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沼底エッセイ

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友人たちの何度も読みたい粘土系セックス・ノート
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2019年4月の記事一覧

父性の砂糖漬け

父性の砂糖漬け

くちのなかで転がす、昏い欲望。わたしには、甘い。

第二夜つまみ食いは一口目が一番美味しいから、ほんとうはもうあれきりでもいいかなと思っていたのだった。恋愛をしたいなら後朝に連絡をしたほうの負けだとわかっているし、勝ち負けでしか恋愛を測れないわたしは所詮、勝ち負けのある恋愛しかしたことのない女だ。けれど、今わたしたちの間にあるのは、恋でも愛でもない。

軽くジャブを打ってみたら気の利いた返しをされ

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男と閃光

私が車に乗り込むと川島さんはすぐに車を出発させた。

レトロな雰囲気の車内にあるカップホルダーには買ったばかりであろう温かい珈琲が置いてある。口をつけられないぐらいまだ熱い。

いつだって川島さんは温かい飲み物は温かいまま、冷たい飲み物は冷たいまま私に届けてくれる。隅から隅まで痒いところに手が届く。人柄は勿論、こういうところも川島さんを信頼できると感じた由来だった。文句のつけようがないほど私のこと

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鬼塚

鬼塚

 肉は臭く、キムチは包装がやかましかった。濃縮カルピスの紙パックにはうっすらと埃が載り、柑橘類は皮に無数のシワができていた。線路沿いに広がる宵の商店街を無目的に出歩いて、店々を冷やかして回るけれど、そもそも所持金を確認しないまま外に出ていて買い物の意欲があったわけではなかった。大学生で、慢性的に金欠だった。
 線路脇のガードレールに尻を持たせて踏切を眺めた。褪せた警告色のバールが下がり電車が通り抜

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