【架空文通】並木さんのお手紙に対する返事（水たまり、鬱、スルー力、弾き語り）

並木さんへ

　お元気ですか。八月に入り、猛暑が続いています。

【水たまり】
　水たまりを避けながら歩くのが嫌だ、とのこと。
　お気に入りの革靴を履いて営業で外回りをする時なんか、本当にそんな気持ちになりますよね。私なんか、竹馬を調達したくなります。そしたら、歩幅も大きくなるので、取引先に早く着くようになり、一石二鳥だな、と思ったりします。ビジネス竹馬という三段伸縮式の黒いカーボン製のものを実用新案出願しようか、と思ったこともあります。
　でも、思い出したのですが、子供の頃はばしゃばしゃと直進しませんでしたか。わたしは希代の迷惑系小僧として有名だったので、水を撥ねさせるのがアニメの巨大ロボットが勇猛に海上を進んでいく姿とだぶり、「ガシャンガシャンガシャン」と叫んで、所かまわず泥水を撥ねさせて、同級生のおとなしい性格の安岡君も一緒になって遊んでくれて泥だらけになったら、後日、彼の母親に、もうあの子と一緒に遊んではいけません、と通達を出されました。

【鬱は大丈夫ですか】
　鬱は大丈夫ですか、とのこと。
　はい、もう、大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません。最近やっている、ハーブによるリフレッシュ効果と、生薬を含むユンケル黄帝液による倦怠感の除去効果と、その生薬である淫羊霍という草を栽培して食べていることによる倦怠感の超除去効果と、アメリカから取り寄せたロディオラという脳内物質エンドルフィンに作用するサプリメントを食べていることによる意欲増進効果で、すっかりアニマル浜口のようになりました。

【スルー力】
　経営にはある程度のスルー力が必要であることが分かった、とのこと。
　何を細かく見て、何を放置しておくべきなのか、その匙加減が難しいのですが、簡単に言うと、今、この状況で部下の独り立ちを優先していいのかどうかによると思います。
　そうそう、可能性を信じ、まだ見ぬ世界に恋焦がれ、早く未来の自分に会ってみたいと思っていると思われる貴殿に良本を紹介します。『ディズニーＣＥＯが実践する十の原則』という本です。タイトルが良くなくて、ハウツーものではなく、自伝です。ひねくれ者の私でさえも、うん、まあまあなんじゃない、と言わざるを得ない内容です。
　え、これを読むに至ったきっかけは何だ、ですか。実は、私はビルゲイツとスティーブジョブズを尊敬しているのですが、その二人がこの本を推薦しているのです。世界のツートップに推薦されたとなれば、しょーがねーな、もう、読んでやるよ、とならざるを得ないじゃないですか。

【弾き語り】
　インスタに弾き語りを載せていたら、尊敬している人からいいねされた、とのこと。
　それは嬉しいですよね。貴殿がそのいいねを何度も見返している様が目に浮かびます。その弾き語りを私も見たいです。
　ちなみに私は歌が下手で、私が歌うと自分より下手な人がいたんだと誰もが安心するので、カラオケでは最初に歌うようにしています。私が永遠に理解不能なのは音程です。音程って何ですか、と訊いて、科学的に答えてくれた人がいないのです。これでは再現不可能です。生まれたての亀が泳げるように、習わずして歌が上手い人を見ると、もうこれは遺伝で勝負が決まるものなんだな、と悟っています。

【最後に】
　お盆休みが近づいてきていますが、今年はコロナでどこにも行けそうにありません。せめて、隣の県の鎌倉、江の島に行って、浜辺を裸足で歩きたいものです。
またね。