読むのは、劇団ひとりさんの「陰日向に咲く」以来かもしれません。

今回の作品は、エッセイで、伊東さんの半生を振り返った作品になっています。
その中から今回は、自分が共感したり、逆にそうは思わないと思った点を紹介します。
純粋な本の紹介ではなく、あくまで個人的な感想文なので、気になる方はエッセイを読んでみてね! 読みやすく書かれているので、わたしのように読むのが遅い人でも1日あったら読めると思います。

ちなみに、一般的に歌詞太郎さんとか歌詞さんって呼ばれることが多いし、普段はわたしもそう呼んでいるんだけど、なんだか書いてて違和感あったので、今回は伊東さんと呼ぶことにしました。なんだろう、noteに書いてるからかな。


いじめと受験

エッセイ内で、伊東さんが小学校6年間いじめにあっていたこと、そして中学受験をして私立の中学に入学し、世界が変わったという話を書かれていたのだけど、そのエピソードが自分が体験した中学受験と大きく違っていたことに驚きました。

もちろんもともと彼はとても頭のいい方で、模試に名前が載ったり、入学した中学もレベルが全然違って、彼の中学を落ちた子が行くところがうちの学校というくらい、住んでる世界は違うのですが。
わたしの場合は、小1から父親に強制的に勉強させられていて、小5で私立に転校してからは、まさに「数字」に左右される小学生時代でした。
学校ではよかったのですが、問題は塾。いわゆる偏差値と能力別のクラス分けが父娘のすべてで、朝6時に起き、深夜、受験直前は1時まで勉強していたせいで、よく塾で居眠りをして先生に怒られたりもしていました。

わたしがそんな地獄として捉えていた中学受験を、伊東さんはいじめから解放されるための手段と捉えていました。
もちろん皆が皆、わたしのような中学受験時代を過ごしたわけではないと思っていたけれど、そういうエピソードを読んでハッとしてしまいました。
と、同時にわたしはそこにこそ成績の差があるのではないかなぁと思ったわけです。(もともとの能力差ももちろんあると思うけど)

やはり好きなことや、ポジティブな目標に向けての努力というのは、強制されて嫌な気持ちでする努力とは全然質が違うものになります。仮にそれが嫌なことからの逃げ道だとしても、それが今よりもいい世界へ向かうためのものなら、モチベーションも変わり、その分いい結果をもたらすのではないでしょうか。

その考えに至って思い出したのが、そういえばわたしも中三の頃、数ヶ月だけいじめられていたことがあり、その時に勉強をして成績を爆上げしたことがあったなということです。
わたしのいじめは、伊東さんのものとは比べ物にならないほど短く軽いもので、さらにいうとわたしだけでなくグループの子全員が順にいじめられていたので、それが自分に与えた影響も大きな差があると思います。
ただ、そのいじめられていた期間、そのグループの子たちと登下校をするのをやめて、休まず学校に行き、朝7時に登校して毎日勉強をするようにしました。そしたら一番下のクラスだったはずの英語が一番上のクラスになってしまい、結果ついていけなくて無理だと言いに職員室に行くというちょっとしたエピソードがあります。(ちなみにいじめ解決後の定期テストで無事3番目のクラスに落ちました)

その時のわたしの勉強への想いは、父親に強制されるものではなく、嫌な思いから一時でも逃れるための手段、そして成績がよくなることで彼女たちの中から抜け出し、状況を好転させることができる可能性を持つ希望でした。
実際には、中学最後の合唱祭でわたしの活躍によりクラスが優勝したという、勉強とまるで関係ないことを理由に問題は解決したので、今となっては的外れだったかもしれませんが、でも悪くない経験だと思っています。


痛みを知ることで強くなれた

本作は、もし今いじめられている人がいたら、ぜひ読んで欲しいなぁと思う作品です。
作中に、

いじめというハンデを乗り越えて 多く痛みを知ることができた これは僕の強みだ(引用:p28)

