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おとぎ話に終止符を【吉澤嘉代子】

吉澤嘉代子という、少女のようで大人な魅力を持つ歌手を知っているだろうか?


私が吉澤嘉代子を知ったのは、アルバム【東京絶景】
こちらのnoteでも書いているが、


RYTHEMの新津由衣がラジオか何かで挙げていたのが、吉澤嘉代子の『胃』という曲だった。
大好きなアーティスト、新津由衣のオススメ曲。
聞くしかないじゃないか、と思い、すぐさま検索した。
しかし、この曲はストリーミング配信されていなかったので、この曲が入っているアルバムを購入した、というわけだ。
そこから吉澤嘉代子については、新譜が出たら聞く、という程度だった。

昨年発売されたアルバム【赤星青星】
そこに収録されている『サービスエリア』
この曲を私は見逃していたのかもしれない。

いや、アルバム全曲一聴したはずなので、聴いていないなんてことはないはず。
それにしてもこの曲を一聴して手を止めなかった去年の私は、どこか上の空でこの曲を聴いていたのかもしれない。
というか、そういうことにしておきたい。
先日、Spotifyのシャッフル再生で『サービスエリア』を聴いた時、私は思わず作業の手を止めてしまったのだから。


吉澤嘉代子の魅力については、先に挙げた以前のnoteでも触れているが、
彼女の歌声は、

時に、恋に焦がれる可愛らしい陽だまりのような少女。
時に、哀情を知った夜の灯りに照らされながらしたたかに生きる女性。

そんな少女と女性の表裏一体感を表現できる歌声なのだ。
女の子の優しさや芯の強さ、そして不安定さまでも表せる魅惑的な歌声だ。

先に挙げた分類でいうと、『サービスエリア』は、女性の歌声の曲だ。
薄暗い街灯の下、ポツリと止められている車内での意中の相手に焦がれるある女性の様子が歌われる。
大人な女性の恋愛ソングかな、となんとなく曲の背景を空想しながら曲を聴く。
そしてサビの部分でこの言葉が歌われる。

滅びのキスでこの世の息を止めて


この言葉に、ぞくっとして、私は思わず作業の手を止めたのだ。


恋い焦がれる歌だと思ってなんとなく聴いていたのだが、
そんな明るい想像から放たれたのが
「滅びのキス」という言葉。
私の頭の中目掛けて一本の矢が放たれて黒い染みが溢れ出す、みたいな感覚に陥ってゾッとした。
そして「この世の息を止めて」という呪いのような一言。

それしかいらない。
それがあればこの世が終わってもいい。
そんな思いが含まれているかのような言葉。
この言葉の本当を知りたくて、私は歌詞を遡った。


そしてこの曲を見返して引っかかったところが1つ。

サビのどきっとする言葉の前には、今の状況の背景を説明するかのような、少し古めかしいときめきと期待を持ってしまう言葉の数々。
他にも綴られる、艶っぽい視線で語られる情景。
女性のドキドキが伝わるような、恋というフィルターを通して映し出されるキラキラした光景のはずなのに、サビに入った途端、一瞬視点が切り替わる。

恋人たちは遠い星に辿りつき
何時ぞや燃えちる

恐らく彼女の視点で繰り広げられていた光景から急に繰り出される第三者の視点。

この恋人たちは、彼女たちのことなのだろうか…?
今まで彼女の語りだと思っていた情景は本当に彼女が見ていた景色…?
箱庭で繰り広げられる情景を神視点で見ている何者かがいる…?
いや、もしかしたらその箱庭の情景こそ、第三者が創り上げた物語なのか…?

と思ってしまうほどの場面展開(視点移動)である。
もしかしたら、彼女が幻想にみた、おとぎ話のようなエピソードのお話なのかもしれない。


目の前のあなたに思いを馳せながら、
「恋人たちは終いには燃えちる」のよ。と、まるで自分に言い聞かせてるのかもしれない。
だからこそ、そのあとの言葉が続いた、と考えれば紡ぎ出された呪いのような言葉にも納得がいく。
この幻想のおとぎ話に終止符を打つために。

「滅びのキスでこの世の息を止めて」


私は恋愛曲に対してどこか苦手意識を持っているのだが、なぜかこの曲には惹かれてしまった。
誰かを愛するということは、自分を消費することだと私は思っている。
私に言わせてみれば、無償の愛なんてものは、まやかしなのだ。

人を好きになる、愛するってどういうことだろう、と、ふと考えたこともある。

街で見かけた商品を、「あ、これあの人好きそうだな〜」って考えること。
一緒にいて屈託無く笑えること。
…この人となら地獄の果てまで一緒に行ける、と思うこと。

きっとそのどれもが間違いなく愛。
自分をないがしろにしてまで誰かを愛してしまう人もいるかもしれない。
自分を見失って相手に縋ってしまう人もいるかもしれない。
いや、多分何の自制心も持っていなければ、
きっと皆自分の全てを消費してでも人から愛されたい、と願ってしまうのではないだろうか。
愛はエゴの一種で、それしか見えなくなってしまう、麻薬みたいなものだ。
自分の気持ちが制御できなくなって、酔いしれて、自分自身でもわからなくなって惑わされて、幸せなままこの世界が終わってくれればいいのに、と思ってしまうほどに。
甘美で魅力的で危険な存在。


だからこそ、
「滅びのキスでこの世の息を止めて」
という言葉の自分勝手さが、まさに私が思う愛そのものに感じたのだ。

おとぎ話のセリフのような、一見するとロマンチックに感じてしまう、この言葉の響き。
そんな言葉から、呪いをかけられたような、逃れようのない運命すら感じてしまう。


ときめきを感じる恋愛の曲のはずなのに、
死の淵から顔を覗かせているような刹那があって、ゾッとする。
「後ろなんて見ずにまっすぐあなただけを見てるの。だからわたしから目をそらさないで」とでも言っているかのような、
芯のあるまっすぐな歌声で紡がれる言葉によって、聴き手は知らぬ間に甘美で妖しい曲の世界観に没入してしまう。

吉澤嘉代子は、幼少期、魔女になるために修行をしていた、とあるインタビューで語っていたが、もしかしたら本当に彼女は魔女なのかもしれない。
こんなにも歌声で世界を作り変えてしまうのだから……。


少女が夢見たおとぎ話の恋人たち。
大人になった彼女が夢見たのは、そんなおとぎ話の世界だったのだろうか。
もしかしたら、彼女はそんなおとぎ話を忘れるくらい、もう目の前しか見られないくらい陶酔してしまっているのかもしれない。


そしてこの曲に魅せられたわたしも、
もうすでに彼女の呪い(まじない)にかかってるのかもしれない…




吉澤嘉代子が創り上げてきたいろんな世界。
それはどれもどこか不可思議で、
次はどんな世界でどんな女の子を演じるんだろう…!
とワクワクしてしまう。

もしかしたら本当に、
吉澤嘉代子は魔女なのかもしれない。



きいろ。


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