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秋の備忘録

先日、親戚の法事があった。

次の日学校があった私は、電車で帰るためにお寺の最寄り駅まで車で送ってもらった。
次の電車が来るまでしばらく時間があり、両親と妹は時間まで待つよと言った。

駅の隣にはラジオ局があり、90年代に流行ったのであろう音楽が流れていた。

秋晴れのきれいな空の下で、喪服の母と二人で話していた。ふと、どこかで聞き覚えのあるようなイントロが流れてきた。母はちょっと嬉しそうに「スピッツのロビンソンだ。この曲大好き。」と言った。

あー聞いたことあるぞこれ、確かに母が好きそうな曲だ。なんて思いながらぼんやりと雲一つない秋空とラジオ局を見つめた。

電車の時間が近づいてきて、父と車に積んだ荷物を取りに行った。駅の脇の駐車場を歩いていると、父がぼそっと「スピッツか」とつぶやいた。J-popに疎い父の口から「スピッツ」という単語が出てきたのは、なんだか意外だった。

普段両親は、特に仲が良いわけではない。
両親を見ていると、時々「なんで結婚したんだろう」と不思議に思ったり、夫婦なんて何十年も一緒にいればそんなもんなのか、と思ったりする。

だから尚更、父と母の口から「スピッツのロビンソン」という同じ音楽が出てきたことが妙に嬉しかった。

アパートに戻って数日、なんとなく音楽アプリで「スピッツ ロビンソン」と検索した。

曲の概要欄には「1995」の数列。

もちろん私はまだ生まれていない。それどころか、父と母も出会ってすらいない。

母はまだ東京で働いていて、父は海の近くの支店に勤めていた頃だ。

誰も触れない二人だけの国
君の手を離さぬように
大きな力で空に浮かべたら
ルララ宇宙の風になる

スピッツ/ロビンソン

私が生まれる前
両親が出会う前

20年以上も前に出たこの曲を聞いて、父と母は何を思ったのだろうか。

若かりし頃の日々を思い出したのだろうか。
懐かしい誰かのことを思い出したりしたのだろうか。

そんなことは私の知る由もない。

ただ、そんな遠く過ぎ去った日々を経て、当時は赤の他人だった人間が同じ曲を聞いて「懐かしい」と思うことが不思議で、面白くて、なんだか嬉しいことだなと思った。