というタイトルの節があるのですが、それはわたしも常々思っていることだから、とても共感しました。

わたしは上記のような父の元で育ち、もう中高生のころはひどいメンタルでしたが、あれを耐え乗り越えたからこそ、一つの物事をじっくり考えたり、嫌なことがあっても諦めない根性がついたり、苦労を苦労と思わず努力できたり、別の価値観を持つ人を受け入れようとする器の大きさ?ができたのだろうと思います。
それに対して、父親に感謝することは絶対にありませんが、あの生活に耐えた過去の自分にはとても感謝しています。

もし、今いじめられて辛い思いをしている人や、そこからは逃れたけれど引き摺っている人がいたら、この本を読んだら、それを乗り越えた先が書いてあるのではないかなと思います。
伊東さんは成功例です。こんな風にうまく行くことばかりではないし、これだけの強い信念を持てというのは、なかなか酷なことだと思います。ただ、こういう人もいるんだ、こうなれる可能性が自分にも何%もあるんだということを知っているのと知らないのでは、全然違うんだろうなと思います。

ちなみに1,200円(税別)です。学生さんには高いかもしれないので、とりあえず図書館で探すか、なかったらリクエストしましょう。学校がだめでも市や区の図書館はリクエストしたら入れてくれたはずです。


いろいろな正義が渦巻く音楽業界

たまに触れる話の端々から、メジャーデビューして何某かの嫌な思いからそこを離れた経緯があるのだろうなというのは知っていましたが、本作でも「鏡の国のアリス」という曲の歌詞コラムで、

僕が置かれている状況や気持ちを、残念ながら本当の意味で当時の周りと共有することができなかった(p128)

という文章がありました。

わたしは、これとそっくりなことを、言われたことがあります。

わたしは、とあるエンタメ関係の会社でデザイナーとして働いていて、自粛期間になる前はマネージャーの次くらいにはアーティストに会う機会が多い立場でした。(今はリモートなのでオンラインで済ませている)

何年か前、とあるアーティストが大体同じような発言をしたことがあって、わたしはそれにものすごく驚きました。
それはある種とてもかっこよくて、儚くて、ドラマチックな言葉だけれど、近くにいる人を傷つける言葉です。わたしもこの仕事を始める前は、なにやらそこにかっこよさのような憧れを抱いていました。
でも、現役で隣にいるマネージャーの前でそんなことを言って欲しくなかったです。

マネージャーは、アーティスト本人の見ているところでも見ていないところでも、彼らのためにプライベートを捨てて、それこそ寝る間を惜しんで仕事をしています。結果的には間違っていたとしても、自分なりに考えて、より良くなるようにいろんな案を考えたり、試みたりして。それこそ、本人に提示する前にボツにしているものだってたくさんあります。
程度は違えど、デザイナーだって同じ。わたしは専属ではないから、色々な人に携わっているけれど、向き合っているときはいつも全力で考え、時間もかけています。突発的なことも多いので、予定を返上したことだっていくらもありました。
きっと音楽制作に関わる人は皆、多かれ少なかれそういう生活をしているんじゃないでしょうか。

とはいえ他人。すべてを理解することはできません。
でも、だからと言って、理解しようと努めている人を前に、その発言をしてほしくなかった。そのインタビューを横目で見ながら、わたしはとてもショックを受けていました。
そんな言葉、全然かっこよくありません。

伊東さんの場合も、そういう面も少なからずあったのではないでしょうか。
音楽業界はいろいろな立場の人が関わる仕事です。職種も違えば、立場も、そこから生まれる信念も違ってきます。
わたしは、芸術とお金を結びつけるのを悪とするような考え方は嫌いです。お金がないと芸術はできません。もちろんお金のために作品そのものを捻じ曲げるのは絶対に間違っていると思うけれど、お金を稼ぐことを悪とするミュージシャンもファンも大嫌いです。

音楽には、多くの人が携わる分、多くの人の生活があり、立場があり、仕事があります。
それらが違えば、正義は変わる。
別にアーティスト本人の思いが、いつも正義だとは限りません。
アーティストが望まなくても、ファンが喜ぶならそれも正義になりうるし、
アーティストが望んでいても、スタッフが採算が合わないからできないと言うのも正義です。
時には無理をお願いしてしまうこともあります。
だって赤字になったら存続できませんから……。
そして、そこで稼いだお金こそがスタッフの経済状況に直結するのです。

アーティスト本人が裕福でなくてもいいのは構いません。
でも、わたしたちは余裕のある暮らしをしたい。
たくさん稼いで、好きなものを食べたり、好きな服を着たり、好きなところに遊びに行ったりしたい。
アーティストは、仕事と捉えていないことをすばらしいことのように言うことが一般的に多いけれど、わたしたちは誇りを持って仕事と呼ぶし、だからこそたくさん売り上げをあげて会社を大きくしていきたいし、入った給料で自分の好きなことをしたいです。
アーティスト本人がこれこそが幸せだと呼ぶ音楽をするように。

こんな業界だから、はぁ? って言いたくなることもたくさんあるし、言ってたことが変わってるじゃねぇか! とか、こっちが若いからってなめんじゃねぇぞ!? とか、それはアーティストのためにもファンのためにもならないだろう、お前のためだろう!? と言いたくなることもなくはないです。(めちゃくちゃ書くじゃん)
けれど、悪意があってそういう発言をしているとは限らなくて、そこにずっといるから頭が凝り固まっているのかもなぁと思うようにしていますし、自分はそうならないように心がけています。
(伊東さんの件がこの手のことだったら、わたしは共感5000%で固く握手をしたいです……)

伊東さんは、諦めていないという旨のことを書いていてくれて、救われた部分もあるし、彼がどのような環境でどのような状態に陥ったのかわからないけれど、いつか彼の中でこのことについても昇華する日がきたらいいなと願います。


恋愛をしないと決めていることについて

最後に恋愛について。
伊東さんは恋愛をしないと決めている?ようで、それはもともと知っていたのだけれど、その理由が

大切に積み上げてきたものを 壊すかもしれない“恋愛”とは 少し距離を置いている(引用:p78)

という節に書かれていました。
これについてはものすごくなるほど、と納得したと同時に、彼のファンである友人が「恋愛をしていないと言っているけど、絶対してるから隠さなくていいのに(笑)」と話しているときに感じた違和感を思い出しました。

違和感は2つあります。
1つは、恋愛をしない人はこの世には沢山いるのに、なぜファンは皆その人が恋愛していると決めつけてしまうのか、ということ。
もう1つは、そんなに好きなのに彼のことばを信じないのか、ということです。

1つ目は、この業界にいるとあるあるすぎてネタになっていることではあるのですが、いわゆる匿名掲示板で、異性のスタッフがアーティストと関係を持っていることになっていたり、何年も恋人がいないアーティストが異性関係にゆるかったり、恋人が云々、繋がりが云々、というような情報が実しやかに語られているようなことです。
事情があって、匿名掲示板を嫌々確認することになった時(なぜかそこでは常々スタッフが見ていることになっていますが、そんなスタッフ聞いたことがないし、見ていたり内容を信じていたら周囲から馬鹿にされると思います)、そういう書き込みを見ると、毎度のことながら頭がくらくらしてきます。

もちろんあそこの住人と普通のファンたちは別物ですが、それでも共通してある「アーティストには恋人がいるに決まってる論」というのは、もちろん、そのアーティストがファンにとっては最大限に素敵で、こんな素敵な人に恋人がいないわけないじゃない! という発想からきているのだろうと思うのですが、スタッフからしたら同僚や上司のような立場で、裏のダメなところも散々見ているので、そういうフィルターの掛かった見方はどうしてもできないのです。だって、裏の姿を見ている時間の方が圧倒的に長いですから。
一般的にも、他社の人から、なんでこいつが? みたいな人のことをかっこいいと言われたりすることがあるでしょう。例えばプレゼンの後とか、商談のあととか。それと同じです。表舞台に立っている時、人はみんな輝いて見えるのです。

つまり、アーティストでも恋人がいない人はざらにいるし、作るつもりさえない人も沢山いるでしょう。
伊東さんの言うように、リスクを理由にしない人や忙しくて恋愛する暇がない人、そもそも興味がない人、理由は様々だと思いますが、ファンが沢山いることと恋愛はまるで関係がないのです。


そして、2つ目。
本作でも、伊東さんも、これはSNSについてですが、

裏側をすべて見せていない以上、そうやって誤解されることはある程度仕方がないなと思いっている。(引用:p125)

と語っています。

わたしは、自分がファンという立場にいるとき、裏側がどうであれ、表で話していることをすべて信じよう、と考えています。

それは、わたしが昔から「騙されてやばい壺買わされそう」と言われる所以なのかもしれないけれど、わたしは基本的に人の言葉を信じます。最初から疑ってかかるなんてことはまずしません。発言に対してもなるべくいいように捉えるように心がけるし、万が一傷つけられるようなことを言われても、その言葉の隅っこにあるポジティブな面を見つけようと心がけています。

伊東さんと同じで、わたしもこのことで嵌められたり、利用されたり、笑われたことが、数え切れないくらいあるけれど、でもそれでもこの信念は曲げないようにしています。

それに、好きな人ならなおさら信じたい。
もしかしたら事情があって何かを隠しているのかもしれないけれど、何も隠さず生きていますと言っている人に対して、隠しているのだろうと疑ってかかるのは、その人を傷つけることにつながる気がして、わたしはしたくないのです。

もちろん彼女たちが彼を疑って掛かっているわけではなく、恋愛していても嫌いにならないよという意思表示として言っているのは理解しているのだけれど、わたしはどうかその言葉そのものを信じてあげてほしいなと思います。

極論、真実は別にどうでもいいのです。つまり伊東さんに恋人がいようがいまいが、どっちだってよくて。
どっちにしたって、アーティストとファンはそれぞれある一面同士の付き合いだと思うので、その触れ合っている一面でどう付き合うかが大切ではないかなと思うのです。ファンの方だって、ファンである自分以外にも色々な面を持っていますしね。

ことに、恋愛については、その有無や形も様々で、事情や考えも色々あると思うので、言えること言えないことがあるし、守るために秘密にすることもあるあと思います。

ちなみにこの2つはおおよそその友人と話したことがあって、気持ちに変化があったかはわからないけれど、わたしなりにこうなんじゃないの? と伝えたことがある内容です。彼女もこの本を読んだら、気持ちが変わるかもしれないので、また機会があったら聞いてみたいと思います。


最後に一言

というわけで、めちゃくちゃ長くなりましたが、以上です。
知り合いでないとはいえ、生きている世界がものすごく遠いわけではないので、いろいろと自分のこととして考えることができて面白かったです!
ROCK AND READみたいな、そういう人の生い立ちにまつわる文章を読むのは割と好きなのですが、正直今までで一番共感できる部分が多かったと思います。
わたし自身しょっちゅう「そこまで考える必要なくない?」と言われるくらい、物事を考えまくる人なので、そういう点で、内容や方向性は違えど共感できたんだと思います。

こういう本読むのも楽しいなぁ!
他の人のも読んでみようかな。


この本は誰でも読める簡単な言葉で書かれているので、<学んだ言葉>はお休みです。


最後にこの本のテーマソング?があるので、そちらを貼ってお別れです。
長いのに最後まで読んでいただきありがとうございました〜!

(この動画初めて見たんだけど、コメント欄がものすごく熱い……なんかいいね)


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